小日向 啓之 > 隣、いーっすか? ( 月光輝く夜の事。その男はふらりと音もなく現れて、コンビニの袋を片手にそう告げた。凍てついた風に、キィ………と、金属製の錆びた鎖が音を立て揺れる。バネ足の動物が虚ろな瞳を向けていた。煌々と並んだベンチの幾つかを照らす蛍光灯が点いては消え、消えては点く。今の時期では、寄り付くような虫も居ない。遠くから猫の鳴き声がする。整備される事もない公園内、古けたベンチに二人きり。はぁ……と吐き出した息は白く染まり、染まった先から消えていく。新しく肺に入り込んだ空気は白く染まることもなく、ただ元の場に還っていく。空気は揺らぎ、男は笑った。『 あ"、今日は、つか今日も、別に衆目稼ぎとかじゃあねぇんで、吹っ飛ばされるのは勘弁っすよぉ…、寒空の下野宿したら風邪引いちまうし、どやされかねねぇんす。 』ただし、ちょっと焦り気味に。あんまり好かれてはいないこと、多分好かれることはないであろうこと、そもそも話してもらえるかどうか。目下の問題は認知していた。それでも声をかけたのは、つい、なんて曖昧な理由にしておこうか。) (1/10 21:37:19)
因(ゆかり) > 「………ガキの頃、小学校だったろうかなあ、………職員室に入るときの“失礼します”が嫌いだった。別に失礼な事なんてしやしねえし、云うだけ意味のねえ言葉だと思った。アンタのソレもそうだ。………良し悪し以前にそうする事が大前提だ、馬鹿らしい。それなら最初っから無ェ方が良いって思わねえか…?」(彼は君の焦燥の混じった愛想笑いみたいな顔を見向きもせずにただ黙って時間が経過するのを待ってから、ぐいっと片手に握られた焼酎を煽ってやっと吐いた言葉がそれだった。そう、意味の無い物なら最初からない方が良いに決まってる。何も救えない正義感ならそれはただのエゴだ。何も守れない両手ならただの飾りだ。最善策が浮かばない頭はただ空虚に風に飛ばされないために着いたさかさまの錨に過ぎない。)「そいじゃあなんだ?俺ぁアンタと話す事なんざ微塵もありゃしねえぜ………、」 (1/10 21:48:10)
小日向 啓之 > あぁ、あったっすねぇ………ノックは3回とか、返事ははい1回とかぁ…、なんで言うようなのか、とか、当時は考えもしなかったっすけど。( 酒が不味くなるから帰る、そう言われる可能性も危惧していたが、それは杞憂で済んだようだった。尤も、かけるまでもない相手であると見なされている可能性もなくはないのだが。失礼するならかえってくださーいとか、餓鬼の頃には巫山戯たじゃれあいをしたもので、言ってしまえばただの玩具のようでもあった言葉。礼儀作法や、立場というのを意識させることがよくよく考えればあったのかもしれない。大抵、目上の人の場に立ち入るときに言う台詞であるから。『 申し訳ねぇけど俺はあるんすよ。…………他の人にも散々言われてたとは思うんすけど、…おっちゃんは此方側、都合良くいうとヒーローってのになる気とかはねぇんすか。……若しくはまた、リングに上がるとか、そーいうの。 』開いた足の間に手はぶら下がり、猫背で点いては消える向こうの電灯を見た。耳にタコであるかもしれない。しつこいとも。ただ傷を抉ってしまうだけになるリスクも飲み込んで。) (1/10 22:05:11)
因(ゆかり) > 「誰かを救うとか、誰かを守るとかってやっぱエゴイストの自己満足なんだろうなあってのがアンタと話してるとよく分かる。……テメェ、俺の話聞いてなかったのか?意味の無ェもんなんざ最初っから無ェ方が良いっつってんだ。押し付けがましいエゴイスト共は人の話に耳を傾けねえからエゴイストなんだぜ…」(彼はぎしり、とベンチから腰を浮かす。その瞬間に、椅子は体感で確信できるほどに持ち上がる。否、圧迫されていた状態から元に戻ろうとしただけなのだろうが、君の身体はベンチと共にワンインチほど持ち上がる事だろう。) (1/10 22:26:33)
因(ゆかり) > 「テメェは俺をリングに上がらせてまたママゴトの続きをさせてぇのか?そうでなけりゃ何か?ヒーローになって俺が………、いや、良いか………。なんでもねえ。」(彼は数歩そのまま歩き出せば点滅する街灯の下まで歩みを進めて立ち止まり、残った酒を飲み干してしまう。大柄なその身体にはあまりにも相対的に小さく見える酒瓶を地面にコトッと丁寧に置いた。そして、深く息をふぅぅぅぅぅうっと吐き切れば、大きな拳を持ち上げて君の方を振り返ると同時に顔の前に揃えて構える。)「……………………やっぱ俺ぁ言葉も脳みそも使ぇねえや、アンタが何してえのかさっぱり分かんねえよ。だからよぉ……おら、来いよ。」 (1/10 22:26:35)
小日向 啓之 > そりゃどぉも。……………あーー"…………まじっすか。( 言葉少なに頷きただへらりと笑った。笑ったとて、別に愛想が良くなる訳でもないのだが、笑うしかなかったというのはこういう状況を指すのだろうか。全くもって、正論でしかなかったが為に。貴方が立ち上がり、ふわりと一瞬身体が浮き上がる。他よりも低いベンチではあったが、それは貴方が座っているというのが原因であったらしい。壊れることのないベンチは年期の割には逞しくあったが、…それだけの培ってきた重みが乗っていたのだと思うと肝が冷える。それが、今目の前で対峙しているとなればなおのことだ。立ち上がり、スポットライトのような街灯に照らされた肉体はやはり大きかった。一回りでは追い付かない程に、気耐え抜かれた肉体が曝される。 (1/10 22:55:08)
小日向 啓之 > ………元総合格闘技ヘビー級8年連続世界チャンピオン記録保持者。この者の技を正面から受けたこれまでの挑戦者も、あの女性も、…全く、恐ろしいの一言に尽きる。立ち上がり脱ぎ捨てたパーカーがベンチに置かれた袋の上に被さった。身長でも筋肉量でも、まるで子供と大人くらいの差があるだろう。『 ……いや、まじすか。…小日向 啓之っつーもんです。 』剣技がメインであるが為に、体術の心得は浅い。だが、照らされるリングの中貴方の分野で闘うことを選んだ男は息を吐き出し、真っ直ぐに見据えて拳を構えた。頭の中に思い出すのは、貴方の試合の実況動画。腰の捻りも拳の繰り出し方もまだまだ甘いが、地を蹴り男は貴方の懐に潜り込む。繰り出すは、[ …………おっとここでいきなり得意の────貴方の得意技であった右フック────ッ!!) (1/10 22:55:10)
因(ゆかり) > 「甘ェなあ、…身体もなよっちければ知識も無ェ……」(脳裏に蘇るのはあの頃の栄光、戦うのが好きだった。リングの上で互いの人生を言葉もなく語り合うのが好きだった。それに賭してきた年月を相手の拳から痛感し、受け止め、互いに通じ合うような拳のやり取りが、大好きだった。負けようが勝とうが、互いの全力を注ぎ込んでぶつかり合えるのが嬉しかった。自分の様なクズを真っ向から受け止めてくれるあのリングだけが居場所だった________【おっとメイウェザー選手笑っているか!?未だ一度もヘンドリック選手の拳は当たっていません!あまりにもリーチが違い過ぎる。いくらパワーが有れど、当たらなければ意味はない!メイウェザー選手、このまま50試合ダウンせずに記録を達成するのか、はたまた、ヘンドリック選手が奇跡を起こすのか!?さあここでメイウェザーのロングブローッッ!!!!】________) (1/10 23:14:28)
因(ゆかり) > (次の瞬間、君を襲ったのは、視界の端から何の予兆も無く放たれたミドルキックであった。【ヘンドリック選手ッ!!あのロングレンジを“砦落とし”で薙ぎ払ったぁあぁああああッッッ!!!!】彼が現役時代アウトボクサーやロングレンジの対戦相手と戦う際、ここぞという時に使っていたその砦落としと呼ばれた技は、俗世で言う処のムエタイキックであった。あらゆる格闘技の足技の中で最も速度の乗りにくく、反してどの格闘技よりも重い蹴りを繰り出すことで有名なムエタイは、彼の圧倒的な筋力により爆発的な速度と威力を誇る。君は事前に彼の戦闘を見ていただろう。その構えからボクシングを主な戦術として活用していることも知っていただろう。だから君は彼のフックを真似たのだろう。だが、それでは浅すぎる。)「____あのなぁ、良い事教えてやる。お前ら日本人が云うボクシングってのはなあ、イギリス式ボクシングの事だ。ボクシングってのは色んな型の根本でしかない、サバットはフランス式ボクシング、ムエタイはタイ式ボクシング、拳だけがボクシングの武器じゃねえぞ。」 (1/10 23:14:40)
小日向 啓之 > ッ"が ───── ッ ッ ッ "!!!!!!!( 1。あぁ、おまけに思考回路も甘々だ。2。拳は貴方に届くことはなく。3。貴方には予期しない動作に目を見開く男の顔が見えただろう。4。男は貴方のミドルキックに簡単に身体をぶっ飛ばされる。5。鈍いを越えて熱い痛みに悶える。6。貴方の此れまでの挑戦者と比べれば、弱いにも程があった。7。……だからこそ、咳き込みながら笑って『 ッ"あ"……っっ、は、はーー""……っくっっそ、ん"なのも……っ、あるん、すか 』8。立ち上がるんだ。9___10カウント以内に立ち上がり、拳を構える。ボクシングの勝敗のルールだけは、それだけはまだ知っていた。リングを降りるにはまだ早い。『 ッ"____ アンタは強ぇッッッ!!!!!』俺も、 『 だからこそ嫌なんすよ………ッ"、んなアンタがっっアンタ自身がこれをっ、ままごとだと言っちまうのもっ!!!!ッッん"っっっな淋しそうな目をしてんのも!!!!!! 』アンタだって!!!!!! (1/10 23:52:46)
小日向 啓之 > 叫ぶ度に骨が軋むようだ。手加減はされているのだろうがあまりにも痛い上に、不甲斐ない。手加減がなければ下手すれば死んでいるし気絶している。手加減してでももらわないと、こうして声を発っせやしない。臆病であるから、【ライセンス:勇気】ただでは立ち向かうことすら出来ない。貴方は1度でも、この男に心の底から目を向けただろうか。男の動きは先程より鈍い。それでも愚直に突っ込み、ただ貴方へ向けて拳を放った。) (1/10 23:52:49)
因(ゆかり) > 「………、なんだよ。良いモン持ってんじゃねえか。」(終了のゴングはどうやらまだ鳴ってはくれないようだ。そりゃあ、まあ、そうか。心のどこかでそうであってほしいと願っていたところはあったのかもしれない。自分を蹴落として大衆正義となったヒーロー達が一発の蹴りでもう立ち上がれないようじゃ遣る瀬無いじゃあ済まない。彼はもう一度、拳を構え、次は強く拳を握る。もう手加減は要らない。真っ向からぶつかり合うっていうのは相手の恨みも辛みも僻みも妬みも憎悪嫌悪それら全ても受け止めるという事に他ならない。故にリングの上で拳を構えたのなら、相手の人生を賭した拳に打ちのめされて二度と立ちあがれなくなっても文句なんてあるわけない。ヒーロー、アンタもそうなのか?) (1/11 00:12:45)
因(ゆかり) > 「44.___________」(格闘家にとって自分が磨き上げた技とはそこに賭けた年月とは人生の全てだ。彼が生きた44年間の全てがそこには蓄積されている。今度は、君の拳を薙ぎ払う事も無く、真っ向からその拳を身体で受け止める。鍛え上げられた鋼の様な肉体の前に多少訓練された男の拳なんてマトモなダメージになるはずもないが、体の芯に通る何かが在った。もしもそれに名前があるのなら、それがきっと意思という物なのだろう。)「 M a g n u m ______________________ ッ ッ ッ ! ! ! 」(それはただの純粋な右ストレートだが、彼の人生を全て賭した一手であった。44年の全て、彼はそれを44.マグナムとそう名付けた。その名の通り弾丸に匹敵するほどの瞬間加速度を持つ拳は空気抵抗によりソニックブームを起こし銃声の様な轟きを響かせることとなる。人間の限界を超えバケモノと呼ばれるに相応しい怪力から完成されたボクシングのフォームによって放たれる拳は格闘知識を有する彼の一切の無駄の無い力の伝え方によって拳大の弾丸へと変貌する。) (1/11 00:12:50)
因(ゆかり) > (……………ギィ…、_________君が聞いたのは身体に砲弾を食らい鈍く肉が潰れる音でもなく骨が粉砕される音でもなく、彼の拳の遥か先で風圧により揺れたブランコの軋みだけだろう。敢えて君の拳を受け止め相対速度を落としてから放った拳は君の顔の横を通り抜け、圧迫され逃げ去った空気によって生み出された真空でカマイタチと同じ原理の切り傷が君の頬に少し浮かぶだけだ。) (1/11 00:13:30)
小日向 啓之 > ……………バカならバカらしく愚直にあがきゃあ良いじゃないっすか。…なに、バカなのに小難しいこと考えてるんすか。( 貴方の44年間磨きあげられた弾丸が男の頬を掠めるに留めたのは、貴方の拳を真っ直ぐに受け止めるために、男が一切動かなかったからだ。当たれば死ぬ、直感的に理解させるその気迫は竦み上がるほどで、僅かに気を抜けば身体が震え出すだろう。それでもただ真っ直ぐに見詰め、一切の回避行動を男は取らなかった。故に、貴方の拳の軌道上に男の頭は無かった。だが、故に無傷でもなかった。この拳を貴方が受け止めたのなら、その意味、その意思なんて分かるだろう。 (1/11 00:36:57)
小日向 啓之 > 『 ……アンタの44年間が意味なんてなかったっつーなら、俺が意味を与えてやる。 』奪った側が言えるような台詞でもないだろう。もしも、ヒーローというものがいなければ、世界がこんなでなければ、貴方はこんは想いをきっとせずに済んだんだ。もう手を伸ばすのも嫌になってしまうほどに、こんな所で1人きりになることなんて、きっとなかったんだ。だが、なぁ───あまりにも悔しいじゃないか。加害者だからとか罪悪感がとかそんなもの微塵も残さずに吹っ飛ばして、純粋なエゴイズムでもって。1度引っくり返った世界なら、〝アンタがヒーローになって〟もう1度、こんな世界引っくり返してしまえ。) (1/11 00:36:59)
因(ゆかり) > 「…………、そうだな。」(はぁ、とひとつ酒臭い溜息を吐く。それからドスン、とその巨体を地面に落としては地べたに座り込み、胸ポケットから煙草を取り出す。安っぽい紙のパッケージから取り出した煙草はくしゃくしゃに曲がっていて、それでもまだ吸えはするようだ。それを咥えてから、百円ライターで火をつけようとするが、どうもオイルがフリントが切れたらしい。)「…っくそ、……お前、火ィあるか?」(地べたに胡坐を掻いた彼は頬杖を着きながらもう片方の手を君の方に差し出してライターを催促する。)「なぁぁんも知らねえアンタにそうまでさせるんだ、俺のくそったれな人生にも"何か"は在ったんだろうな。…俺にはそれがなんだか分からねえし、未だに俺がまたリングに上がらなきゃならねえ理由も、上がりたいかどうかも、ましてやヒーローになりたいかなんて分かんねえけどよぉ……、……まぁ、…ガス抜きにはなったぜ。」 (1/11 00:46:47)
小日向 啓之 > っはーー…………… ( どさりと地面に大の字で寝転んだ。座ってなんていられるか。何せ、横っ腹が痛い。今カミサマが来たらそれがなんであろうと終わりな気がする。ただまあ、あまりの痛みに頬の傷や地面の寒さの方は忘れられる気がした。それが良いことかは分からないが。『 あ? あ"ーー……、ッしょ、…………ん、どぉぞ、 』指先の1本も動かしたくない気分であったが、無理矢理身体を起き上がらせ、ベンチに脱ぎ捨てたパーカーのポケットを探る。見付けるなり、男はその場で貴方に向けてライターを投げ、一瞬の思案の後、自らの煙草は取らずに。またパーカーは力なく項垂れた。片膝を曲げて、今度は寝転がらずに地べたに座る。痛いが、腕と足に体重を預ければまだいけなくもない。『 なぁんも知らねぇ俺でも、そうなっちまう程の何かがね。………たぶんっすけど、もっと知ってるような奴等はもっと、なんとかしたかったんじゃねぇかって、ただ廃れてくアンタをただ見てんのは悔しかったんじゃねぇかって、…そー思うんすよ。……………なんにせよ、本気でやりてぇってことが見付かったら、…俺はアンタの事、応援してるんで。 』 (1/11 01:09:04)
因(ゆかり) > (酒のせいか、厚い肉のせいか、はたまた久しく全力で拳を奮ったせいか、寒さはさほど感じなかった。風が二人の間を吹き抜けるさまはあまりにも空しい。かつて魂を乗せた筈の拳は今、生活の為に郵便物を抱える日々の虚無に埋没している。明日もバイトだ。それでも、こんな事をしている時間があるのなら少しでも休息を、と思わなかった夜は何年振りか。)「………ありがとよ。」(受け取ったライターで煙草に火をつけた彼はそれを君に投げ渡し、立ち上がった。街灯の下で待ちぼうけしていた空き瓶を拾い上げて。主語の無い感謝を呟いては、吐き気を催す様な虚しい現実に戻る為に、夜明けが心を壊す前に寝床に戻ろうとその爪先は帰路へと向き直る。その左手の薬指には未だ意味を失った指輪が淡く光沢を魅せていただろう。) 〆 (1/11 01:17:28)