雨夜鳥&マックス

雨夜鳥 志乃紀 > (唐突に、雨は止んだ。否、彼女を雨宿りさせてくれるだれかが現れたらしい。)「っぁさ、……ま、くす、くん……?」(ぼつぼつ、ぼたぼたとなる雨の喧騒の下。世界から切り取られたみたいな静寂のなかで彼女は一人立ち尽くして、自分の傍に佇む一つの影に安堵して。そしてそれから、ほんの少しだけさみしそうに俯いて涙をぬぐうのです。)「ごめん、ね、」(君の問いに小さな頷きを返してから、彼女は君に後続し、雨の道を歩くでしょう。)(彼女は小さく誤った。大丈夫、でもない。何でもない、でもない。帰りましょう、でもない。ただ一つ小さく、ごめんね、とだけ。)   (1/11 20:25:44)
雨夜鳥 志乃紀 > (君が彼女を連れて腰を据えたのは、一つの小さなバーだった。昼間には喫茶店として出しているらしいそこは暖かい空気を纏っていて、柔らかな音楽と、大人びた苦く甘い香りに包まれている。まだ雨は降り続けており、橙色の室内から覗く外の景色は藍色に錆びている。きっと、ここに逃げてきたのは正解だった。)「……」(彼女は席に着いてから、出されたカフェモカのカップを両手で包み、言葉を探すように視線を彷徨わせていた。)(何を言えば良い、のだろうか。)(彼女があのおじさんにぶつけたのはただのエゴ、ただのわがままだった。自分が死ぬほど欲しいと願った、自分が喉から手が出るほど欲しかった力を彼は持っているのに、彼はそれをいらないといった、ないがしろにした、馬鹿にした。それが本当に本当に、悔しかった。……でも、それはきっと彼女が欲しがったからなだけで、おじさんには関係のないことなんだ。)   (1/11 20:25:57)
雨夜鳥 志乃紀 > 「むずかしい、ね。」(彼女は一口カップに口をつけ、いたずらに口元を温めてから口をはなして笑った。)「わたし、わたし、ね。……あのひとみたいに、強くなりたかった、から。」(ぽつりぽつり、迷うように、雫を零すように言葉を零す。)(それは君への配慮ではなく。彼女が彼女自身を好きでいられるための配慮だ。)「……マックス君は、…も。なにか、ほしいとか、おもったりする、の?」   (1/11 20:26:04)

因(ゆかり) > 「人と人のコミュニケーションに正解は無いですからね、同じく断定的な不正解も無いと言えましょう。マニュアルが欲しい、と思った事ならありますよ。僕はよく間違えてしまいますから。」(マティーニを注文した彼は“彼女にも同じものを”だなんて、いうから、二人の目の前にはカクテルグラスとその中にオリーブの沈んだショートカクテル。基本的にはちびちびと飲むのが正しいお酒だが、君はその酒の嗜み方を知っているだろうか?)「Ms.アマヤドリ、人がどうしてタイムマシンを作らないか知っていますか?」(カクテルグラスを無骨で精密な機械の指で摘まみ上げればもう片方の手で頬杖を着くようにカウンターに身体を預けて、香りを楽しむかのように自身の顔の前に彼はマティーニを運ぶ。)「厳密には、もう作られていますが、でも、誰もそれを使わないし、作った本人もそれを他人に使わせようとは思わない…何故でしょうね?」   (1/11 20:45:48)

雨夜鳥 志乃紀 > 「マニュアル……あったら、いーね。」(人と人との付き合い方、なんて教則本があれば、正解があれば。私も誰かを無意識に傷つけてしまったりしないのかな、なんて。正解なんて存在しないから、と自分のふるまいを振り返らずに過ごす傲慢さも許されてなんていないから考え続けなければいけないのに、考え続ける先なんて、どこにも存在しない、というの。誰が言ったのだと問い詰める気もない、だってそれはきっと真実だから。)(ほわほわと湯気を上らせるカフェモカのカップをことりとおいて、彼女は君に視線を投げた。) 『Ms.アマヤドリ、人がどうしてタイムマシンを作らないか知っていますか?』「ん-ん。」   (1/11 21:04:39)
雨夜鳥 志乃紀 > (彼女はゆるく首を横に振った。興味がなかったわけではない、というのは誰だって同じだろう。消したい過去、なくしたい事実、受けたくなかった傷や記憶なんて、誰だって持っている、はずである。昔のそれを何とかすることができたらと、何度も何度も願った。)『厳密には、もう作られていますが、でも、誰もそれを使わないし、作った本人もそれを他人に使わせようとは思わない…何故でしょうね?』(だから。)「っ、あ、る…の?どこ、どこに、」(彼女は椅子を大きくならして立ち上がり、上半身をぐいと前にだして君に詰めた。)「なぜなんて、わかんないよ。……マックス君は、知ってる、の。」(懇願するように焦るように、ほんの少しだけ泣きそうに。彼女は君の瞳に…、もといレンズに、視線を刺す。)   (1/11 21:04:49)

因(ゆかり) > 「ええ、起動用のパスワードもどこにあるかすらも…」「ですが、それが使われることはありません。人の欲は絶えず、過去に戻ろうとも何かをやり直そうとも、現状に満足できない、それが人間ですから。それに……もしも貴女がタイムマシンを使ったとしても、その記憶が消えるわけじゃない。自分は自分でしかなく、自分のままにこんな道も在ったのかもしれない、と思い改竄された過去から今に至るまでの軌跡を眺め続けるのはあまりにも苦痛でしょう。……それでも、…Ms.アマヤドリ、貴女はタイムマシンに興味があるのですか?」(彼は君の方を向くのを辞めてカウンター越しの壁に飾られた安酒のボトルを見つめて、どこか懐かしそうに声色を淡くにじませて、マティーニをあおる。)「________っ_わーお、びっくりですね。」(次の瞬間、だばだばだばっと彼の合金製の身体を隠す様に纏われたコートにマティーニが降り注ぐ。そりゃあそうだ。彼には口も無ければきっとアルコールを分解する器官だってないはずだ。)   (1/11 21:24:23)

雨夜鳥 志乃紀 > 『……それでも、…Ms.アマヤドリ、貴女はタイムマシンに興味があるのですか?』「ある。よ。」(君の先述を彼女は聞き流したわけではない。理解できなかったわけではない。ただ、ただ。)「やな記憶も、忘れたいことも、どっちでも、いいの。……ただ、ただ。」(彼女が思い浮かべるのは、たった一人の、齢12の幼い少女の。まだ清らかでいられた時の、あの幼馴染の女の子。)「……のんちゃんの歩く道を、ひとつでもずらせれば、それで、それで。いいのに。」(彼女に降りかかった火の粉はきっと世界にありふれていて、それでもきっと、その日たまたま寄り道などしなければ、その日たまたまいつもの道に野良犬が居座っていなければ、その日たまたま私が学校をずる休みなんてしていなければ。私がすぐに体を壊す貧弱さなんてなければ、男の人を軽々投げ飛ばす力強さがあれば。きっと、彼女に酷い傷跡をつけたそれを、払い除けれたはずなんだ。)(彼女は眼前に置かれたマティーニのグラスをひっつかみ、飲み方なんて気にせずに、先のおじさんの真似をするように中身を一気に飲み干した。喉を焼く酒の味に一瞬顔をしかめても、彼女はそれでも。)   (1/11 21:47:39)
雨夜鳥 志乃紀 > 「っっ……、おねがい、おしえて、ほし、の。ど…こに、」(君のほんの些細な失敗にくすりともしないまま彼女は君にそう訴える。様子を見ていたバーテンが掃除用具を用意しているようだが、問い詰める彼女の雰囲気に立ち往生しているようだった。それから…、彼女は先ほどまで座っていた椅子に倒れるようにして座り込んだ。…というより、倒れる彼女を椅子が受け止めた、という方が正しいのだろう。16歳の酒に慣れていない純朴な少女にとって、マティーニはあまりに強く、また飲み方だって拙かった。)「う“ぇ……お”、むり、う”――……」(彼女は椅子にへたり込み、気持ち悪そうに項垂れた。)   (1/11 21:47:49)

因(ゆかり) > 「わーお、そうでしたね。Ms.アマヤドリ、貴女は未成年じゃあないですか。……そうですね、実は持ってきているんですよ。貴女にだけ、パスワードをお教えしましょう。」(彼はコートを脱ぎ去り、零れたマティーニにさっと翳せばまるで何もなかったかのように一滴の形跡も残さずに失敗の跡を消し去ってしまう。それは能力によってコートの繊維を操作した毛細管現象の応用。そんな手品を見せてから、彼はそっと君の頬に手を添えてこちらを向かせる。彼の能力は触れたモノの構造さえ知っていれば自身の四肢の如く自在に操れるというもの。それにより、彼に触れられた君の未成熟な肝臓はアルコールの分解を手動で矯正され徐々に酔いは薄れていくはずだ。)「パスワードは、“あの時の僕なら”ですよ。貴女は記憶が改竄されなくとも使いたい、と言いましたね。なら、これでもう大丈夫ですよ。貴女はタイムマシンを手に入れました。変えたかった現実が過去に成ってしまう前に変えられれば、目標達成に等しいでしょう?」(彼は周囲の客からロボットだだの、ターミなんとかネーターみたいだだのと言われながらもそれらに反応することなく、視覚レンズを真っ直ぐ君の視線と重ねる。)   (1/11 22:11:00)

雨夜鳥 志乃紀 > 「ん“ん…、ごめ、なさい……、」(君に触れられて徐々に自身の胸にあるそれが薄れていくのを感じて、彼女は泣きそうに顔をゆがめ、改めて椅子に座りなおす。…そう、して。)「『あのときの、ぼくなら。』」(そう君の言葉を反芻して、君の言葉の真意に気が付いたのなら。)「…っ、う”~……、」(彼女は自身のカーディガンの袖を目元に押し付けて、小さくうなって泣くのです。)「のんちゃんに、あい、たいの。かささんに、だいじなひとに、あいに、いきたいのに、」(わかっているのだ、無理だなんて。わかっているのだ、あえないなんて。)「んんで、なん…で、なんで、」(それでも、それなら。)「夢なんて、みせ、ないで、よ…っ、ぅ“―…」(カーディガンにしみこませていた雫はやがて溢れ、頬を伝ってテーブルへぷたり、ぽつりと零れていく。カーディガンが吸える雫は、さっきの雨で精いっぱいだった。)(雨に濡れた体は興奮とは逆に冷たく、寒く冷えていく。)(窓の外の雨はまだ止みそうにない。)   (1/11 22:42:41)
雨夜鳥 志乃紀 > (脳内を埋め尽くす後悔と懺悔は彼女の息を不規則に細く濡らし、嗚咽を小さく落とすのでしょう。彼女は君から、世界から、すべての人の視線から隠れるように椅子から滑り落ち、その場で頭を抱えてしゃがみ込む。)「―っ、―っ、―っ、―っ、」(声に出さないまま荒くなる呼吸を彼女は必死に押し殺す。過呼吸気味なその呼吸を落ち着ける方法を、彼女は自分で知っていて、そしてあまりに慣れている。君に助けを求めることなく、君の視線から逃げるように、君の言葉から逃げるように。自身の胸元にぎゅうと両腕を押さえつけ、ブラウスの胸ポケットにしまってあった金属製のアクセサリーを、願うように両手でぎゅっと握りしめた。)「だい、じょうぶ、だいじょう、ぶ。だい、じょう、ぶ、だ、いじょう、ぶ…、」   (1/11 22:42:53)
雨夜鳥 志乃紀 > 「まっくすくん、の、うそつき。」(彼女は小さく、そうつぶやいた。)   (1/11 22:43:18)

因(ゆかり)EX > 「Ms.アマヤドリ、…貴女は停まってはいけない。Mr.ヘンドリックが持っていた何かを羨む貴女をもしかしたら誰かが羨んでいるかもしれない。力なんて要らないと嘆く彼に貴女が抱いたその感情を、今では無く過去に生きている貴女に同じ様に抱いている人もきっと居ます。 もう一度唱えてください。貴女は会いたい方に会えたら何をしたいか。もしももう一度チャンスがあるのなら大事な何かを手放さない為に何をしていたか。 ……夢なんかじゃありません。このパスワードは確かに時を超えて今の貴女を変えるタイムマシンですよ。」(彼は暫く黙って君を見下ろしたあと、ゆっくりと屈んで君の肩を抱き寄せる。“あの時の僕なら”、大事な何かを失ってしまった“あの時の僕なら”、足は止まってしまうだろうか?あの時の後悔を知っている、“あの時の僕なら”…………)「僕なら、彼女から目を離さなかったでしょう。」   (1/11 23:04:23)

雨夜鳥 志乃紀 > 「うる、さぃっ、」(彼女は自身の腕を振り上げた。自分の眼前に現れた君の胸に、手に握ったロザリオの細長い十字の先を、突き刺してしまう為に。もしも君が避けないのなら、彼女の降り下ろしたそれは君の胸部に突き刺さることでしょう。君の体ではどうなっているか知らないけれど、もし君が人間であったら、そこには心臓が眠っている。)「うるさい、だって、だって、」(彼女は首を横に振る。髪が揺れるたびに地面には雨が降り、また君の服やその機体も、それに濡れてしまうのでしょう。)「わたしはまにゅあるじゃない、強くないし、弱いくせに、なんもないくせにやさしくない、」「『私が頑張らなくたって、私より優れた誰かが何とかしてくれるんだから、必要なんて、ないんだよ』。」(周囲の視線など、彼女の脳内にははなから入っていないのだ。実際にそこに人はいるか、実際にその人はこちらを見ているか。そんなのはどうでもいいのだ。自分の世界に不快なそれがぼんやりと表れた、だから怖いし逃げたいの。)「ちゃんすなんて、にどとないんだよ、」(現実なんて、どうだっていい。)「あのときの、あのときの、なら、だって、」   (1/11 23:23:38)
雨夜鳥 志乃紀 > 「のんちゃんを救えなかった、わたしを、生かしてなんていられない、もの」   (1/11 23:23:46)
雨夜鳥 志乃紀 > (先に進んでしまったら、のんちゃんはきっと独りぼっちになってしまう。先に進んでしまったら、そしてまた大事なものを失ってしまったら、私はきっと今度こそ私を許せなくなる。のうのうと生きてることを見過ごしてなんておけなくなる。そんな、馬鹿らしい保身と現実逃避と、それからそれから甘えと怠惰と醜い自己愛を。)「ぁ“、は、」(彼女は笑った。)(生きる、為に。)   (1/11 23:23:57)