雨夜鳥&日満寺

【ピオッジャ ver.1】

雨夜鳥 志乃紀 >
 (それは本当に、ほんとうにたまたまだった。否、必然だったのかもしれない。)(今日は通信の学校の課題を出しに街に出て、帰りに出会った野良猫ちゃんの後を追って。全く知らない小道を抜けたら綺麗な綺麗な夕焼けで、びっくりしちゃってみとれちゃって。お土産の猫じゃらしを持ってバスに乗ったら、暖房が暖かいからうっかりうとうと夢を見て。) (彼女は終点まで眠り呆け、時刻は既に19時半。閑散とした暗い停留所は酷く不気味で、心細くなった彼女は帰りのバスを待たずに同じところで降りたおじさんの後を追って全く知らない住宅地へたどり着き。おじさんが家に入れば彼女は酷く寂しいひとりぼっちで、半泣きになりながら、やがて降り出した冷たい雨に打たれながら、彼女は漸く第八支部へたどり着いた。)「あの、……、えっと、その、う“―……、」(時刻は既に23時。帰路に就こうとしたのだろうか、事務棟の玄関口に居る君の元に、彼女は霧状の雨を連れて現れた。足下を、一切濡らすことも無く。___彼女の唇は色を失い、小刻みに震えている。)「その、あの。タオル……とか、かりれませんか、」 (1/21 01:08:16)


日満寺 百貫 > 
(今日の予報は晴れだった。それから、今日の星座占いでは11位という至極モヤモヤする結果だったのも覚えている。けど、それ以上の事は覚えていない。朝、寮から出社して、今日中にやらなければならない仕事を午前中に終わらせて、そこからは溜まっていたイレギュラーな書類の処理をし始めて、気付いたら日は落ちていて、少し仮眠を取ってそのまま夜勤へとすぐに移行した。自分はみんなほど命を張れるわけでも役に立てるわけでもないから、少しでもスズメの涙程度でも出来る事を限界まで遣り尽くさないと此処に居る意味は無いと思っていた。『聖典を灼け、祈りを捨てろ』が合言葉のこの組織に於いて、愛されるべき人達が死んでしまわないように彼らの未来が少しでも長く、色濃く、光り輝くように、そんな願いをどこに申し入れればいいのか、彼は未だに分からない。普通なら神様に祈っていたそれは、この組織では自身の手で実現しなければならない。神頼みが禁じられて初めて今までの人類は神頼みに縋って無責任に生きてきたんだと気付かされる。)「__________っ!?、どどど、どうしたんですかっ!?」(そんなことをぼーっと考えながら受付カウンターで事務棟の監視カメラ等を眺めているときに声を掛けられて飛び上がった。当然ながらこんな場所にタオルなんてあるはずもなくて、でも、ティッシュって訳にもいかないし、あたふたと右往左往して2,3秒、自分が使っていたひざ掛けを咄嗟に掴み取り、君に駆け寄る。)「………そ、の。」(何が在ったんですか?なんて、聞いて良い物か野暮な自分には分からない。もしかしたら雨に打たれたい気分だったのかもしれない、そうなるにはそうなるなりの理由があって、例えば彼氏さんと喧嘩したりとか、家族と何かが在ったとか、もしくは“何もない”だとか…もしもその可能性があるならば“何もない”、が一番マズい。それはたぶん、他の誰より僕が一番わかってる。何かのせいにできない“なにもない”ほどに逃げ場のない悲観はこの世にきっとないから。掴み取った膝掛けブランケットをそっと君の方に羽織らせてコーヒー、いや、ココア?とにかく温かい飲み物を淹れに慌ただしく事務所の中へと駆け出す。) (1/21 01:26:24)


雨夜鳥 志乃紀 >
(__彼女は歩きながらに傘を持ってこなかったことを後悔し、恨めしくなって空を見上げて、低気圧の雲の合間から覗く朧月に目を丸くした。彼女のカーディガンは雨を飲み重たく垂れ、彼女の頬はじっとりと雨に濡れている、にもかかわらず、彼女の軌跡に滴のあとは一切無い。彼女は随分と早い段階で、これがカミサマによる異常気象であると、気が付いていた。__だから、彼女はほんの少しだけ迷っていた。先に浴場か自室に行って着替えて来るべきか、それともこのまま研究へ向かうべきか。)(彼女だって一端の職員なのだ、カミサマの観測を自身の保身の為に見逃すことは罪悪感が許さない。が、かといって寂寥と陰惨を抱えたままに誰かの元へ行くのはほんの少しだけ心苦しく、またそれもまた酷く惨めだ。) (だから。)『_________っ!?、どどど、どうしたんですかっ!?』(君がそう、濡れ鼠の彼女を、見下すこと無く心配そうに、出迎えてくれたから。彼女はほっと微笑んで、君に渡されたブランケットにそっと、ぎゅっと包まった。)「あり、がと。……えへ。」(君が用意してくれた暖かいココアをずず、と小さくすすりながら、彼女は電熱ヒーターの前に座り込む。) (渡されたブランケットから伝わる熱が先ほどまで君が使っていたのを教えてくれるから、ほんの少しだけ申し訳なくって、『君もおいでよ』なんて、ちょいちょいと君を手招いた。)「……なんかね、急に雨?振り出し、ちゃって。でも、ね、これね。ちょっと、ちがくて。」(へへ、なんて赤い鼻を鳴らしながら、君に笑って話すのでしょう。参っちゃった、なんて小さい失敗を話すように。)(君がもし傍にいて、彼女のことを見ているなら、その異常性に気が付くでしょう。彼女のカーディガンや髪は重く濡れ、時折滴を零しているのに、その床は一切濡れちゃいないこと。ヒーター、ココア、暖かい空調とブランケットを身に纏っても彼女の唇に色は戻らないこと。彼女の肌はひんやりと冷え、かき集めたぬくもりで漸く体温の低下を防ぐ程度にしか至っていないこと。)「研究、きろく。ごめんね、かくの、おねがいしていい?……たぶんね、文字ね、かけ、なくて、」(ふるふると震える右手の指先を見せながら彼女は情けなさそうに笑い、自身の膝をぎゅうと抱えた。)(きっと、きっと。かささえあれば、こうはならなかったのに。)(なんて、ひとりごちて。) (1/21 01:57:57)


日満寺 百貫 > 
「………っ、」(もちろん、自分も分かっていた。それは春の匂いがしない雨粒、かといって冷たく肺を刺す程でもない雨音、重力に従っても熱量保存の法則に従わない宙ぶらりんの雨滴にきっと早い段階で気付いていただろう。それは客観視の方がこの現象が認識しやすい部分が招いた認識のタイムラグ。慌てて要らなそうな書類の束とバインダーを手に取って事務作業で慣れた初期作業へと入る。)「ちょ、ちょっと待ってくださいね、あの、…これ、どうぞ。」(そっと体温計を手渡して、わしわしと書類の裏に簡易的なレポートを取っていく、これがカミサマの仕業であることは理解できたし、その性質についても書類を整理する事が仕事の一端にある彼はその後の症状についても理解していた。)「あの、……なんとなく、その、薄れ始めてる感覚とか、もしくは、いつもより強い何かの感情はありますか?」(自分は医者ではないから、問診なんてしたこともないし、本来この方法が合っているかは分からない。着替えがあれば好いのだけれど、此処にはタオルすらないから、暖房の出力をあげるしかない。それに、君が上着を脱がない限り、衣文掛けを差し出すのはなんというか、性的立場とかいろいろあんまりよくない気がした。ただでさえ濡れた女性と同じ空間に居るというのは、なんというか、汗がすごい。) (1/21 02:13:18)


雨夜鳥 志乃紀 > 
(彼女は君のその指の先を追っていた。体温計を差し出して、書類の裏にレポートをとって、それから、それから。その体格に見合うのでしょうまるっこい指先はなんだかくまさんのようにぽてっとしていて、それから、無意識にそこに骨の張りをもとめているのに気付いて寂しくなった。)「えっとね……いつものが、36,7くらい……で、いま、ね、35,5、かな」(ぴぴ、と鳴いたそれの液晶を君に見せながら、彼女は自身の胸の中にある感情を必死に探し、視線をそろりとさまよわせる。)(分かっている。分かっていた。先からずっと脳裏に浮かぶ一人の人が、きっとこの雨を引き寄せたののだろうということも、無意識に君に彼を重ねてしまっていることも。体格も顔も、声の低さもその仕草も違うけど。)「うすれてる、のはわからない……、けど、…………え、とね。」(君が、男性であるというだけで持っている喉仏をならす度に、そのくせっ毛を揺らす度に。まるっこい、ぽてっとした指を動かす度に、彼女はその中に彼を見出してしまって、)「……、えへ」(さみしくて、しかたないの。) 「あの、あのね。」(彼女は曖昧に笑って濁したまま、カーディガンの袖の中で君に延ばしそうになる指をぎゅっと握って押さえつける。……けれど。)「……これは、これはね、きっとね、寒いからで、」(その我慢だって、きっと長くは続かなくて。)「その、ちょっと夜更かしだからで、その、」(彼女は君に、誰かに、自分自身に言い訳するように。俯いて、君の瞳を見ないままにそんな言葉を並べ立てる。)「その。おにいさんあの、あったかそうだし、だから、」(君は優しい。初対面の彼女にだってなんとなく伝わるほどに。そんな君を、彼女は酷く利用するの。)「その、…………っ、“おててだけで、いいから。“」(彼女はカーディガンからするりと両手を差し出して、泣きそうな視線を投げながら、)「ぎゅって、して、ほしいの。」(赤ん坊が甘えるみたいに、全てをなげて甘えたいその寂しさを出せないくらいに、彼女はちょっとの大人になってしまったから。胸の中に居る小さな子供は、そろそろ捨てなきゃいけないの。)「ちょっとだけ、ね。ふわって。……不安に、なっちゃった、から」 (1/21 02:42:34)


日満寺 百貫 >
 「2度以上体温の低下……、つまり、大体2時間以上…、いや、ええと、待てよ、降られている間じゃなくて、……触れている間だから、っ」(君の体温を伺えばそれをそのままわしゃわしゃと書き連ねる。今までこのカミサマについて記載された内容から計算すると君は2時間以上雨に降られていた事になる、が、そこで彼が気付いたのは、そのカミサマの対処法が屋内に避難する事や接触を避ける事である、という事。つまりは、接触自体が危うい存在だからこそ、衣服に彼らが滲み込んでいるこの状況はまだ逃げきれていないという事だ。)「え、え、え、え、あ、ちょ…………っおっと!待ってくださいね!?」(君が何かを吐き出そうとしているのを待っている間に君は何かをぽつりぽつり呟いてくれて、それらをレポートに纏めようとして、【ぎゅってし…】まで記載して慌ててぐしゃぐしゃと文字を上から塗りつぶして咄嗟に体温に対する執着、と書き換えてどうするべきかとあたりを見回して自身の手を見てインクやら汗やらでべたべたなのに気付いた。)(ぐしぐしとズボンに手のひらを擦り付けて手を伸ばそうとしても、そこまでのスパンでしっかりと汗まみれになる自身の手に気付いて何度もそれを繰り返す。)「あ、ええと、遅れたけど、ヒマンジ・オワンって云います…はは、その、えーー…このままだと君はだいぶ危うい状態だから、今から出撃ゲート付近の簡易シャワールームに行って、カミサマを洗い流そう、そこで服はランドリーに入れて、ええと、着替え、ええと、うーん、あ、制服っ!制服ならありますからっ!サイズはぁぁぁ……S、かなぁ、と、とりあえず向かいましょうかっ!?」(そう、これはあくまでカミサマに対処するために必要な処置である、と自分に言い聞かせてガサガサと傘を探し当ててから、左手を君に差し出して少しは重く冷たい雰囲気が紛れる様にへなへなと愛想笑いを浮かべて困ったように眉を下げる。きっと、君の手はとても小さくて、とても冷たくて、そして、とても柔らかいのだろう。) (1/21 03:02:53)


雨夜鳥 志乃紀 > 
『え、え、え、え、あ、ちょ…………っおっと!待ってくださいね!?』(断られてしまったのだろうか、なんて早合点したのなら、折角の堪えた寂しさが溢れるように溢れてしまって、つっぱった口の端は泣き出しそうにへの字に曲がる。_手を繋いでもらえなかった位でなんだ、そんなことで泣いちゃいけない。だってもう、わたしは16さいなんだもの。だってもう、ひとりで頑張らなきゃいけないんだもの。_そんな風に叱責したって、寂しいものはさみしくて、どうしようもない感情はただただ溢れるばかりなもので。)「ごめ、んね、変だった、ね、」(彼女を包むその滴は、感情を殺せば殺すほど、押し隠せば押し隠すほどに、その感情を溢れさせるもの。彼女のなかの小さな彼女は、おおきく声を張り上げる。) 「っ、」(きゅうと喉の奥が締まる。涙腺が熱くなるのにほんのすこしの焦りを覚えて慌てて立ち上がれば、そこには君の手のひらがあって。)「お“わん、く、」(ちょっとだけ、だそうだった。)「う“~…………っ、あ、のね、あのね、わたし……ね、しの、ね、しのね、」 (一度決壊してしまったそれはきっと、滴が、言葉が収まるまで治ることはないのでしょう。繋いだ手の平に滲む汗の気持ち悪さなんか気にならないくらい、彼女はぐずぐずに砕けた言葉を零しながら、君に手を引かれてシャワールームに歩いて行く。)「しの、ね、あのね、……、」(会いたい人に、愛した人に会いたい。ただそれだけの純粋な願いを音にしようとその輪郭を脳内でなぞったとき、彼女はふと足をとめた。あれだけ指先の輪郭もその髪の癖も、息を呑む度に上下する喉仏は容易に思い出せるくせに。その顔が、全然思い出せないんだ。)「っ、」(溢れる涙は滝のように。不安定な心はどうしようもなくて、何の言葉も吐けないままにただ彼女は嗚咽を零す。きっと君を困らせるだけだと彼女は分かっていても、それでも。)______(シャワールームに着いた頃には、泣き疲れて彼女は少し眠そうに、かつ寒そうにその身をぎゅっと寄せている。)「はいってくる、ね、ごめんね、おねがい、ちょっとまってて」(流石に中まで一緒に行けないにしても、まだすこし、一人でいるのは怖い。どうか出来たら、扉越しにでもお話してくれると助かるのです。彼女は君にそう告げて、籠に着ているものをすべて預けて扉をくぐる。ロザリオもカーディガンも、ピンクの髪の編みぐるみも全部をおいて。)「……、おわんくん、まだ、いる?」(シャワーの音に紛れながら、彼女はそうやって定期的に君を呼ぶでしょう。)「……おわんくん、その、ごめんね。おしごとちゅうなのに……」(1/21 03:39:36)


日満寺 百貫 > 
「いえ、その、……、貴女を慰めるのはある程度人の心があるのなら誰でも好いのでしょうけれど、そういう、誰にでも出来る事を率先してやるのが僕の仕事ですから。」(なんてへらへらと笑いながら君の衣服がゴウンゴウンとランドリーで回っているその横で端末を取り出して現状のレポートを見つめる。それは全てに支障が出ないための逃げであろう。横では年頃の女性の衣服がグルグルと回転している。背後では全裸の女性がシャワーを浴びている。こんな時間に任務に出る者は多くは無い、多分、汚れ仕事を果たす様な人達は身体に着いた汚泥も鮮血も気にならないくらい心の強い人ばかりだから、こんなところには来ない。つまりは全裸の女性と薄壁一枚越しに二人きり、もうなんというか、汗がすごい。それを紛らわせるために端末でカミサマの情報を再確認しているのだけれど、…)『症状を解決するのであれば、人の温みに触れる事だ。肌でも良い、言葉でも良い、何も語らない視線の熱や、無言の淡い温度でも良い。誰か一人以上の親密と言える人間と、共に半日を過ごすことだ。』(肌でなんて温められるものか、馬鹿を言うんじゃあありませんよ。言葉は、言葉、は…自分の言葉にぬくもりはあるだろうか?先ほどの仕事でやってるみたいなスタンスはあまりにも悪手だったのではないだろうか、と気付いて、慌てて声を張る。)「あっ、の!仕事で嫌々やってるとかではないので!気にしないでください!ええと、こういう仕事でしたら喜んでやるので、いや、喜んでって云うのは人の不幸を喜んでいるのではなく、ええと……貴女の役に立てるなら、仕事でもそうじゃなくとも、僕は嫌な気持ちにはなりませんから、だから、ええ、と…大丈夫ですよ。」(何も語らない視線の熱も、無言の淡い体温を醸し出せるダンディズムも無ければ、そもそも親密と言える人間かどうかはあまりに曖昧過ぎる、恐らく、当てはまらないかもしれなくて、……兎角、何もないのに涙が出るなんてことはきっと、ないから、少なくとも自覚出来ていないとしても今まで積み重なったあらゆる要因によって感情は吐き出される。だから、多分、こうしてそばにいるのはカミサマの影響下かどうかに関わらず、正解であるはずなのだ。) (1/21 04:00:51)


雨夜鳥 志乃紀 > 
『……そういう、誰にでも出来る事を率……』「だれ、でも。」(暖かいシャワーで全身をながしながら、君の言葉を途切れ途切れに聞いていた。確かにきっと、今日あの場所で自分に暖かさをくれるのであれば、おわんくんじゃなくても良かっただろう。ならあの大事な人は?もう顔も思い出せやしないのに、きっと超えすら覚えていないのに、何故自分はこんなに彼に固執しているのか。)(おわんくんとあの人は違う。背の高さも想い出も、その顔も体型も、温度も手の形ですらも、きっと全部。それでもおわんくんにどことなく面影を重ねてほしがってしまったのは何故だ。それは自分は本当はあの人じゃなくてもよかったのか、だれでも良かったのか?違う……、と思いたくて、彼女は首を横に振る。降ったけれど、確信は持てなかった。もし今日あの場所に居たのがもっと違う人だったら、自分はほしがっていなかったか?指先が細くて髪がさらさらで喉仏もない人だったらほしがっていなかったか?)「……、」(わからない。)(分からないことがあまりに多すぎて、あの雨のせいだと確信が持てない。)『……貴女の役に立てるなら、仕事でもそうじゃなくとも、僕は嫌な気持ちにはなりませんから、だから、ええ、と…大丈夫ですよ。』「……、うん。その、ありがと、ね」(君の用意してくれた一般職員の制服を身に纏い、濡れた髪をタオルで拭きながら彼女はぺたりと床を踏んだ。暖まった頬は若干赤らんで、唇にだって血色は戻りつつある。それでもそれは根本の解決ではない。こうしてシャワーからあがった今この瞬間からでも、少しずつ彼女の温度は下がっていく。)「……なんかね、」(着替えを入れていた籠に取り残された編みぐるみとロザリオを手に取って、彼女はベンチに膝を抱えて座り込む。いやいやじゃない、と言いつつ端末に視線を投げつけている君をじぃと見て、またほんの少しだけ申し訳なくなって。)(ごうんごうんと規則的に音を鳴らしてランドリーは回る。洗濯、脱水、きっと乾燥までに時間がかかるし、彼女自身、まだ一人でいるのが少し怖い。無言の時間は嫌いじゃない、けど、きっと黙っていたらまた泣いてしまうから。)「おわんくん、ね。その、……むかしの、しりあいに、ちょっとにてて。」(そんな、どうでも良い言葉を一つ。)「だから、ちょっとだけ、ね、……安心、するの。」(沢山歩いて、沢山泣いて。暖まった体はほんのりとした眠気を呷り、彼女はそれに従ってベンチに体を横たえた。下着も洗濯中だから、擦れていたくならないように体を少し丸くして、それからまた君に右手を伸ばすのです。)「その……それ、お仕事してていい、から。……おてて、ほしい」 (1/21 04:36:49)


日満寺 百貫 > 
「…、そろそろ、交代の時間ですし、それに、カミサマの対処と言っても嘘ではないので、多分、お仕事はその、中断しても怒られませんから。」(君の言葉を聞き届けて、なんだかその知り合いさんとやらが可哀相になる。ほんの少しだけ似ていて、それで、…それで?、それを聞いて自分はどう思っただろうか、ただの代替品だろうか。確かに、自分自身は何処にでもいる様な人達かそれにすら及ばない存在で、代わりなんていくらでもいて、だから、つまりは、誰かの代わりとして扱われるのなら、別に構わなかった。でも、それとはまた別に、まあ、役に立てているならいいじゃないか、なんて思う自分が居た。)「嗚呼、ええと、今更ですけど、アマヤドリさん、ですよね。名簿で何度か見ました。その、……少しだけ仮眠取りましょう。」(今の自分に出来る事が何かは分からないけれど、それでも、やっぱり、出来る事はしておきたかった。それは、君という存在が無事であってほしいというのももちろんあるし、此処で手を差し伸べずに居て自分自身を嫌うような事があれば、それは…嫌だったから。洗い立てでふわふわのバスタオルを何枚か持ってきたのなら、君の身体に掛けて、身体が冷えないようにその上から膝掛けブランケットもそっとかけて、君が横たわったベンチの頭の方へとゆっくり、そっと腰を下ろした。それから、君が求めるままに自分の手を差し出して、ただ此処に居るのが君と、それから誰かである事を知らせるために、それ以外の余計な情報を排除するかのように彼も目を閉じて背凭れに身体を預けて呼吸を深く緩やかにしていく。明かりはきっと、付けたままの方が安心できるだろうから、このままで。) (1/21 04:50:10)


雨夜鳥 志乃紀 > 「ん……、ん。」(彼女も緩やかに目を閉じた。ブランケットとタオルの柔らかい暖かさと重み。遠くから聞こえる重くて大きな機械音と、ふんわりと自身の髪から香る知らないシャンプーの匂い。左手を自身の太ももの間にそっと埋めて、傍に座った君の呼吸と、触れているその右の手の感触を、微睡みながら確かめた。)(似ている、と思った。指先の丸さ、暖かさ。薄くない手の平と、自分の手を覆ってしまう大きさ。)(それと同時に、違う、とも思った。あの人より柔らかい。ほんのちょっとしっとりしてて、あの人よりも確かにきゅっと握ってくれる。爪の形、ざらりとする傷の跡、しわのひとつ、曲がり方。……だれでも仕えるシャンプーと新しい服の匂いのその先にはきっと微かに君の汗が匂っていて、きっとそれは、こんな風に沢山汗を掻くような、沢山優しくて暖かいような。たくさんたくさん寄り添ってくれるような君でなければ、こんな風にはならないのでしょう。) (彼女はきっと、無事に翌朝に目を覚ます。彼女は君の。他でもない、君の体温に生かされて。) (彼女の中のその手の記憶は柔らかく君に置き換わる。同じで良いなら、誰でもいいなら、置き換わることすら。)  (昔の、知り合いの人。)(ぼんやりと影として脳裏に浮かぶその人に、彼女はそうっと、夢の中で手を振るのでしょう。) (昔の知り合い、だった人。) (今彼女の手を包んでいるその感触を、その人と混ぜてしまわないように。君のその手の感触を、君だけのものだと、自分自身に刻むために。) (1/21 05:12:36)