木靴下@カフカ>
(これで、ここに訪れるのは何度目になるだろうか。)(水槽のモーター音が響く中、ゆらゆらと揺れる水面を見つめる男が一人いる。)(彼は貴方を呼ぶように水面を掌でパシャパシャと跳ねてみせる。魚には負荷を与えないように、軽く、だが。)「ロゼ。」(貴方が水面からわずかに顔を上げてくれるのなら、彼──────────貴方の上司に当たるカフカは、貴方の方を見て、名前を呼ぶだろう。)「やぁ。気分はどうだい。」(貴方は四番小隊で唯一の「代替の器」である。そんな貴方を大切にするのは貴方の持つ能力を貴重だと思っているからなのか。それとも。)「ずっとここに居るのも退屈じゃあないかい?…たまには水槽ごと運んで、外でも見てみる?」(いや、この男に限ってそれはないだろう。ない。そう断言できる。)(何故なら貴方は〝四番小隊(カフカの保護下)〟であるのだから。)(それである限り、カフカは貴方が肉体を欠損させることを許さないだろう。可能な限り使うなと、多分彼から言われているはずだ。)「…おとぎ話みたいに、足が生える魔法でもあったらいいのにね。」(人魚姫は陸に上がる代わりに、美しい歌声を失った。一説によれば歩くたび足に激痛が走ったとも。)(そこまでして焦がれた地上は結局残酷で、最後は泡になって消えてしまった。…それはそれは、可哀想なお話。)(貴方も地上に上がったら、泡になってしまうのかしら。)(………そうなら、例え貴方が望んでも、陸には上がってほしくないなって思ってしまうのは、我儘かしら。) (1/31 20:24:24)
風鈴@ロゼ>
(ここにはあたし以外にもいろんな魚がいるの。泳ぎが早いあの子ははちょっとドジっ子でよく水槽のガラスにぶつかっているわ。ヒレがフリルのようになっている子はマドンナでニンゲンはみんなあの子に夢中。ギザギザな歯を持つ子はちょっとやんちゃだけど、お腹いっぱいみたいだから攻撃することはないわ。自分以外"お魚"ばかりの世界でもちっとも寂しくないのよ。だけど優しい貴方はあたしに気をかけてくれる。ほら、今日だってパシャパシャと水を弾く音がしたら魚達は驚いてどっか言っちゃうけれど、あたしは貴方に近づいて行く。顔を覗かせると無表情な貴方にこんにちはとこちらもパシャパシャとヒレで水を叩けば)『カフカくんこんにちは。あたしはね、カフカくんに会えてとても嬉しいわ。貴方はどうかしら』(黒目しかない目を細めて幸せそうに微笑み返せば、そんなことを言うの。自分は体を犠牲にして誰かを蘇生することができるらしいけれど、もしも犠牲にしなくちゃいけない時は、隊長や他の隊員の子に使いたいな。だって泳げなくなっちゃったらそれこそ"不用品"になっちゃうから) 『まぁ、なんて素敵な提案なのかしら!あたしね、みんなのピクニックに行きたいの。サンドイッチっていうのも食べてみたいわ。陸ではお花の冠とか作れるのでしょう?メアリーくんやエストくんお姫様と一緒に恋バナだってしてみたいわ。もちろんカフカくん達もお話しましょ。やっぱり誰かと話して何かを食べるって楽しいと思うの。たとえそれが不要なことだとしてもね?』(まぁ!と目を輝かせて外の世界について考えるとついついおしゃべりになってしまう。大自然の中のピクニックなら自分以外の人ならざるモノがいたとしても人目を気にせずに楽しめるはずだ。沢山食べることが大好きそうな051くんの為に沢山料理も拵えたい。だけどあたし火を使うことできないからとっても残念。もしもみんなみたいに陸を自由に歩けたならば、料理とやらにも挑戦してみたい)『そうね……。で、でも、あたし誰よりも泳ぐのは得意わよ!隊長や他の隊員の子が溺れちゃったとしてもすぐに助けに行けるわ』(足の話はちょっぴりガラスみたいに繊細なの。暗い顔をしちゃったけれど、すぐにいいことを思いついた。何故あたしが足ではなく鰭を授かったのか。それは泳げない可能性があるみんなを助ける為だと思うの。この水槽の魚よりも泳ぎが上手で早いのよ。隊長知らないでしょう。お歌だって上手に歌えるわ。だからね、隊長、あたしちゃんと使えるわ。泳ぐことしか、歌うことしか出来なくてもちゃんとやっていけるから、安心して欲しい。脚がなくても、あたしちゃんとやっていけるから) (1/31 20:48:37)
木靴下@カフカ>
(貴方の話は、まるで夢を見る乙女のよう。)(飴玉のようにキラキラで、わたあめのようにふわふわ。…そういえばどっちも原材料は砂糖だ。)(水に容易く溶けてしまう、角砂糖みたいな貴方の夢。溶けてしまわないように、きちんと瓶に蓋をしておかなくちゃ。あぁでも。ずっとぎゅうぎゅうに詰め込みすぎてしまうのも、〝疲れちゃう〟でしょうね。)「うん。そうだね。小隊のみんなにも相談して予定を合わせてみるよ。」「それから、花が綺麗に咲く場所と、おいしいサンドイッチの作り方も。」(息抜きは大切。)(貴方に会いに来る理由は〝カフカは同じ場所に留まれない〟からだけれど、それでも貴方とこうしてお話しする時間は本当に大事だ。)(メアリーはどうかしら。予定はきっと合わせてくれると思うけれど。エストは、そう。配達の仕事もあるから。お姫様は収容施設からそう簡単に連れ出せはしないし。礼の予定はそうね。休日の絵の時間を少し変えたら…。051には取り扱いに注意がいるし、連れ出す上での許可も取らないと…。カノープスは快く了承してくれるでしょうね。)(四番小隊。別名を、化物小隊とも呼ばれていることが貴方の耳に入っていないといいけれど。)(………そう簡単に連れ出せるほど軽いメンバーでもないわけであって、少しだけ、カフカは頭を悩ませた。)「それは助かるよ。何せ、ぼくは泳ぐのが下手くそだからね。」(今も水中に落っこちたらどうなるんだろうってひやひやする。)(なんて。)(呼吸もしてないくせにわざとらしくそういうのは貴方を気遣ってかしら。)(貴方の心のうちは理解できていないだろうけど、きっとどことなく溢れる【使える】か【使えないか】ということを彼はなんとなく、感じ取ってしまったんでしょうね。)「ロゼ。」(だからちょっとだけ、声を低く。唸るように貴方の名前を呼ぶことでしょう。)「……確かにぼくは、君に〝どれだけぼくを必要としないか〟と言った。…だけどそれは、どれだけ〝使えるか〟。じゃない。」「…どれだけ一人で生きていけるか、だ。」(貴方をこちらへ来るように手を動かす。もし、貴方がそれに従ってこちらに向かって来てくれれば、カフカは優しく貴方の頭を撫でることだろう。)(温度のない掌なら、貴方が火傷することもないはず。)「怖かったら逃げていいし、嫌だったら嫌と言っていい。…ぼくは少なくとも君に生きていてほしいしね。」(貴方は自らを犠牲にすることで誰かを甦らせれる。)(そんな力を持つから、どこかで自分そのものを〝道具〟のように見ている気がして、ならない。)(それが、心配なのよ。) (1/31 21:26:19)
風鈴@ロゼ>
『楽しみだわ。お花なんて何十年ぶりかしら。サンドイッチはきゅうりが沢山挟まってるのがいいわね。瑞々しいもの』(了承してくれた貴方の気苦労なんて知らないのか。これから計画されるであろうピクニックに関しての楽しみでいっぱいだ。ニンゲンだったあの頃はちゃんと二本足で立ってダンスをしたりしていたけれど、今じゃこんな姿で誰もニンゲンだった自分を覚えていないことだろう。死ぬまで水槽の魚達と仲良く泳ぎ続ける人生だけど、貴方達と会えたのならば悪くなかったのかもしれない。道の道中、何も出来ないからせめてお歌を歌うことしか出来ないけど、いつか叶ったならば一緒に遊ぼうね) 『んふふっ、ちゃんとできるからね』(呼吸をしていないことなんて気づいていないロゼはだから安心してなんて口にするの。まだ自分はつかえるんだと認めさせられたから安心していたけれども、貴方は低く唸るように名前を呼ぶものだから不安になってしまう。何か悪いことをしちゃったのかなと思いながら近づいていくと、冷たい手が自分の頭を撫でてくれた。みんなの手だと火傷しちゃうし、歳が歳だから頭撫でてくれるなんて思わなくって、つい涙が緩んでしまうわ) 『……ふふっ、カフカくんは優しいのね。でもね、あたしはね"その為に生まれた存在"だから、一人じゃ生きていけないわ』(水槽の魚達だって、水槽を管理してくれる人がいなくては死んでしまう。自分も陸に上がってしまえばいつか干からびて死んでしまう。海にいたならば自由に生きていけた魚達と一緒。自分は誰かが死んだら代用となる為の"道具"でしかない。貴方は優しいから使うなという身体も、隊長格や貴方達が死んだならば遠慮なく使われていく。尾鰭がなくなれば自由に泳ぐこともままならずまな板の魚のように捌かれるだけの存在と成り果てるだろう。一人で生きていける身体ならばいいけれど、貴方の願い叶えられそうにないわ)『でもでも死ぬってことはないわ!ちゃんと生きたいもの。まだやりたいことだって沢山あるしね。だから、安心してカフカくん』 (1/31 21:44:13)
木靴下@カフカ>
(この水槽は、まるで檻ね。)(貴方を縛って一人閉じ込める、残酷で、私利私欲的な、水の籠。)(アルマデルという施設のために。戦力を蘇らせるという目的のために。…そんな理由で作られてしまった貴方に。こんな残酷な檻の中に。)(カフカは王子様じゃあない。海の偉大なる魔法使いでもない。貴方に新しい目的を与えるわけでもないし、貴方に代わりに足をあげてくれるわけでもない。)(それはただ貴方の、〝帰る場所〟で在り続けるだけだ。)(──────────それを人は【放任】と呼ぶのかもしれないけれど。)「………うん。」「…それならいいんだ。」(カフカはそれに、疑問は浮かべなかった。)(生きるためにこの世界に堕ちて、殺されるために産まれた。)(そんな彼には、〝その為に生まれた〟言葉の意味が、どれだけ残酷なものであるか知っている。)(鎖のように、冷たい棘が無い心臓を縛っているようで、それがいつも嫌だった。)「……………じゃあ、ぼくはそろそろ行くよ。」「ピクニックのこと、みんなと話して決めてみるね。曜日が決まったら伝えに来るから。」(あまり長居をしても、貴方の大事な魚(友達)にストレスを与えるし、そもそもずっとここに留まっているわけにもいかない。)(カフカは最後に貴方をもう一度一撫でして、水槽の枠におろした腰を持ち上げた。)「──────────それじゃあね。」(また今度、なんて口にはしなかった。)(いつか、とも言わなかった。)(………また会える確証なんてなかったからさ。)(────────しばらく、カフカの部屋と言われてほとんど使われていないその部屋にあるコルクボードに、「ピクニック予定日」「サンドイッチ(きゅうりたくさん)」「できればみんなで」なんて書かれた走り書きのメモが一枚貼られるだろう。)〆 (1/31 22:23:57)