雨夜鳥 志乃紀>
(彼女の足下には霧が立ちこめ、その輪郭を失わせている。霧の中にかすむ、真っ赤なカーディガンを着た男性を彼女は認め、顔をくしゃりと歪めたまま。)「__________かさ、さん。」(彼の名前を、ぽつりと乞う。)(彼女は今日。さよならを告げる。)[SIR_3299_JPN]白蛇____死んでしまった大切な人に、もう一度合わせてくれる、やさしいやさしい、夢のカミサマ。(柔らかく日は陰る。彼はこちらに背を向けたまま、チラリとも振り向かなかった。)『___』(虫が、酷く五月蠅い。)「かさ、さん。……かささ、おにい、……なん、で、」(カーディガンの袖をぎゅうときつく握りしめながら、彼女は何度だって彼を呼んだ。死んでいると思ってた、死んでいると聞いていた。生きていたの、元気だったの。何で帰ってきてくれなかったの、電話もメールも、噂話も聞かなかったよ。)『__』(五月蠅い。)「なんで、…………っ、なんで、」(おにいは優しいから、スパイとして入ったアルマデルで人を殺せずに死んだって、そう聞いたよ。お父さん達は役立たずって怒ってたけど、でもしのは、しのはそんなこと思わなかったよ。会いたかったよ、お話聞きたかったよ。ずっとずっと、会いたくて、だから、こっちに。)(彼はやっぱりこちらを見ない。ただ淡々と向こうに歩いているのに、その距離は全く開かずに。__彼女はゆるりと手を伸ばそうとして、)『_______』「、」(そわり、ざわり。)(頭を埋め尽くすあの文字が、彼女の足を止めさせた。) (2/7 22:21:44)
雨夜鳥 志乃紀>
(真っ白い霧の中でも、彼のカーディガンは鮮明にその赤を浮かばせる。……浮かばせ、すぎた。)「おにい、じゃ、…………、ない、んだよ、ね。」(彼女は自身のカーディガンの袖を、その中のちいさな手で握りしめた。)(このカーディガンは、おにいの形見に貰ったものだ。アルマデルの制服には合わないからと。自分のことを忘れないでと。いつかきっと、あうときに、と。彼の腕に包まれたとき、柔らかく頬を撫でてくれるこの赤が好きだった。お日様の匂いと彼の体臭の混ざった、やわらかい匂いが好きだった。毛玉ができる度悲しそうに、それでも嬉しそうに手入れをする彼の丸い指先のその手が好きだった。)『_____』(思い返そうとしたって、頭の中の村文字がどうしても邪魔をする。思い出せるのは昨日見た、この文字をなでるもっと丸っこい可愛い手で、思い出せるのはもちもちしたあのほっぺとお腹で、思い出せるのは、かれの沢山の汗のにおいだけで。)『______』(虫が煩く泣く度に。彼女が頑張ってたぐり寄せる愛おしい記憶は、彼に。___おわんくんに、書き換わっていくの。)「カーディガンは、ここにある。……おにいの着てるそれは、違うから。」(彼の背中を、忘れないように目に焼き付けたいのに。涙でか、その霧でか。どうしたって、その背中が見えないの。)「おにい、も。いない、んだよね。」『______』(おわんくんとお話をしたとき。施術をしたとき、この文字を見ると、決めたとき。____”狂ってしまえたら”、楽になれるかな、なんて【諦めた】んだ。)(かささんに会えるかな、もう人を殺さなくても良いのかな。もう、……もう、寂しくは、ないのかな、なんて。)______でも、だから。「…………、運命と。」『出来る懺悔は、………… 【 運命と向き合って生き続ける事 】 …だと思う。』「……、むき、あう。」(頭の中でざわめく文字を、彼女はそうっとあやすように。自身の頭に手を当てて彼女は静かに目を閉じて、それから。)【容量6消費。自分の触れたものの状態を、消費する容量×[家族]ロル分遡らせる。__1ロルを20分と換算し、家族34人分の72時間__三日前まで。】『さぶりみならず』と、あの人と、決別を。(______霧は、晴れた。) (2/7 23:04:53)