七五三野紫苑>
(キィ、とドアの軋む音と共に香るのは、甘いあまいカカオの香り。コツ、コツ、とどこか気ままに近づくその足音は、貴方の聞き覚えのある物かもしれませんね)「やぁリアン嬢、そっちは順調そうかい?」(なぜだかどこかにんまりと、相手に読ませる気のない顔をしたまま、貴方の手元をちらりとのぞき見て、ゆっくりと貴方の隣の誰かさんの席に座り込むんです。)「リアン嬢、一息ついたらお姉さんの相手してくれないかい?ココアはお好き?」(“お代はお姉さんとのハグでいいよ!” …なぁんて、冗談まで言って貴方の気を引こうとする。任務の後の書類作業があんまりにも面倒で、あんまりにもつまらない物でしたから、貴方のお邪魔をしに来たんです。貴方の隣のデスクに置かれているのは、緩やかな湯気と真っ白なマシュマロが浮かぶココアが二杯と...それから腕に挟むようにして持ち運ばれた、形だけの報告書。四行程度に簡素にまとめられて、内容はもはや夏休みの一行日記。やけにまっさらなその紙には、くっきり皺までついている始末、“記録係”の貴方に見せたら...なんて思われるかわかりませんね。)>リアンさん! (2/5 21:37:54)
リアン>
( ─月─日。死傷者─名。街の崩壊─割。それに伴い────ペンの走る音が止み、綴る言葉が立ち止まる。響く足音は誰かの此所に近付く証明。甘い香りは煙から離れ、ふんわり、部屋の中を漂って、一人の女性の鼻腔を擽った。女性はぱらぱらと、頭の中のリストを捲る。顔見知りであるココアを携えた入室者の顔と名前は、思い出さずとも一致した。けれど、万が一にも間違えないように。思い出す作業は、記憶をより強固にする。『 ───お疲れ様です。七五三野 紫苑様。 』かたんとペンは寝そべった。丁寧に寝かし付けられたそれは、書類の上を転がってしまうこともなく。ただ大人しく、息を潜める。淑やかに微笑んだ、女性の言葉を毛布にして。『 っふふ、有難うございます。ココアはお好きですよ。………ハグくらいでしたら、はい、幾らでもどうぞ。 』報告書を挟んでいたバインダーをぱたりと閉じて、一時の閉幕。カラスは黒い。けれど白いのだと言う人が居たのなら白くなる。ココアは甘い。けれど酸っぱいのだと言う人が居たのなら白くなる。是には是を。否には否を。声をかけられたのならそれが閉幕。代わりに開くのは、今回は一息付く、そんな休憩時間の幕。鼻腔を擽る甘い香りはいっそう近く。貴女の言葉に心まで擽られてしまったかのように、女性はくふくふと笑みを溢して。両腕を広げては小首を傾げて、冗談の様に貴女の方を向くのです。) (2/5 22:12:33)
七五三野紫苑>
「んー?堅苦しく “様” 付けでなんて呼ばなくていいよ。せぇっかく同じ小隊に組まされたんだ、これも何かの縁ってやつだろう?気軽に “紫苑お姉さん” ってよんでくれ」( “あ、様付けがいいならお姉様でもいいよ!?!?” なんて、代替にもならない提案を。じんわりと紙に滲むインク、カリカリと綴られる言葉達、それに混じって香る誘惑と“薄く甘い煙達”。 “休憩時間” まで監視されていたならきっと、妖も慄く恐ろしい顔で管理官に迫られてしまう。だから “この事” はどうかご内密に。貴方がもし気が付くのなら、開かれた “今この時間” の内は_____彼女と貴方の秘密ということで。)「そりゃあ良かった!お姉さんの特製ココアだぞう!.................あぁでもこれ、ちょっと甘すぎたな。」 ( 書類を避けてコトリ、とデスクに置かれるマグカップからはゆらりとあたたかな香りが立つ。ぷかぷかと、そしてゆっくりと熱で溶かされるマシュマロはその香りよりも甘みを増させているだろう。作業の合間の糖分摂取には丁度良い...それとも少し多すぎたかしら?少なくとも彼女にとっては、ほんの少し甘かったみたい。あまり舌が慣れすぎない程度に、煙草の風味を感じられる程度にゆっくりと口に含む。)『………ハグくらいでしたら、はい、幾らでもどうぞ。 』「え!?いいの!?!?!?」(思ってもみなかった返事を聞いて、つい顔を向けてしまう。給湯室にあったココアとその棚に隠されていた “誰かのマシュマロ” でこんなお返しが貰えるなんて!それもいくらでも!...とてもじゃなく飲み切れないほど、お腹が膨れるほど何十杯でも作りたくなってしまう。けれど、お腹いっぱいになるまで一気に!よりは、おいしく何度も飲めるの方がずっと良いからそんなことはしないのだけれど。まぁ今回の分はお言葉に甘えて、) 「んへへへぇ~やったぁ~、ココア一杯で “ハグくらい” 、なんーてきいたら他のやつらまで注いで来ちゃうぞぅ?リアン嬢はだーれにでもハグしちゃうのかい?」(くすくすとかわいらしく笑みを浮かべる貴方へ誘われるがまま抱きついて、存分に。ぎゅーっとやさしく抱きしめてから、貴方を勘繰るように問いかけるの。自分の方が何十年も何百年も年上なのに、“誰にでもするの?”なんて誘い文句をね)>リアンさん! (2/5 23:42:08)
リアン>
えぇっと………では、紫苑お姉さんと呼ばせていただきますね、? そちらの様は大丈夫です。( 指先合わせて困惑混じりに。冗談ばかり、煙に撒いて逃げてしまう煙な貴女。その言葉を疑わずに、否定せずに、無垢な赤子と同等に。それでも、その勢いに驚いてしまう心はあって。困惑に閉じた手は戴きますを口にして、風味豊かで甘さもたっぷり、そんな特製ココアのマグカップを開いて包んだ。ふー、ふー、と吹き掛ける息はしゅるりと煙を遠くへ巻いて。浮かぶマシュマロも待って待ってと煙を追って、口元とは反対の縁の終点へ。甘いマシュマロが戻ってきてしまわない内に、浅く開いた唇の合間から甘い風味を取り込んだ。途端に、くらりと目の奥の疲労が目眩を起こして、ばたんきゅう。甘味に浸されとろりと溶けて、マシュマロと一緒にぷくぷく沈む。『 ………紫苑お姉さんから口にした事でしょう? ハグにはストレス軽減の効果もあるようですし、私はこのくらい甘いココアも好きですから、…戴いてばかりですね。 』 水滴のような一滴を、繰り返し口内に手招いて。言い出しっぺの驚きに、不思議そうに女性は首傾げ。ちょっぴり跳ねたココアの黒が唇にかかる。元より奴隷階級の身体であれば、煮るなり焼くなり御好きなように。等価交換の真似事が起こっている方が寧ろ珍しい。溢してしまっては勿体無いから、女性はマグカップを机上に戻して。きゅう、と控えめな御返しを。ふんわりと甘いココアの香りが弱くも互いの間から届いて、同じ香り。『 嫌な方には致しませんよ。………それから、紫苑お姉さんが独占欲をお出しになるのでしたらどんな方でも。 』元より、ルクレクル人に甘やかな触れ合いを求める人は何れ程居るのか。プライドが許しはしないでしょう。だから、他の人が、なんて事象自体がそもそも起こり得ないのだけど。くふくふ、ココアよりも甘やかな笑みを滲ませて。『 ………なんて、冗談です。』お茶目に瞳を細めてみちゃって。そのくらいの女性の方が、きっと貴女はお好きでしょう。貴女仕込みの冗談です。) (2/6 00:37:51)
七五三野紫苑>
「うんうん、そっちの方がずっといい!長くも無くて、堅苦しくも無くて、何より気軽に呼べるだろう?困った事があればすーぐに、“ 紫苑お姉さーん! ”って呼んでくれていいよ」( “ 女の子に呼ばれたら何処でも駆け付けるからね! ” なんて、嘘か本当かわからない事を伝えてしまうの。何処へいても声が聞こえるわけでもない、いくら煙でも駆け付けられる確証もない。けれどせめて、助けを呼べるように。生きたいと願うならちゃんと、手を伸ばせるように。ふーふー、と熱を覚ます貴方を横目で眺めながら、ちゃあんと呼んでくれた事ににんまりと笑顔を浮かべて)「いやぁそりゃあーまぁ、そうなんだけど...恥ずかしがってさせてくれない子も多いもんだから...素直にはいどうぞ、ってさせてくれると思っていなかったのさ...」(すこし予想外だったんだ、揶揄うつもりの言葉も、読ませない為の表情も、あんまり素直に許された物だから少しだけ崩れてしまった。“ 戴いてばかり? ”こっちのセリフだ、これまで何人の女の子を口説いて無残に散ったと思っている。これまでの境遇故か、それとも元から押しに弱いのか、断る事を知らないのか。貴方のその姿勢は一人の女性として愛おしく、そしてどこか危うげに思えた。アブノーマルというなら貴方も彼女も同じはずで、彼女はただの姿だけよく似せた塵の塊。人に紛れ込む手段としちゃあ姑息で、元は驚かして回っていたただの妖怪。化けの皮が剝がされれば人に紛れられるはずもない。本当は貴方と同じ、いや、貴方達よりもずっとあくどいイレギュラーだ。騙して人間に紛れるやつにくらい、少しは素直に欲張っておけ)『嫌な方には致しませんよ。………それから、紫苑お姉さんが独占欲をお出しになるのでしたらどんな方でも。 』「...............(誘ってる???)」(柔く、弱く、控えめに返される静かなお返し。追撃とばかりの言葉は誘い文句とも受け取れる。何も言葉が出ない、いや出せなかった。耳の長い子達を特別視するわけでもなく、そこまで交流が深いわけでも無かったが....あの子達ってみんなこうなのか?仮にそうだとしたら恐ろしくないかいこの世界???リアン嬢がこう...ずるい女の子ってだけだよな?なんて、完全に貴方の掌の上)『 ………なんて、冗談です。』(________内心ほっとした、据え膳食わぬはモテる女の恥、とは言ったって.......さすがに同じ小隊の子に本格的に手を出したらあの機械の坊主になんて言われるかわからない。思いとどまった自分を褒めたたえてハグしてやりたいくらいだった。“オフィスラブ”なんて魅力的で聞こえは良いが...今だってきっちり三台、計六台は見張られている状況だ。そんなの趣味でも無いしあまりにも早すぎる。意識させるだけのつもりが貴方の手玉に取られる始末。ミイラ取りがミイラどころか塵になってしまう所だった。細められた目に返すように、呆気に取られていた顔は少し不自然に、取り繕うように笑い返す)「.................少なくとも、他の男にはやらない方がいいよリアン嬢.....」(“ リアン嬢の身の安全的にも!! ” なんて声は心にグッと抑えたまま言葉を続ける)「そういやぁふと思っていたんだが....なんで小隊の係の中でも “記録係” に?仕事なら他にも色々ありそうだが...そういうの得意なのかい?」(長く時間が立てば読み書きの作法も忘れてしまう物、ただの人でもそうなるのに、まともに習ってもいない彼女からしたら書くことは苦手な事の一つ。任務だから仕方なく書くものではある物の、わざわざそれ専用の係に就こうとは思わなかった。他の小隊を見てもそこまで多くないものだから少し気になっていて、貴方へ向ける純粋な興味の一つでもあった) (2/6 02:36:08)
リアン>
………ですから、お相手は選びますよ。( 選ぶ選択肢なんて、与えられてないけれど。仄かに声音を尖らせて、拗ねる姿は年頃の素直になれない女の子にだってよく似ていた。貴女からすれば幾つも年下でも、その女性だって成人済み。戦闘力だってお墨付き。いかのおすしを何度も何度も反復しなくてはいけないような、幼児ではきっとないのです。柔らかに離れる体温は、纏った香りを引き連れて。後に残るのは名残ばかり。手に取ったココアはほんのり冷めていて、熔けきったマシュマロが白い放物線を描く。冷ます必要もなく口に運べば、マシュマロの甘みがココアの中に馴染みきって。途端にしゅんと消えてしまった。『 ああ、……あまり、得意ではない方だとは思います。どちらかと言えば、私は狙撃の方が得意ですね。 』踵は地面につけたまま、ブーツの中の足先だけをぱたぱた揺らして。他のルクレクル人は危険な班に付いていることが多いものだから、平穏そうなこの係は、ほんの少しだけ居心地が良くない。拳銃の形に見立てたてで、ぱきゅん、と撃ち抜いて。狙撃適性は高い方。アルマデルに来てから初めて触れたものなのに、背に隠す相棒だって手に馴染む。けれど、諸々を飲み込んで非戦闘要員とも言える係を選んだのは 『 私達の種族は迫害されています。……それが何故かなんて、知っている方も、知ろうとする方も少ないでしょう。生まれたときから、それが当たり前であるからです。紫苑お姉さんから戴いたココアが何故甘くて美味しいのか、私が知らないことと同じです。ですから、 』『 もしもアークの目的が達成されたとき、ヴィクトリア号が帰ってきたとき、…この世界で起きた全てが、アルマデルのせいで起こったことだと、お前らなんて居なければ良かったんだ、と、そう仕立てあげられたとしたら。………なんだか、悲しいじゃありませんか。此所で頑張ってきた皆様の努力が否定され、新たな迫害の対象となってしまったら。…後に続いた方々は、何も知らないままそれを引き継いでいきます。後の方々が、そんなことは無かったんだと知ることが出来るように。…だから私は、記録係なんです。 』トレンチコートに仕込まれたメモ帳を一度捲れば、それは細やかな記録、盛大な日記として此処での日々が綴られていた。空白のページのその先にだって、生きている限り記録は続き、ココアを戴いたと、そんな1文が書き込まれるのだって遠くはない。けして立派とは言えないメモ帳の表紙。けれど誰かの生きた証はその中に刻まれ、後の誰かに引き継がれる。記録は唯一、それが出来る媒体だ。長い話しに、ほんの微かに申し訳なさそうにはにかんで、それを誤魔化すようにココアを飲んだ。過去の全てが正しいことであったかは分からない。けれどその人らはただ、必死に生きていただけだ。………困ることと言ったら、街の破壊に人体実験、それらは本当の悪事で、密告書になりかねない、ということくらいだった。) (2/6 03:19:25)
七五三野紫苑>
「........照れちまうじゃないか、お姉さんに惚れちゃったか~?」(揶揄うような言葉、けれど声色はやさしげにやわらかく。えぇ勿論、貴方は大人です。ちゃんと仕事をこなそうとする頼もしい大人ですとも。...............けれど、貴方のその顔は、彼女に向けてくれたその言葉は...弱音を上手く吐き出せない子どものように見えた物ですから。離れた身体は少し起こして、今度は片手をやさしくゆっくり、貴方の頭へ。たっくさーん甘えるのだって、成長するのに必要なことなんですよ?だから、貴方が安心して甘えられる人を、弱音を吐き出せる人をちゃーんと見つけなくちゃね。)( なんだか、さっきまで手玉に取られていたのが嘘みたい。ぬるいココアはあんまりだけど、つめたいココアもまたおいしい物ですから。白く浮かぶマシュマロは雪だるまのように、その形だけ残して解けていく。...飲み干すのは、もう少し後でもいい。)「そうなのかい?リアン嬢の狙撃姿とは様になるねぇ...」(命を張らなくていいならその方がずっといい。警察官は暇なくらいが良いように、医者があくびが出るほど寝ぼけてた方が平穏なように。命を張るのは最低限なのが一番良い。ただまぁ、猫の手どころか子どもの手まで求められるのがこの世界の...この組織の現状だ。)「...そりゃあまぁ、お姉さんのお手製だからねぇ、缶のココアよりおいしいぞう?」(ココアの粉とホットミルク、それからマシュマロまで入っていますから。おいしいのはきっと当たり前。)「そうだねぇ、...お姉さん“忘れっぽい”もんだからさ、いろーんな所に行ってても、ながーい時間生きてても.....気が付いたらすぐ“忘れちゃう”のさ。日記でも書く癖あれば読み物として結構売れたと思うんだけどねぇ...」(今思うともったいないことだったね、なんて冗談を一つ。)「まぁきっと...誰かを“ 忘れちまう ”のも、誰かに“ 忘れられる” のも両方、虚しいもんなんだろうね」(...もうその感情すら薄れかかっているのが何より悲しいことだ。“記憶の中でだけの存在”にすら、もう私は出会うことも許されない。いくら謝りたくたって、誰に謝ればいいのかもわからない。思い出せれば多少は、その罪への懺悔になったんだろうか。忘れてしまう人がいないように、その人達が思い出せるように、新しく知れるように、歴史を綴ることは誰かの救いにだって成り得るだろう。)(人間はその人の歴史によって形作られる。けれど..................人間と言う記憶媒体じゃあ、処理をするのには“楽過ぎる”。“知ってしまった” やつを見つけて、呼吸でも止めればもうおしまい。“正攻法” じゃもう手の届きようがないブラックボックス。臓器の全部を取り替えたって、“記憶媒体”ごと取り出したって、そいつの歴史の全てを知れやしないんですから。電子機器に刻んだ方がずっと、後始末は面倒だ。もう手の届かない場所に行ってしまった歴史も、記録も、思いも。それが残っていれば大発見で...それが世界の仕組みを変えるかもしれない。“ 当たり前 ”を変えれるかもしれない。....もうすでにあきらめてしまった、“誰か”の希望になるかもしれない。)( 我々<アルマデル>は秘密組織だ、母船ヴィクトリアの影に隠された者達だ。そう、成るベくして作られた者達だ。人類の歴史は、勝者達が作った物。時には論で、時には司法で、また時には...戦争で。“都合の悪い物”は全部黒塗りにされた。誰にも知られない存在達が、そうやって悪役を押しつけられた。そうしていたのが人間の歴史だ。だがもし、塗りつぶされた者達の歴史が残っていたら?“ アンネの日記 ”と成り得る物が残っていたら?それを読んだ者達は一体、何を思うだろうか。)「そうだねぇ、じゃあひとまず...この報告書はもうちょっと書いておこうかな。お姉さん一応現場向かってたわけだし」(今回の爆発は事件とも言える物だった。その職員の被害への無責任さ故の事故ともいえる物だった。結果だけ見ればきっとそう捉えられる。だから、その場にいた自分達だからこそわかる経緯を記して置けば、...免罪符とはいわずとも、上辺だけ汲み取られるよりはマシになるんじゃないだろうか。なんて、受け取る未来の人間たちに託した “希望論” を。) (2/6 05:12:54)
リアン>
………………紫苑お姉さん? ( 貴女が何処か、遠くを見ているようだったから。首を傾げた女性はやわやわと手を振り、空気を揺らした。煙の貴女の姿が揺らいでしまったり、飛んでいってしまうことはない。貴女は確かに此所にいる。けれど、身体だけを遺して。また別の貴女が何処かへ飛んでいってしまったような、そんな。嗚呼。『 ……………えぇ、そうしていただけると、とても、とても有り難く思います。精一杯記録してはいますが、私は現場担当ではありませんでしたから、知り得ないことも多いでしょう。 』閉じていた報告書の蓋を開く。ココアの香りを纏わない、真新しい紙とインクのみを纏った報告書。綴られた文字は中途半端に止まっていた。中身の空になったマグカップと、インクのたっぷりと詰まったボールペンを取り替えて。窪んだ溝に黒が流れる。途中で交わり、幾重にも分岐して。そうして文字が出来上がる。隣り合った文字は言葉となり、文章となり、そうして報告書が。そして、多視点から纏めあげられたそれらは今であれば報告書の束。未来であれば似た事例の参考書。果てには、歴史書として。遺そうとする限り遺るだろう。いつの日か、読み返した貴女が追憶の旅路へと向かわれます様に。遠き過去へ繋ぐ扉へとなりますように。彼女のとっての本はそういうものだった。だから、女性は嬉しそうに、柔らかに微笑む。『 ………今度は、私にココアを淹れさせてください。精一杯美味しく作りますから。 』─月──日。ココアな貴女と出会った日。/〆) (2/8 02:24:29)