敗北@01 > 今回の調査対象は うみ というカミサマであった。そのカミサマは童謡の姿を持ち、いつの間にやら耳に聞こえてくるのだという。討伐___音なんだからどう殺したり、捕まえたりするのかという話である___は不可能。正体不明、原因不明の怪奇現象。というのが事前の情報だった。あてのない旅をしている時に遭遇する。そんな条件や、わざわざメロディーが童謡の うみ である点。それらを加味して、宛もなく海を目指したらいいんじゃないかと思った。厳密にはアテがあるかのようにも思いはしたのだけれど、こんなシーズンハズレに何か観光地でもない海岸に、一番近い海を目指す。という行軍は自殺志願者くらいしかしなそうなものだし、宛がないと言ったらそうだろうと。カミサマの側も納得してくれそうな気がした。『ねえ、海さ。私見たことないんだよね。君は……行ったことある?海。世界の大部分は塩味がする水なんだってさ。意味わかんないよね。私たちはそんなところ、わざわざ歩いていかなきゃ見えないのに。もっと鬱陶しいくらい、見えてもよくない?』今はもうないけれど、北欧やロシアのそれを思わせる毛皮の厚いコートに、ズボン。モコモコと足元が浮かび上がるようなブーツ……。海に行くには寒いからと随分着込んだ服装で、ちゃりん、ちゃりん、とギアの擦れる音を鳴らしながら自転車を押して、古い商店街、シャッターが下りて元気が無い街並みに流れる、死にかけのラジオを、曇り空の絖った冷気が吹き流していくのを後目に。防壁内の坂道を登りつつ。同伴者である黒沼を僅かに見上げる。『結構……嘘ついてるよね、実は。世の中は、隠しごとばっかり。』自分でも少し声が響いて、びっくりした。とても辛いものをそうと知らずに口にしたような、あんな驚き。 (2/6 14:38:37)
焼きそばぱん@黒沼>
「海……ですか。…どうでしょう、あまり覚えていませんね。」(ゆっくりと瞬きをし、それまでしていた控え目な相槌と似た調子の回答を貴方に返す。貴方の少し前を行く彼は目深に被った学帽のつばを触り、時折貴方の歩くペースを確認しながら今回の任務の概要を頭の中でグルグルと回していた。視界の端に映る寂びた街は思い出と共にセピア色のラッピングに包まれ、もう帰って来ない主人の帰りを待っていた。そんな風景に少々ノスタルジーを感じて、また静かに瞬きをした。) 「……嘘でもつかないと、守れない事もあるんですよ。」(なんて緊張感のない緩みきった笑顔を貼り付けて答えた。正直でいる事が正しいと言われるが、実際正直でいるだけでは守れない事の方が多い。多すぎる。だから、完全な正直者である事なんてそもそもに不可能である。) (──なんて、貴方に言っても理解して貰えないでしょうけど。) (純粋な不満をぶつける貴方には皆まで言わず。ハの字眉をさらに曲げた。) (2/6 15:59:09)
敗北@01>
『……じゃあ、お揃いじゃん。』海なんて見飽きたのか、いちいち海を見たからと驚かないのか。本当に見たことがないのか。言葉から考えられることは幾つもあったかもしれないけれど。見たことが無いのと同じなら、お揃いだねと軽く笑んだ。『なんか、結構みんな誰かを守ったり、助けてくれたりするよね。』道中、小銭を払ってタバコをふたつ買った。本体である布瑠部 藍はヘビースモーカーのくせに、ろくに吸わない銘柄ばかりその場しのぎで買っては失敗するという奇癖があったというが、そんな無駄遣いをしたりはしなかった。それから、間を開いた彼の言葉に返答する。『変な人。というか……馬鹿な人。誰を助けても、その人に後から助けて貰えるわけじゃないし、その人に後から何かあっても、必ず助けられる訳じゃないじゃない。』『そしたらまた、「助けられなかった」って泣いたりするのかな。どうせ戦うって痛いんだから、頑張って余計痛くなんてしなきゃいいのに。』自転車に跨り、ヨタヨタと低速で彼にペースを合わせながら、こう述べた。いちいち誰も彼もを助けたりするきらいがある。と、率直に。馬鹿みたいだと素直に、純粋な笑みで曇天を見上げ笑った。わざわざ自分を傷つけながら他人のために動くなんていう無駄が、ただ生きていたいと願う生命には酷く馬鹿らしく見えるのにそう無理はあるまい。その痛みも血も、てんで意味不明だ。しかし、それは偽悪からでも、悪心からでもない。涼やかさ、爽やかさすらある本心からの罵倒だ。『君は……そういう人?』振り返って口にする笑顔の、果まで遠いところから。微かに。ほんの微かに______うみが、聞こえた。 (2/6 16:22:02)
https://youtu.be/9gf5lwx0ats
焼きそばぱん@黒沼>
「う〜ん。それは確かに。」(純粋が故に真っ直ぐに本心から出たであろう『馬鹿だ』という言葉に、思わず唸るような声を上げる。確かに、誰かを守ったからといって、その守った誰かは自分を守ってくれる訳では無い。自分の為ではなく、他人の為だけに自己を犠牲にするなんておかしな話。それは彼自身も思っていたことであった。) (嘘をつくことで誰かを守る。だとしても、その嘘で何も知らないが故に傷付く人間だっている。それでも嘘をついて、真綿で包んで守るのは。) (─幸せの、引き伸ばし。かな。) 「私は……」(少し悩みがちな声。答えようと口を開いた時。) (__〜♪♪) (遠くから微かに、優しい歌が聞こえた。彼は開きかけた口を閉じて、歌が流れてきた方を見た。そしてまた貴方へ視線を戻すと)「聞こえ……ましたか?」(と、静かな声で問いかけた。) (2/6 16:54:34)
敗北@01>
『うん、聞こえた。』商店街のラジオが、楽器店の試演が、道行く車がはね上げる石ころが。そして、坂の向こう、遠くのさざ波が。オーケストラを思わせる重厚な重なりとなって、メロディーに変化し、歌を紡いでいる。それがカミサマであること、それは怪異であること。そんなものを気にしないと言った穏やかな顔つきで、指先をタクトのように八の字に振るえば。『……乗って。こう見えて、【走る】のは得意だからさ。』自転車の荷台を軽く叩いた。元はこの街自体が山道だったのだろう、点々と店があった商店街を抜けた先、あかりもあまり無さげな林道が見えてきた。ここを登りきってその先_____『いこ?海。君も、私も。いつ死ぬか分からないんだから。』『天国で、海の話もできない一生でどうするの。』さあ、天国の扉を叩こうか。歌の聞こえる海に向かって、多分他の研究員なら引き上げるだろう方向に向かって、走り出そうと爛漫に笑うのだ。 (2/6 17:04:50)
焼きそばぱん@黒沼>
(それは彼が高校生の時、液晶画面の向こうで見たシチュエーションにとても似ていた。真夏の日に、青年が同い年の少女を励ます為に自転車でどこかへ連れ出す。季節こそ違えど、貴方の輝くような笑顔にはあの時画面に映し出されていた青年と似たようなものを感じた。) (─まぁ、今から行くのは楽しい冒険ではなく調査なんですけどね。) 「いいですね。その代わり、安全運転でお願いしますよ。」(ゆっくりと瞬きをひとつ。街の生活音とその中に聞こえる うみ のメロディーを聞きながら、貴方の誘いを承諾する。天国が本当にあるかなんて分からないが、もし、天国で自分と話をしてくれる人間がいるのなら。海の話をするのもいいだろう。)「失礼します。」(丁寧にお辞儀をしてからそっと荷台に股がり、片手で荷台をつかみ、もう片方の手で学帽を押さえると、こくりと頷いて出発できる意思表示をするだろう。) (2/6 18:05:20)
敗北@01>
走る、走る、林道を抜けて。帰りたいなんて心は、帰る場所があるから抱く言葉だ。そんなもの、生まれて何日もないこの女にはない。産まれたその場所が故郷なら、そこは獄炎の中。育つその場所が故郷なら、育ててもらった恩も縁も理解するほどにそこに居ない。死に向かって走り出してしまうような、羅針盤もコンパスもない方角に全力疾走するような。そんな赤子の前に歩く力を前にして、帰るなんて文字はないのだ。海は広いな、大きいな。本当に大きいの?本当に広いの?と頭の中で疑問を投げかけていく。月がのぼるし 日が沈む。月の登る時間も、日が沈むのも見たことなんてない。海は大波、青い波。ゆれてどこまで続くやら。ああ_____波は揺れているのか。縦に?横に? そんなものを聞いて、帰りたいなんて_____ああ、馬鹿らしい。『晴れてきた……。ねえ、晴れたよ。』ぼやけた昼下がり、冬の曇り空の灰色が、白と青に溶かされていく。天気は快晴とは言わぬが晴れ、冬が鋭くなり、たくさんの氷を積んでかき混ぜた透明なグラスに頭から飛び込んだような____ひやり。とした心地よい冷たさが肌を撫でていく。緩やかな風、吹雪くように寒風吹きすさぶようにならないが故の、なぶる様な寒さも。今は心地よくラジエーターのように身体を冷やして気持ちいい。『……あ。』頂上。そこには_____空が2つあった。空の青と、海の青。いや、彼女にはそれが、海の青だなんて分かっていない。空が重なり合い、混ざり合い。何かの拍子に2つ生まれてしまったようにしか見えなかった。けれど、綺麗だった。湿気て巻き上がる白浪、砕け散る波濤、本当にはるか遠くまで見えそうな彼方。『あれ、海?』後に続く言葉、01なんて記号しかない彼女が何を思ったかなんて_____いちいち要らない。何より雄弁に、何より爽やかに。ジェットコースターのような下り坂に、ペダルを踏み込んでいたから。『歌は?ねえ!君は_____どこから歌ってるの?どれくらい遠くに、どれくらい近くにいるの。』『……にひ。歌おうよ。負けずにさ、うみ。そのまま、海岸まで……。ブレーキ踏まずに、行けるか。チャレンジしてみよーぜ。』さあ。息を吸って…… (2/6 18:33:50)