ダウノット>
[ ○月×日 謀月の件について、事務棟3007室で話がしたい。都合がつかなければ──── ] 宛名のあるお手紙をちゃんと出すのなんて初めてだった。赤いポストに入れて、郵便局員さんに運んでもらう形式じゃなく切手もない。内容だって夢のあるようなものじゃない。もしかすれば、それは世間一般的なお手紙ではなかったかも知れないが……お手紙と思う限りお手紙だろう。事務棟の一室。小会議室と呼ばれる部屋は、普段と少しばかり風貌が違っていた。ホワイトボードや白い組み立て型の机、キャスター付きの回る椅子。そんな備品の数が減ったような様は無い。けれど、それらの一つ一つがピカピカに磨かれ、机の上には篭に載ったお菓子や魔法瓶、それからマグカップが。椅子の上にはデフォルメされた恐竜柄のカバーを纏った、ふかふかのクッションが乗っていた。時刻は指定した時間の20分前。ふぅ、と息を吐けば、仕上げの品を布地越しに手に取った。) ( さて、貴女がお手紙に記した部屋に時間通りに来てくれたのならば、─────パァンッッ!!貴女の鼓膜を先ず貫いたのはそんな音だった。 ) ( 微かに香る火薬の匂い。重力に従って地に落ちる____光を反射して輝く、細かな色紙が。 ) 『 ─────こんなご時世に申し出に応じてくれたことに、先ずは感謝を口にしよう。今日は来てくれて有難う。……それから、宜しく頼むよ。ドローンで監視もされていなかった当時の事を知っているのは、当事者であるキミくらいでね。然りとて、事が事だ、話し難いものだろう。ならば聞かなければいいだけだが、そこは生憎ボクの都合でそうはいかない。………そこで、だ。なるべく明るくしてみようと思った訳だが…………どう思う? 』〝クラッカー〟を構えて貴女の真正面に立つ彼女は、そんな言葉から会話を始めた。) (2/9 22:41:07)
雨夜鳥 志乃紀>
(寮室に備え付けられたポストが仕事をするのは稀なことだ。殆どが携帯端末上のデータのやりとりで行われている今の時代に、紙媒体で私事をやりとりすることは滅多になく。また光熱費なんかは仕事の明細から天引きするよう願っているため、請求書なんかも滅多に来ない。だから、お飾りだったポストは心なしか楽しそうにその口を開き、貴方の手紙を嚥下したのでしょうね。)[ ○月×日 謀月の件について、事務棟3007室で話が_____](その内容は、ポストとは裏腹に彼女の表情を曇らせるものだった。堅苦しい口調で綴られた日付は彼女にとって容易に忘れられる数字じゃない。)(人を殺した、2回目の日。取り返しのつかない道へ、自身の足を踏み出した日。今でも脳裏にこびりついた硝煙の匂いは濃く、また人の肉が焼けた匂いと、骨が穿たれた歪な残渣は何時になっても消えやしないだろう。)(人を、本当に人を殺した、最初の日。事情を聞きたい、と言われればどうしようもなくその足は億劫で、気付かなかったふりをしてしまおうかと何度も悩んだ。)(けれど、彼女は逃げないと。『運命と向き合って生きる』と、決めたのだから。)(彼女は今、その扉に手をかけた。)─────パァンッッ!!「ひ、っ、」(彼女の鼓膜を、そんな鋭い音が貫いた。反射的に心臓はその身をぎゅうと縮め、また彼女はその喉を小さく鳴らす。)『 ─────こんなご時世に申し出に応じてくれたことに、先ずは感謝を口にしよう。今日は_____…………どう思う?』(カーディガンを脱いだ、左の手首に赤いミサンガを巻いた彼女は目を数回ぱちくりと瞬かせ、それから君の声をかわぎりにへなへなとその場に座り込んだ、)「う……、うたれたのかと、おもった、……よか、た……、」「えと……、あは、んと……クラッカーは、ちょっと怖かった、かなぁ……」(止まっていた息を取り戻すように深く深く息を吸いながら、彼女は扉の端に捕まりながらなんとか体制を立て直す。君の問いかけに戸惑った微笑を返しながら、恐竜柄のクッションが置かれた、君の用意してくれたのであろう席に腰を下ろす。)(君への、自身の保険と牽制のために。【隠秘2_ボイスレコーダーを、念のため起動して隠し持ちます。】)(円さんも、こんな思いだったのだろうか、なんて。思い出すだけで、ちょっと吐きそう。目の前に誂えられたお菓子たちが、何だか悲しそうにみえた。)(閑話休題。)「ええと……、その。今日は、その。…………ごめん、なさい。」(「貴方が人を殺したときの話を、詳しく聞かせて」、と言われても。君がわざわざ明るくしてくれたのはありがたいけれど、どうしても死者の話では上手く彼女は笑えない。愛想笑いすら不躾で、こうして君の前に居ることすら、申し訳なく思えてしまう、から。席についても彼女は斜めに視線を下ろし、君にそう小さな謝罪を差し向ける。)「……なにから、その。はなせば、いいでしょうか、」 (2/9 23:10:05)
ダウノット>
あぁ………確かに、この音はかなり心臓に悪いな。その…………悪かった、ごめんね。( 銃声にも似ているし。飛び出すのは鉛弾ではなく賑やかな紙やテープとはいっても、このご時世なのだから尚更悪い。歓迎にはクラッカーではなく、くす玉の方が良かったかもしれない。へたれこんでしまった貴女に、彼女は眉を潜め大層罰が悪そうにして。クラッカーとまだ繋がっているテープを回収すれば、常設されている隅のゴミ箱へとっとと捨てた。踵を重心に、くるりとその場で180度の踵を返して。『 ……………初めに前置きしておくと、ボクはキミを責め立てたくて此所に呼んだ訳じゃない。…円さんが、死にたがっていることは知っていたから。生きて欲しいと願ったのなら、生きたいと思わせられなかったボクが悪い。……キミは寧ろ、円さんの夢を叶えたとも言える存在だろう。…………望んだ上ではないことだろうから、こんな言葉、気休めにすらなりはしないだろうけどね。』すとん、と席についたとき、貴女と彼女の目は会わなかった。代わりに受けたのは謝罪の言葉。想定はしていたが、望んではいなくて。ただ驚かせてしまっただけのクラッカーを密かに恨んだ。魔法瓶の中身は暖かな緑茶で、それを2つのカップに注げば、1つを貴女の前へ。『 だから、キミが謝る必要はないよ。これから酷な質問をするが、思い出したくなければ思い出さなくていいし、答えたくなければ答えなくていい。いたいけな少女をいたぶって、にたにた笑うような趣味は生憎ボクには無いからね。 』両手で持ったマグカップ。ため息混じりに、白い湯気をふぅと飛ばした。思いの外熱く感じて、飲めたのなんてほんの僅か。それでもまだ、プラシーボでも暖かな飲み物を摂取したことで、肩の力が抜けた気がした。『 ………円さんは、……死ぬとき、満足していたかい。 』 (2/9 23:33:52)
雨夜鳥 志乃紀>
(責め立てたくて此処に呼んだ訳じゃない。__謝る必要はない__答えなくていい。__優しい、易しい君の言葉に、彼女は俯きながらゆるりと首を横に振った。確かに、自分が”そう”だとバレないように偽装はした。『あの人の死にたがりを、それをたまたま謀月に罹患していた私が叶えてやった。』『利害は完全に一致していて、何の疑う余地もない。』……それは偶然が体よく重なった、よくできたシナリオだ。本当のことなど君の言うとおり彼女しか知り得ないし、きっとこの先、彼女が君に本当を話すことはない……だろう、と思う。だから、)『………円さんは、……死ぬとき、満足していたかい。』(だけど。)「……、ごめん、なさい。…………、わたしには、……わから、なかった。」(だからこそ、君に嘘を極力吐きたくない、と願った。それは自身がarkの人間であると明かし、本当は謀月など罹患していなかったと白状し、君に殺されることを受け入れる、ということではなくて。被害者ぶって、ヒロインぶって、涙を流しながらあの人の最期を語ってみせるなんてしないという、彼女なりの、円さんの命と、君と向き合う覚悟だった。)(運命と、向き合うための。)「銃を、まどかさんに借りて。撃ち方と場所を、教えて貰って。…ごめんなさい、あんまりちゃんと、覚えれて、なくて。」「………まどか、さんを殺したのは。私が、…………、わたしがよわくて。……しぬのが、怖かった、からで。」(君がよこしてくれた緑茶にそっと右手を添え、ゆらりと揺らめく湯気に視線をつよく打ち付ける。ほわり、と何時しか見えなくなってしまうそれをできるだけ最期まで目に焼き付けようと躍起になっていれば、何時の間にか、じわりと滴が浮かんでいて。誤魔化すように、熱いそれに口を付けた。)「……、まどかさんの、こと。……きいても、いいですか。どんな人だったか、……どんなふうに、生きてたか。」(君の口元に視線を遣る。……まだ、目は見れそうになくて。)(結果敵にまどかさんの願いを叶えたことにきっと近いのだろうけれど、それはただの結果論でしかなくて、彼女の胸に突き刺さった懺悔はきっときえやしない。ただ、それでも彼女は前に進むと、決めたから。)「まどかさんに、救って貰った、いのちだから。」「背負って、生きていかなきゃって。……おもう、んです。」(左手の指先で、クッションの恐竜の顔をちょいとつついてみた。) (2/10 00:05:31)
ダウノット>
……………そうか。…いや、いいよ、充分だ。………円さん、教えるの上手かったろう。ボクも1度、インボルバーの調査のときに教えてもらった経験がある。微力だから、教えてもらっても一人ではまともに撃てはしなかったけどね。結局のところ撃てたのは、豆鉄砲のようなものだった。二人で撃ったときはちゃんと火力が出ていたんだけど、それはやっぱり円さんが上手いからだろうね。改めて感服するよ。( ゆっくりと言葉を口に含んで、よく噛んで、それなのに結局、ごくんと喉が詰まってしまいそうな量で飲み込んだ。分からなかったのは、そこまで意識を向ける余裕がなかったか、それとも少しは、未練があったのか。……なんて奴だろう。安らかに眠るのなら、前者の方が圧倒的に良い。夢が叶ったと幸福な死を、娘として望むべきだ。それなのに思ってしまう、もし僅かでも、死の間際に思い残してくれたのなら、何れ程良いのだろう、と。希望的で、自己中で、あまりにも醜い願望。そうであったら、なんて、私欲に浸かってしまった見解。重たく胃に溜まって、それを誤魔化すようにまた数敵のお茶を飲んだ。瞼を伏せて、追憶の映る緑色の水面を眺める。『 ………………誰かに救われた者は、皆それを口にするね。尤も、ボクが知っているのは専ら本の中のそれくらいなものだけど。 』『 ……円さんは、…これは自慢だが、ボクにはめっぽう甘かったよ。ボクはあんまり、此所で生まれてから外に出たことがなくてね。こんな風なお菓子をくれたのは円さんが初めてだった。…お菓子はくれるし、急に部屋に行っても怒らない。扉を開けたら血だらけで、それでも抱き付こうとしたときは流石に焦ったよ。……基礎知識を披露しただけでも、ダウは賢いですねって、頭を撫でて褒めてくれた。……ボクといるときはそうやって、一人の親馬鹿が過ぎる母親みたいに円さんは生きていたよ。 』篭の中のお菓子を1つ摘まんで、封を切った。全部、円さんが買ってくれたから食べることが出来たもの。美味しさに驚きながら食べる姿に、まるであの人の方が美味しいものを食べてるみたいに笑うものだから、それが嬉しくて、嬉しさでよりいっそう美味しかった。歯を立てただけで崩れる煎餅は、その甘さが消えたからか、前食べたときよりもしょっぱく感じた。『 ………もしかしたら、情報室長の円さんを見ていた人からすれば、ボクとの印象は真反対なんじゃないかな。…そのくらいボクには甘かった。…………これは個人的な見解だけど、……そうすることで、希死念慮から目を反らしていたんじゃないかとも思う。 』『 ……ボクばかりが語ってしまったな。元より、口数が多い性分なんだ。聞き飽きてしまったら途中で口を挟んでくれても全然構いやしないからさ。 』お茶でしょっぱさなんて流してしまって、彼女はまたそっと息を吐く。思い出話を語るとき、人は大抵泣くか笑うかしているもので。対する彼女は、重たい腹の奥が冷えるような心地はしても、泣くようなことも、笑うようなこともなかった。) (2/10 01:02:05)
雨夜鳥 志乃紀 >「んーん。…………たくさん、聞けて。」(君の話を黙って聞いていた、彼女は。)「うれしい、……で、す。」(自身の背負った罪の重さに。自身に科した十字架の重さに。自身の腹の奥にたまった血の重さに、身動き一つとれないまま、ただ下手くそに苦し紛れに、笑って見せた。)(ああ、過去をやり直すことができて、円さんを殺したことをなかったことにできたらどれだけ楽だろう。円さんじゃなくて、もっと軽薄で、ルクレルク人を差別するような軽薄な人を殺していたらどうだろう。……なんて。考えたってそんなことはかなうはずもないし、きっと過去に戻れたとて、同じ道を辿っていただろう。『謀月に罹患した可哀想な職員』を助けてくれる優しい人が、殺害を喜んで受け入れてくれる人が、そういるはずもないのだし、それに。)(彼女は人を殺す罪を背負うことで、生きていくのだと選び、決めたのだから。) 「…………、ごめん、なさい。自分で、聞いたのに。……うまく、反応できなくて。」(上手く笑えないままに無理矢理こめた筋肉を溜息に溶かして吐いたなら、こんなにも生きることは難しいんだ、なんて、残りの『執行猶予』を考えつつ小さく神様を恨んでみる。この苦しみが重ければ重いほどに、彼女は生き抜くことを切に誓う、のでしょう。)「ごめんなさい、わたしも……あんまり、聞かれたこと、お話できな、くて。……記録も、その。……なくて。」(一度深く息を吐いたなら、マグカップを両手で包み、そうっとそれに口を付けた。それからきっと、漸く君の、瞳を見た。)「……わたしに、円さんの、代わりはできない、けど。……でも、だから、あのね。」「わたしに出来る事があったら、……できるだけ、なんでも頑張るから。だから、あと。……あのね。」(小さな小さな諦観と、自虐をこっそり混ぜながら、それでも。)「……”わたしが、生きるのを、見てて。”……傲慢だけど、それしか、ね。……まどかさんに報いることが、きっと、ないの。」(お願いします、なんて言いながら。彼女は君に、深く、深く頭を下げた。)(彼女は、君のために、円さんのために。そして何より彼女自身のために、””生きる””のだ。) (2/12 00:13:58)
ダウノット >
………いいよ、にこにこ笑いながら聞かれるよりは、とても勝手だけれどそっちの方が安心する。見るだけでもダメなカミサマも居るのだから、記録がないのも仕方のないことだ。…仮にあったとしても、流石に直視するほどの覚悟が出来たかは分からないしね。( 自分の発言が苦しめているようなものなのだから、抱くべきは罪悪感。だというのに、彼女以上に苦しそうに話を聞く姿を見て、ひどく安堵を覚えた。殺したことを苦しめば良いという恨みは恐らくない。ただ、自分の物差しの中で、正常な、人らしい反応。殺したことをちゃんと悔いていることに、勝手に安心したのかもしれない。どちらにしても、ひどい話。それと共に、捨て置けないような、生きてほしいような、庇護欲とでもいうのだろうか。それが芽生えたことも確かで、……不思議なものだな、と、何処か他人事のようにそう思った。口をつけたカップの中身はいつの間にか無くなっていて、少しばかりそれを残念に思いながら机上に戻す。触れたカップはまだじんわりと、暖かさのある気がして。なんとなく包んでおきながら、深い、幾重にも重なったような栗色の瞳に瞬いた。『 …………キミはキミらしく、キミの好きなように生きるといいよ。…代わりになれとは言わないし、思ってすらない、今回の件を引っ張り出して、何かを強要することもない。…両者同意の上、ボクの力不足で起こったことだ。その件に関して、こうして話を聞きはしたけれど、理不尽な駄々をキミに捏ねるのはお門違いというものだろう? ………ああでもうん、余程困ったときは頼らせてもらうよ。それから、キミがしたいのなら助走付きでボクの胸に飛び込んで来てくれても構わない、…ちょっとだけ見てみたさもあるしね。………その上で、 』『 ボクはキミの生き様を、可能な限り見守ろう。 』 もしもそれがキミの贖罪になるのなら、これは遠回しな拒絶でもあった。けれどそんな意思はなく、ただ純粋に、好きなように生きろと彼女は口にする。自身がそうであるから。直接的に傷付けられたわけではないから。端から、責め立てるつもりで呼んだわけではなく、僅かな死に際を聞けただけでも有り難かった。深く下げられた頭に僅かな困惑と、冗談を混ぜて。ダウノット・リーグリットに対して背負うものはこれくらいでいいのだと、恐竜柄のクッションを、伏せられた頭の上にぼふんと乗せて。所謂親の仇。怒って、恨んで、それが普通なのかもしれない。それが出来ないのは、おかしな事であるかもしれない。けれど一先ずはそれでいいから。魔法瓶の中のお茶と、お菓子が無くなるまで。キミが嫌がるまでは他愛のない雑談でもしてみたいなんて、気紛れに思った。/〆) (2/14 03:27:12)