雨夜鳥 志乃紀 >
「あの、噂できいたの。たいちょーさんになったって。おめでと、う。」(時刻は15時、人がちいさな休息を求めるとき。彼女と君、店主を含め5人程度しかいないこの店は一見すると廃れたものに見えるかも知れないけれど、他の客は常連らしく店主と談笑しているのが窺える。地域の人の、憩いの場。きっと此処は、そんなお店なのだろう。)(彼女の親戚が営んでいる、小さな小さな喫茶店で、少女は君に相対した。無地のインテリアで統一された空間は一件淡泊で無機質だけれど、ふわりと漂うコーヒー豆の暖かい匂いは人間らしいぬくもりがあり、よく見ればそのテーブルの端々にある小さな手書きのポップなんかは、きっとその愛が詰まっているものだ。)「……こんな状況じゃあ、おめでとう、なんて、言えないかも、だけど。」(彼女の小さい手の平はカーディガンに守られることなく、素の柔いままで暖かいマグカップに触れる。立ち上る湯気はココアの甘さをふんわりと匂わせ、また店内にかかるオルゴール調のやさしい音楽は君の心にほんの少しでも安らぎをもたらすことだろう。)「……あの、あのね。」「ききたい、ことがあるの。」(彼女は視線をさまよわせ、落ち着かせるようにそっとココアを一口含んで、それから深く息を呑んだ。)「……わたしの、大事な、大事な、お友達の。”れいれい”の、……最期、について。」(彼女はそのテーブルの上に、大事な友達を模した編みぐるみをぽつりと置いた。)「……状況を、知りたいの。……れいれいが、なんで。しんじゃったのか、とか。」 (2/11 12:49:42)
ず@コールフロムザメトロデッド >
「おめでとう、で大丈夫ですよ。(胸のはだけたままにマフラーとバイクのヘルメットを装着し、その上にシルクハットを被った面妖な様子で、彼はカフェに現れた。)僕も素直に嬉しいって訳でもないですけど…(あちらはあちらで静かに盛り上がっているようだ。それはそれで落ち着く、人は少し騒がしいくらいの場所が一番集中できる。こちらもどうやら、盛り上がりそうで。)悲しんだり哀れんだりするのは、僕は沢山はしたくないかなって。(彼は胸の内でも笑顔だった。感情がないわけではない、だから悲しんでもいる。彼にないのは表情と『才能』だけだ。)もちろん、誰かが悲しむ分には問題ないですよ。(だからその心も理解している。ただ、)なぜなら僕は、『奇術師』ですからね。(彼の生き方には似合わない。)オルゴールの曲ですか、洒落てるう。(なんて、よく似合うのは茶化す言葉。背負い、だからこそ笑って生きる幸せな姿だ。)…それで…『レイ』の、最期ですか。(だが、ただただ悲しむ人の前で笑っていられるほど無神経でもないし、もちろんやっぱり『悲しんでもいる』。)」 「彼は…(くぐもった声で、生ぬるい雨の、血痕より流れた水跡をたどる。)彼は僕の腕の中で死にました。報告内容を短縮するためでしょうが、いろいろ省かれての報告でしたから、そのいろいろで説明が足りませんでしたよね。(裾が浮く細い両腕の肘を机に突き立て、手を組んだ。口元を隠すのも、悲しみの末に感情を隠す彼らしさだ。)彼は、正確に言うと僕が殺したわけではなく、カミサマ化した『イヌガミトウマ』に出血を止められなくされて、僕とそのイヌガミさんに抵抗しながら死んでいきました。イヌガミさんも、僕ではなく彼が殺したんですけども。(奇術師の隠し技。けれどもう、それは剥がされている。)…そして僕に『裏切らないか』と言いながら、死んでいきました。(首の『独占欲』はまだ服に隠れているけれど、剥がれた隠し技はほどけて真っ正面で君に鉄面皮を見せた。)受け取りませんでしたけどね。僕は、見ての通り嘘を吐くのは苦手ですから。僕饒舌で、ついぽろっとね。(ちょっとした冗談もこぼすのも、彼が『奇術師だから』だろう。)…そう。それが、彼の最期でした。(彼を愛しているから、だろう。)」 (2/11 15:18:46)
雨夜鳥 志乃紀 >
「__________……、」(報告書の内容を盗み見たわけではないけれど、噂話程度に話は聞いていた。『裏切り者を処刑した小間使いが、その小隊の隊長に昇格した』、だなんて。なんて、なんて綺麗なお話で、君はなんて格好良い、英雄なんでしょう。)(だから、どうしても。大事な友人が何故君に殺されなければならなかったのか。何故君の英雄譚の屍にならなければいけなかったのか。どうしても、知りたかった。)「……そ、っか。」(君の表情は何一つ変わらない。それが君の特性故で何の感情も抱いてない訳ではない、なんて。彼女には、何一つ分からなくて。)「『裏切らないか』、か……そっか。」「ね、コールさん。わたしね、ききたいの。」「……なんで、れいれいはトーマさんを殺したんだろう。」「なんでれいれいは、君をArkに勧誘?した、んだろう。」(今日の空は雲が往くのが早いらしい。窓から差し込む太陽光は、足早な雲にそろりと隠されて、二人の手元に影を落とす。)「ごめんね、沢山聞いちゃって……きけるの、こーるさんしか、いなくて。」「…………わたし、ね。他にも、ルクレルク人のお友達がいっぱいいるの。だから、……人を殺しちゃうArkもだめ、だけど。ルクレルク人がいじめられるのも、悲しくて。アルマデルのそういう所は、好きじゃない。」「……れいれいは、さ。」(彼女は、れいれいは、だって。)(貴方を殺しや、しなかったんでしょう。だから今、彼女の体の内の一つ。体の中の臓器の一つが、機械のそれに成り代わっているのでしょう。)「……本当に、殺されるべき、だったの?」(じくり、じわりと泣き出しそうな胸をおさえ、彼女は君を見つめた。れいれいは君を殺さないために一度命を落としたはずで、それを彼女は身をもって知っている。)「立ち向かうべきな、相手って。……ほんとうに、Arkで。……アルマデル、だったの、かな、って。」(ちいさなちいさなしずくを零し、それを誤魔化すように少女は下手くそに笑って見せた。) (2/11 15:49:00)
ず@コールフロムザメトロデッド >
「レイは…(彼の歪みを言葉にすべきか迷った。)レイは、無邪気な少年のふりをした、悪魔。(しばらくして、口にされた言葉はあまりに鋭く。)…そうなってしまった、けれど無邪気な少年でした。(けれど、それを彼に君に突き刺すのはあまりに偲びなく、自分を正当化できるほどにこの組織が正当であるとは言えない。)僕だって、彼に死んでほしくはなかった。死ぬ必要なんてなかったと思いますよ。(だがたった1人でも、全てに手を差しのべることのできる人間でいたいから、自分のための人殺しを正当にする、できる人間を助けなかった。これも『正当化』ではある。)…僕の力不足でした。もっともっと、できることがあったと思いました。僕は少なくとも彼の所属する前にはここにいました、だからもっと。(助けたかった。けれどもうすでに。)…彼は、正直に言って歪んでいました。(彼の歪みを言葉にすべきか迷った。けれどべきでなくても、それが正当化であっても、『友人』の質問に嘘を吐くのは無粋だ。)」「『パパ』を忘れたくないから、子供のままでいたいから、パパを裏切り続けるためにパパが必要だから、何度でもパパを裏切れるから、彼はそのパパになった人を殺した。だから僕は人を守るために、彼を助けなかったのです。『救え』なかったのには…彼の死なない方法を探し出せなかったのには、責任を感じています。(心の底で彼の死を正当化すべきでないと思うから、誰かの前でもその姿を見せる。心の底を自分で疑わないように。だってそれは間違いない自分の心だ。)僕は、『人を守る』というためだけにアルマデルにいます。彼の死は正当ではない。僕の正義の、犠牲になっただけ。(表情は変わらない。声色だけで知るのは難しいだろう。彼は今、笑っていないけれど。)でもだから僕は、彼の死を背負います。(君にはその真意を伝えられない。)」「…本当に難しい質問です。彼が死ぬべきだったか、というのは。(だからその答えも、君は納得できないかもしれない。)今から、ずるい『答え』を出します。(あの時に、彼を変えることはできたのだろうか。君はできたと信じたいだろう、彼の友人ならば。…僕だってそうだ。変えられたのだろうかと悩む夜は、哀れみを捨てた今もある。)僕は彼の死が必要なものだったとは思えない。その上で、僕の行動は正しかったと思っています。(言い切るのは、その弱さを振り切るためだ。)…彼は、『だいすきだったよ』という言葉を僕に残して息絶えました。だから、彼はもうそれで幸せだった、と願っています。(あるいは傲慢と呼ぶのかもしれない。だがそれでも、それが彼の結論だ。)」「僕にとっての敵は死です。(だが、そこが変わることはない。)誰が敵でも、手が届く範囲で救いたい。人殺しを、やめさせられるものならやめさせたい。そういう生き方で、僕はここにいます。(変わったのは、哀で軽くなった『命』だ。)僕は人を守るために、ここにいる。(彼はただ、そのどちらもに立ち向かっていた。)自分を動かすには、Arkよりもここの方が自由が効いた、ってだけです。ずるい生き方ですけどね。(そして同時に、ある意味『どちら』でもあった。)僕は『奇術師』ですから。(ジョーカーは、『滑稽者』と呼ぶ。)」 (2/11 23:15:59)
雨夜鳥 志乃紀 >
「…………_________」(君の口から零された言葉は、……友人の、知らなかったゆがみは。良くも悪くも彼女の頭を強く叩き、その思考を鈍らせた。)「れい、れい……が」(しらなかった、友人のゆがみ。信じていたマリアはメッキが剥がれれば黒くくすみ、その笑みは酷く濁って、涙の水面に映るのでしょう。……それでも。)『僕は彼の死が必要なものだったとは思えない。その上で、僕の行動は正しかったと思っています。』(そう、君が零してくれるなら。)「そ、……っか。」(風は早い。目にも留まらない早さで雲を運び、また。時間も、寂しさも、……怖さも愛しさも。きっと多くのものを、遙か彼方に運んでしまう。そしてきっとその代わりに。二人の陰っていた机上には新しい光が射し、それに照らされた空気の粒はキラキラと瞬いて、それを覗いた彼女の瞳を、ひらりと小さくてらすのです。)「________すこし、むかしの話を、するね。」(『僕は人を守るために、ここにいる。』__その言葉がきけたから。)(彼女は君の瞳をまっすぐに見つめ、小さな逡巡すらすることなく。)「わたしは。……アマヤドリシノギは。Arkで生まれて、Arkで育った、の。」(警戒すらする素振りも見せず、ただ、じっと君に届くようにと、願いながら。)「お母さん達も、お父さん達も、大事な人はみんなArkに居る。だから、私は……わたしは、『うらぎりもの』、なの。」「でもね。」(店内は未だ喧噪に包まれているのだろうか。彼女の雰囲気に呑まれているのだろうか。その答えなど彼女の耳には届いちゃあいないし、どうだって良いことだけれど、”彼女の親戚”である店主は、君を、彼女をそうっと見つめていることでしょう。)「アルマデルのなかにも、ね。優しいひとが、いるのも、しってる、の。」(彼女は君の手に、そうっと自身指を伸ばす。)「だからね。……わたしも、ね。」(もし、もしも君がその指を振り払わなければ、彼女は君の指に触れ、手の甲に触れ。そしてきっと、君の手をとるのでしょう。)「わたしも、私の大事な人を。……まもり、たいの。」(彼女は自身の立場を君に明かして見せた。殺されるかも知れない、他の職員に通報されるかも知れない。そんなリスクを承知の上で、彼女は。)「おねがい、コールさん。」「Arkに入ってとは、いわないの。ただ、ただね。」(大事な兄をArkに殺され、大事な友をアルマデルに殺された、彼女は。)「大事なものをまもる、ために。力を、かしてほしいの。」(彼女自身の眼で。君に伸ばした、小さな小さな柔い手で、世界に、運命に刃を突き立てようとしている。) (2/13 15:56:59)
ず@コールフロムザメトロデッド >
「…敵も人、ですね。(いつだってそうだ。裏切り者はいつだって誰かの大切な人で、傷つけあったり殺しあったり、心中なんて綺麗な言葉で終わらせたり。人だから、理由のない冷酷非道には皆成りきれないのだろう。)驚きました。君の立場も、暴露も。(だからこそ、なぜ言ってくれたのか、と思う。君の大事な人とまでは言えないだろう。)…それでも人を殺さないと、生きていけないのでしょう。(人を守ることが彼の責務だ。この手で君を殺すことは出来ないにしても、君が人を殺す姿を黙って見過ごすこともできない。ずるいなりに、筋は通すことが彼の『背負う』ことだ。)手を貸すのは構いません。(人を守るという言葉と名声に尻尾を振る犬ではない。)ただ、1つ約束してください。(君が円情報局長を殺したのは知っている。だから簡単に、尻尾は振れない。けれどいくら裏切り者の人殺しでも、人は人だ。これはArkとの全面戦争、その中で人を守ると決めたのは、僕だ。)人殺しをしないこと。(その答えを馬鹿馬鹿しいと取るか、彼を残虐と呼ぶかは勝手だ。君の立場にしてみれば当然の行為で、彼の立場にしてみれば当然の言動、なのだろう。)」
「僕が守ります。」
「(だがその言葉は、あまりにも無責任に放たれた。あるいは君には無責任に聞こえた。)もし君が、人を殺さず自分も生きる道を見いだせなかったときは、不安に駆られても、死んでしまいそうなほどに怖くても、絶対に人を殺してはいけない。…2週間が経つそのとき、かならず君を、僕が『守ります』。(だが確かに彼は、そう言葉にした。うそぶきか、真実かは君にはわからないかもしれない。彼にはいかんせん、表情がない。だが自信に満ち溢れた言葉である。)それとも、僕に残った君の立場を『変える』権利を使ってもいい。(それは、救えなかった彼に君を守る姿を見せたいから、だろうか。)約束、できますか?(否ではない。けれど彼の『君を守りたい』気持ちに嘘はなく、そこに贖罪の気持ちはない。誰かの望んだ桃源郷のために、手を伸ばしたくて。)」 (2/13 17:05:37)
雨夜鳥 志乃紀 >
(『約束』『ただ、1つ』『人殺しをしないこと。』)「それ、は。」(人を、命を殺すこと。それはきっと、たった唯一彼女が許されない”生きる義務”だった。生きるために、誰かを守るために。そのために人を殺した、なんて、きっと誰にも許されないばかみたいな話なのに。)(エゴにまみれて、欲にまみれて、自分の大事なものと守りたいものの為にその手を血に汚す、なんて。__彼女はその覚悟を飲み込んだ、罪人だというのに。)『僕が守ります。』(告げられた言葉は簡潔に軽薄に。それでも、それでもきっと、まっすぐな質量を持って。)(実際にどうするんだと思った。ルクスさんに能力を使われてしまえば抵抗なんてできやしない。そうでなくても毎日一緒に居るなんてできやしないし、一人で居るところを襲われてしまえば何にもできやしないのに。……そんな彼女の【諦観】を、打ち砕いたのは。)「……、ぁ、」_____……それなら君がスパイであるという事実を消して誰かの手を借りても殺せなくしてしまえば手は出せない。 ………【人事考課権限】を使い、こちらの持つ情報を書き換えれば、…アマヤドリさんはアークから狙われる事が無くなる。……違いますか?_____ (彼女の脳裏に答えを差し出したのは、彼女にこの道を指し示してくれた”大切な人”の一つの言葉だ。)「……ふ、」(彼女は小さく俯いて、それから、小刻みにその肩を震わせた。)「ふ……くく、へへ、ふ、ぅ……、っ、う”ーー……っ、」(溢れる笑いを、……滴を抑えるように、自身の両手を顔にあて、小さく嗚咽を零しながら。)(胸に浮かんでしまうどうしようもない安堵と懺悔、君への小さな罪悪感と……、許されてしまったような、ちいさなちいさな自己嫌悪。)それらを、ぐっと喉の奥底へ押し込んで。(そろりと左手の小指を君に差し出して、彼女は俯く頭を何度も上下させるのでしょう。)「……っやく、そく。」(ぐしぐしとブラウスの袖で眼をこすり、それでも溢れる滴を頬に流しながら。彼女はそっと顔を上げて、ぐしゃぐしゃになりながら、それでも不器用な笑みをつくって、君に笑って見せるのでしょう。)(ごめんなさい。)「あり、がとう。」 (2/13 17:46:2
ず@コールフロムザメトロデッド >
「これは、彼のために使おうと思ってたものでした。でもそれは彼のためにならなかった。(乖離していた現実に引き戻されるのは、君と共に見れるようになったからだろうか。彼と共に見るためだろうか。)アマヤドリさん。…この花はね、あの子の、レイの残してくれた宝物です。(ヘルメットにくぐもって談笑もろくに聞こえないし、外を走る車のエンジン音は耳まで通っては来ない。視界だって真っ黒だ。軋轢の中で、彼らはまともに世界を見つめることはできなかったのだろう。)クロユリって言って…まあ正直、不吉なものではありますよ?でもね。(この花は、確かな瞳で見ようとも、この黒い視界で見ようとも、いつでも黒い。)彼からの贈り物に、『花言葉』なんて気にしちゃ無粋じゃないですか。(彼の意図はもうわからなかった。クロユリは、真っ黒だ。…そこに含まれるのは、死ともう1つ。どちらも叶うことはなかった。死んだのは彼で、自分が彼に向けていた感情は、深い深い親心としての愛だった。)だから、『この花』は、ただの『彼からの贈り物』。(残してくれたもの。背負っていくもの。)」「もう2つ、貰ったものがあります。(『奇術師』は、右腕を突き出す。)クイーン・キラーという、盾なのですが…(すると、糸の付いたトランプの束が宙を舞い、そしてそのまま彼の手のひらの上で山になった。今日は絹糸のようだ。)これを、あなたに。(そしてまるでマジックでも見せるように、山札から『ハートのエース』を繰り出した。)これもまた彼の残してくれたもの。(指を操り張った糸をぷつりと切り、差し出した。)この盾と『立場』は、君を守るために。(それを受け取れば。君は、『ペルソナ』という運命から解放されるだろう。)それは僕の意思で、彼の残したものです。持っていて。(『クイーン』を破る牙によって。)『人を守るための力』を。(その、『力』によって。)…背負えますね、その覚悟。(それは君の決意を誘った。)」 (2/13 18:57:57)
雨夜鳥 志乃紀 >
(君のクロユリをそっと見て、胸がぎゅうときつくなるのを自覚して。雨が上がるように落ち着いた雫をそうっと拭って、彼女はそっと脳裏にある。今は行けない自室にある、ブラッククローバーの輪郭をそうっと撫でた。)「……、そっか。」(『彼からの贈り物』。そう言って花を見つめる君の瞳は、やっぱりなんにも変わりやしない。表情も、その声音も、きっとその指先だって。それでも、君の言葉は何時だって、……最初から最後まで、かれに対していっとう、特別優しいですから。)「いつか、どうか。……ずっと、そのまま、枯れなければいい、ね。」(なんて戯言を、穏やかに目を伏せ笑いながら、彼女はそこに零すのです。)_____(差し出された一枚は、彼女にとっては大きな見覚えのない。……なじみのない、一枚のカード。君の指先で踊るそれはまるで、一人一人が意思を持った、君の僕のように。)(そのうちの一枚。ハートの、エース。)(中央に大きく居座るハートは傲慢に、それでも気高く存在を主張している。___ハートの首を、視線の先をそっとすぼめて、ひっかくように撫でてやる。)『…背負えますね、その覚悟。』(覚悟を。)____(雫の滲んだ、血の滲んだ。小さな小さな、等身大の指先で、彼女は。)「…………、はい。」(ゆっくりと辿るように、その重みを確かめるように。人差し指と親指でそのカードの端をつまみ、)確かに、受取った。(……無意識に詰めていた息をそうっとそうっと吐き出して、彼女は今一度胸を張る。カードを離さぬよう、両の手で確かにそれを持ち、自分の胸元に押し当てる。)「かならず、……必ず。」(君に正面から視線を投げ、ゆっくりと重厚な肯きを返したなら、きっと。)(……、彼女を縛るその糸も、きっと役目を終えるのです。)ありがとう。 (時刻はもうきっと、良い子は家に帰り出す時分。店内は仕事を終えたらしい人が徐々に増え始め、きっと店内は窓から差し込む夕の灯に暖かく包み込まれる時間なのでしょう。)「……、ごめんなさい、長々と。わたし、よるごはんのお手伝い。しないと、いけなくて。」(携帯端末のケースの横にカードを丁寧に締まったのなら、彼女はそうっと立ち上がる。彼女が浮かべた柔らかな口元にあるのは、慈愛か感謝かそれとも、……きっと、大きな。)「お金は私がもう払ったので、大丈夫、なので。」(柔らかい茶髪をふわりと小さく弾ませて、彼女は君に、改めて礼をするでしょう。)(またいつか、大切なものを守るために。) (2/13 19:28:57)