白雪&メアリー

白雪 > 
【鏡よ鏡、この世で最も美しいのは─────────……】『氷の女王様』という皮肉な渾名が定着したのは、アルマデルに所属するずっとずっと前の事だ。その名前、嫉妬深すぎる性格。白雪姫に登場する継母に、自分は笑えるくらい似ている。エンパシーを感じるなんてものじゃなく、それは次第にアイデンティティにすら近いものになっていった。『悲劇のヒロインになるくらいなら、ヴィランに』という彼女の生き方を後押ししたのは、馬鹿馬鹿しいけれどそんなお伽噺。能力を獲得した頃には、もうとっくにその事実から目を背ける事が出来なくなっていた。一人でいるとき、何度も何度も繰り返し、自分という物語の終焉についてお伽噺になぞらえながら考えた。鏡というのはどこまでも『自分』だ。継母は一度も登場しない王様でもなく、狩人でもなく、他の誰でもなく『鏡』に問いかけた。この世で最も美しいのは誰か、と。……きっと本当は、自分で出した答えだったのだろう。気づきたくなかった、気づかなければ、いつまでも『鏡』のせいにしていられたろうに。雪はホテルの廊下を歩きながら、遠くに見える貴女の姿に目が離せなくなっている自分に気づいている。気づきたくなかった。いつからだろうか。ああ、気づきたくなどなかった。なんとか目を逸らそうと俯き、貴女の存在などまるで眼中にないと自分に言い聞かせながら、焦り早くなる心臓の音を抑えつけ、あえてゆっくりと足を前に進める。高いヒールブーツはこんな時だけやけに歩きづらくて、小指と踵が泣きそうなくらい痛みだして、音と衝撃を吸収する上等な絨毯に足を絡め取られるような心地で。貴女の姿を見ないまま追い越し、角を曲がろうした瞬間───────魔術的にすら感じる官能的な残り香に立ちくらんで、とうとう、限界が訪れた。よろよろと壁に凭れ掛かり、その場に崩折れる。 背後に佇む美の化身を、雪は【認識】してしまったのだ。顔は見えなかったはずなのに、あなたという【カミサマ】と雪とは、絶望的なまでに共鳴してしまう運命であったらしい。それを相性が良いというのか、悪いというのかは、誰にも計り知れない。口元を抑えて息を殺して、競り上がる嗚咽に、涙を流していた。 (2/13 21:53:47)


しぇりこ@メアリー > 
「(貴方が____いいえ、〝お前〟が。通り過ぎようとした、肩が交わりそうに、触れそうになる距離になる、通り過ぎ去る、そのほんの一瞬。)____あらあら。(崩れ落ちる貴方の目の前に最も簡単に膝を降り、見せつけるように視えない顔で笑ってみせる、〝理想の化身〟。)ねぇ、大丈夫?(嗚咽を漏らし、涙に濡れる貴方の顔にそっと手を添える。そのままくい、と此方を向かせるのならば、輪郭すら認識できないその顔が貴方を笑いながら…いいえ、お前を嘲笑うように、心配するフリをして見ている。)どうしたの、「氷の女王様」。またの名を…白雪。(貴方が女王なら、その目の前にいる理想の化身は王なのだろうか。それがわざわざ膝をつき、そっと笑みを浮かべている。)」「ねぇ、聞こえているかしら。白雪____ああ、それともこう呼んだ方がいい?『毒林檎の女王』。ねぇ、どうして崩れ落ちたの?どうして泣いているの?ねぇ、教えて頂戴よ。お前が憧れた〝ボク〟に。(理想の化身、即ち____鏡の中のお前。鏡を見るときに思ったことはない?もう少し瞳が大きかったら、顎が小さかったら、唇がふっくらしていたら。…それだけじゃない。クラスの人気の可愛いあの子、女の子に人気な格好いい彼。ボクは鏡、正直に応えましょう。)いつものように言ってご覧なさいよ、「鏡よ鏡。この世で一番美しいのは____、」(メアリーは貴方の事を資料で見たことしかない。会ったとしても細かな事は覚えていない。貴方とメアリーが出会ったのは、貴方がまだ「理想〝メアリー〟」を追い求めているからでは、なくて?)」「(その顔になりたいと、何度誰しもが望んだ事だろうか。唇が触れそうなほどの距離に、貴方が憎たらしいとまで思う顔を近づけてこう言う。)」「____この世で一番美しいのは。紛れもなく、ボクでしょうね。」 (2/13 22:09:53)


白雪 >
 女神が微笑みかけてくれる、というのは祝福であるはずなのに。微笑んだのは【カミサマ】であって【神様】ではない。今この状況において、それは確かに【呪い】だった。呪縛が、彼女に微笑みかける。伸びる影をいっそう濃く、強くしようと、貴女はまばゆいばかりにひかっていた。「───────あっ、……あぁっ、うっ……」矢継ぎ早に与えられる言葉と情報に、雪は間抜けに喘ぐだけでろくに答えられもしなかった。目の奥が陽気病みをしている時のようにちかちかとはじける。頬に添えられた手指さえもマグノリアのつぼみのように白く滑らかに感じ、化粧の浮き、毛孔から汗がじっとりと噴き出す自分の顔が醜いものに感じられてくる。今すぐこの場を逃げ出さなければ、頭がどうにかなりそうだった。人間である以上、貴女に対抗する手段はきっと無い。───────だから、人を意のままにするため訓練した【威厳】もまるで役に立たず、赤く熟れた双眸は、貴女の顔を捉えて離さない。「メアリー、スー……」雪は貴女になりたいのだろうか。答えはきっとイエスだ。けれど、貴女になれないから、絶望して泣いているのかと言われれば……きっと答えはそう簡単なものじゃない。雪はずっと、考えていた。これまで貴女を避けながら、もし遭遇してしまったら自分はどうなるのか、と。【美しさ】というのは、実を言えば絶対的なものではなく、他人の評価、感情に過ぎない。しかし、メアリー・スーを見るものは彼女を必ず美しいと思う、ということになっている。人に合わせて貌を変えるそれこそ鏡のようなものなのかもしれないが……雪の仮説はこうだった。【メアリー・スーを見た時、正確にはメアリーという概念を脳内に流し込まれた状況になった時、”美しいから、必ず好きになる”のではない。”恋をした時と同じ精神状態になる”が本来のメアリーの能力、性質なのではないか】ということだ。美しい景色にしろ、絵画にしろ、それを見た時に現れる心の動き───────それを恋と呼ばずしてなんとするだろう。それが女性を性対象とする人物ならば、おかしくもなるだろう。例えばの話、もしも貴女に【不細工】と言い放つような人物がいたとすれば、きっとその人物は恋をした相手にそう言い放ってしまうような性質を持っていた、という事になるのではないか?そして、今の雪は───────「…………ッ……う、………とう、ま、……とうま、当馬様を、盗らないでっ、盗らないでぇえええ……うぇええっ………お願い、お願いッッ……う、ぁああっ…………」【恋をした時と同じ精神状態に陥り】───────奪われる事に、ひどく怯えて取り乱した。 (2/13 22:41:22)


しぇりこ@メアリー > 
「……とーま?(すう、と顔を離し、首を傾げる。……残念ながら、メアリーは恋という「どうしようも無い病」を引き起こす存在ではない。鏡はいつ何時だって、事実を、現実を突きつけるまでなのだから。)……ああ、狗咬当馬。〝アレ〟ね。____死んだんじゃ無くて?(立ち上がり、貴方を見下すように腕を組む。なんと哀れな、と再び嘲笑するように。)ボクと同じになってしまったんでしょ?裏切り者だったのでしょ?(そんな者を、〝盗らないで〟ですって?4番小隊、その小隊長補佐であるメアリーは小隊長である◼︎◼︎◼︎の代わりに会議に出席することもあっただろう。知らない訳がない。)」 「……そう。あーあ。残念ね?毒林檎は腐るしかないみたいよ?」「(ホテルの深い赤のカーペットが、一番美しい時期を過ぎてしまった林檎のように映る。あとは腐り落ち、自然に、地に還るのを待つことしかできないだろうに。恋の病の治療法が、恋の成熟ならば。恋の成熟が、生きて結ばれる事だけならば。)____お前はそれを抱えて、幸せになれるの?奇跡を以て狗咬当馬を復元しても、それはお前の心に傷を残したままでしょう?(淡々と、痛いくらい正直に。安直に。)わかっていたのでしょう?そんな恋、してはいけないって。(涙を拭う事も、背中を摩ることもしない。____メアリーは理想の化身かもしれない。いつもなら貴方の理想に応える様に、すんなりという事を聞いてくれるはずなのに。)」「____ボクは、お前の理想にはなれないわ。だって、死んでいるもの。」 (2/13 22:58:04)


白雪 > 「………っ、え……」吸う息と共に漏れ出た驚きの声は、自分に向けられたものだった。自分は今確かに、あの人の名を口した。自分には到底手の届かない、自分の醜さを突きつけてくる貴女という存在を認識した時、もしも彼と出会う前だったなら、その美しさを前にして漠然と【何かを盗られたくない】と怒りを覚えたのだろう。【自分を見劣りさせてくる得体のしれない何か】に怯えたのだろう。それが愛欲から来る乾きであったことを、彼という依代を通して見てしまったから、偶然にも、奇跡的にも、思い知ってしまった。それだけのことだった。メアリーが【恋を引き起こす性質を持つカミサマ】という解釈ならば、きっと定義するには足りないのだろう。けれど、【恋をした時と同じ精神状態になる】というのは、少なくとも雪には当てはまった。「ああ……」顔を覆い隠して、貴女の視線から逃れようとする。世界から隠れようとする。けれど、無慈悲な薔薇の棘は言葉となって降り注ぎ続けた。「……ごめ……なさい………私も、自分で何を言ってるのか………。いつかあなたと出会ったら、自分の中の価値観が粉々に砕け散る事になるのだろうという事は、解っていたわ。………そう、私は、ただ愛されたかっただけだったのね。」やけに素直に言葉が出るのは、貴女がカミサマだからでもあるだろうし、その美しさに搦め捕られ、ひれ伏しているからでもあるのだろう。何が氷の女王だろうか、何がヴィランだろうか。人間に過ぎない白雪の決意は今、あまりにも無力だった。か弱く清純で幼く甘い、庇護欲を唆る存在になれたら愛されると思っていた。そんな自分が世界が許せなくて、自分だけはそんな幻想(メアリー・スー)を憎んでいようと思った。けれど、そのアンチテーゼとして生み出した、自分の中にある強くて美しく邪悪な女王像より、もっと圧倒的な強さと美しさを前にして思い知る。どっちつかずで、どちらにもなれず、結局のところただ愛されたかっただけの自分。鏡は、現実を突きつけていた。「……そう、そうよ。当馬というのは、狗咬当馬の事。私、あの人に執着していたの。あの人は、私を”悲劇のヒロイン”にしてくれた唯一の男だった。……こんな話に興味はないでしょうけれど、どうしてかもう貴女には隠していたって仕様がないように思うわ………盗られたくないの、奪われたくないの、メアリー・スー、私苦しくて堪らない。貴女を見ると、なにもかも奪われてしまう気がして……!!」答えにならないような答えを口にして、貴女にすがりつくようにスカートを掴んで引っ張った。「ねえ、貴女はさぞかし愛されているのでしょうね……!私の理想にはなれない?……どういう意味かしら。貴女が理想のミューズでないなら何なの、美のカミサマなんでしょう…?死んでいるって、どういうこと?──────」虚ろな病んだ目が、貴女の認識出来ない顔をぽっかりと見つめていた。 (2/13 23:47:18)


しぇりこ@メアリー > 
「____どういう意味と聞かれても、ねぇ。(足元に縋り付く貴方を見下し、細い指で自分の頬をとんとん、と叩いてどう説明しようかと鏡は貴方を見つめた。そして数秒、理想に焦がれるには十分な時間をもって、至極真っ当に真正面から真実を伝えるのだ。)お前が鏡に見たのは、お前と…その狗咬当馬が一緒に映っているものと思っていたのよ、ボクはね。(ああ、愛しくてたまらない。そう言うように、メアリーは貴方の髪を優しく優しく撫でた。弄び、指に巻き付け、何度も何度も確かめる様に。)____でも、けれどね。」「ボクがお前から大切なモノを盗るんじゃなくて、ボクが大切なモノからお前を盗ることだってできるのよ?(そう、深淵から手を伸ばして、メアリーは言うのだ。)愛して欲しいなら、ボクがいくらでも愛してあげるのに。…そんな病、ボクという特効薬をもって終わらせてあげても良いのに。(その求め方であるならば、メアリーは、ボクはお前の理想になってあげると〝罵った〟。)」 (2/13 23:58:17)


白雪 > 
長く短い思案の間に、綯い交ぜになった羨望と情念と憎悪と渇求とは、パレットの上の絵の具がすべて一緒くたに混ざったような穢い色を織り成しながらじりじりと底から焦げ付いていく。「……”私を盗る”?」獣を調教でもするかのように、上から撫ぜつけられ弄ばれる髪。もうありもしない耳に掛かる柔らかく繊細な感覚に、ぞくっと背筋が震えた。「…………私……女は嫌いなの。」ぽつりと零した言葉は、いつもの雪のようでいて、けれどその語気はあまりにも弱々しかった。「……今まで、女性に好意を向けられた事が数度だけあったわ。性的なね。……この見た目や振る舞いは、どうやら一部の女性にとっては好ましくうつる事もあったらしいの。……彼女達が私に求めたのは、彼女達がお姫さまで居られる関係よ。……だから私は女は嫌い。私よりも”可憐なもの”といっしょにいるなんて、爪先から腐っていくようで反吐が出るわ。」焦げ付いたものはやがて炎になり、消えかけていた雪という存在の輪郭を照らしはじめた。その目は依然として、貴女からどうしようもなく逸らせずにいる。「──────私が欲しかった愛っていうのはね、そんなに綺麗なものじゃないわ!貴女は私を野獣のように醜く犯して抱き潰すことができる!?無理でしょう……!!」「私は貴女【理想】が欲しいんじゃない───────貴女【理想】になりたいのっ……!ああ、そう、そうよ………」立ち上がり、貴女の顔を両手で挟む。認識できない唇を指でなぞると、たしかにそこには顔があったようだ。雪はその柔らかな唇に噛みつくように乱暴なキスをして、強引に舌を捩じ込んだ。こみ上げる吐き気の正体が何かは解らない、けれどただイニシアティブを取り返す闘いに身を投じる覚悟で。もう一度浅ましい期待をかなぐり捨てる為に。もう一度【ヴィラン】になる為に。愛される側でなく、愛す側に回る事で、なんとか立とうとした。歪な、歪な形で。 (2/14 00:44:54)


しぇりこ@メアリー > 
「(頭が痛くなるほど流れ込む貴方の〝悲劇〟。見下し、つまらないと言うよりは興味がなさそうに瞬きを繰り返しながら髪を撫でて____、『私は貴女【理想】が欲しいんじゃない───────貴女【理想】になりたいのっ……!』)…あら、(撫でていた手が突然立ち上がった貴方に弾かれ、宙を舞った。お世辞にも優しくとは言えない強さで顔を掴まれ、濃厚な毒を流し込まれる様に激しく熱いキスを。ほんの少しの間、反射で貴方の手を掴み離そうとはしたものの、すぐに諦めた。それで貴方が満足するならば、と。)」「(…そう諦めてから、どれくらいの時間が経っただろうか。もしメアリーが人間であれば酸欠でくらつくくらいの時間、と例えれば良いだろうか。正直、ここまで欲望に忠実な女は珍しいとさえ思った。きっと、ボクが首を垂れて膝をつくまでやめないのだろうと。不意に貴方の後頭部に手を回し、今よりも深く深く此方からも舌を捻じ込んだ後。がり、という生々しい音と共に貴方は舌に痛みを感じ、次に鉄の味を感じるだろう。)……ふふ、ご馳走様。(貴方が痛みで舌を引っ込めたならば、貴方の唇についた血を舐めとってそう言った。)」「ねえ、満足できた?ボクになりたい?そんな事言われても困るのよ、だってボクは万人の理想なんだから。ああ、でもね。(また優しく貴方を撫でる。次に頬を撫でて、涙の跡が残るふっくらとした涙袋を撫でて、唇を撫でる。)____〝こんなもの〟で満足できるなら、いくらでもしてあげる。」 (2/14 01:03:04)


白 雪 > 舌を噛まれ、咄嗟にそれを引っ込めてしまった。満足げに血を舐め取る貴女はやはり美しく、余裕そうに自惚れた言葉を垂れ流しているだけで、白雪の意図や求めるものをさして理解などしていないようだった。「万人の理想……?」時間はたっぷりあった。狗咬当馬ならばこの間に腹を掻っ捌き陵辱の限りを尽くしたのだが、貴女がしたことと言えば少し舌を噛んだ程度のこと。理想だなどと宣われた時、徐々に心の奥底に住まわせて神格化していた【メアリー・スー】が瓦解していくのがわかった。「……なんだ……万人の理想なんてもの、存在しないのよね。当たり前のこと。……どうして、気づかなかったのかしら。」心にはぽっかりと穴が空いたように虚しさが訪れた。取り乱し、激情に身を任せて、その結果、なんだか肩透かしをくったような気持ちになって、ぬるいため息を吐き出す。貴女はどうしようもなく、文字通り飽きるほどに美しかったのだ。「……満足?そうね……したわ。ありがとう、貴女のおかげで、私はまた……私を取り戻す事が出来たみたい。」立ち上がったばかりの足どりは覚束ないけれど、望み通り浅ましい期待を捨てる事は出来た。”盗られる”くらいなら”盗って”喰うつもりだった。けれど鏡は、投げたものを打ち返すだけに過ぎなかったのだ。まだ頭がぐわんぐわんと傷んで、虚空の中に混乱だけを残している。「……私は貴女にはなれない、よく、わかったわ。」 (2/14 01:25:58)