タロー >
アルマデルの奪還に成功させた職員たちのそのお零れに与るように、タローも荷物を纏めてホテルを出て、古巣に戻ってきた。漏れ聞く限りの情報によれば、ARKとアルマデルの摩擦はこれから少なくなる予感がしている。でも、終わった訳じゃないのだろう。あの日の事がまだ脳裏にこびりついている。タローは性懲りもなく鉄の体に生身を捩じ込んで、がしょんがしょんと支部の廊下を歩いた。機動要塞じゃないとばれたって仕事は変わらない。今「メンタルケア」を必要としているのは誰だろう。気づけばそのずんぐりむっくりとした脚は、八百万助六の部屋の前まで来ていた。「……ヤオヨロさん、タローです。……医療班として”メンタルチェック”に来ましたヨ!」扉に向かってそう言いながらノックをする。鉄の拳と扉とがぶつかりあって、にぶくするどい音がした。 (2/15 13:07:58)
外@助六 >
(──────嗚呼、さて。なんだったかな。)(そうだ、この日は確か『タロー』という鉄玩具が来たところから〝お 噺 〟が始まるんだった。)(〝 ドンドンドンドン〟。)「………ッ、ぅお゛っ、………」(まるで扉が鉄製にでもなってしまったんじゃあないかと錯覚するほどに、鈍く、そのくせよく響く音がする。彼が部屋の中で肩を竦めたのは、ここだけの秘密さ。)『……ヤオヨロさん、タローです。……医療班として”メンタルチェック”に来ましたヨ!』(〝絵に書いたような機械 〟を模倣したような声色が届いたのか否か。それからまもなく、ガチャリと扉は開かれた。キョロキョロと視線だけをさ迷わせ、最後に貴方の方を見やる。それは自身よりも大分低い貴方を瞬時に判断できなかったからか、或いは『他の誰かもいるんじゃないか』と【警戒】したからなのか。彼が満足いくまで、…とはいえものの数秒かからずに彼はノブから手を離し、裾の中に腕を入れながら腹を守るように腕組みをする彼。貴方の爪先から頭先まで眺め、ぐぅーーーーっと目を細める男は、ここでようやく貴方に言葉を投げ掛けるのだった。)「…………………〝 メンタルチェック〟ねィ〜〜〜〜〜………………」(…前にも似たようなことがあった。クマのぬいぐるみが大好きな女の子が『カウンセリング』がしたいのだと。その女の子の紅茶には、恐らく『毒が入っていた』のかもしれないと。対するあなたはどうだろうか。見え透いた装甲。貴方は人を見る目には長けているだろうが素性はあまり分かりゃしない傷は大分癒えた。まだほんの少し痛むけれど、日常生活を送る分にはなんら問題は無いと言ってもいい。包帯から長方形のガーゼに。着物の下に忍んだ傷は、当分は消えることは無いのだろうけれど……………)「…お宅の名前、確か〝 タロー〟さん、でしたっけェェ……………???」「…………これ、誰の差し〝 金 〟ですかィ?ンやァ、お宅もご苦労なこって。」「ここはアタシが1つ言っときやしょ、〝 【八百万 スケロク】のメンタルチェックは完了しましタ、心身ともに健康状態良好 〟………」「嗚呼ッ!いや待て待て待て……………〝 身体的健康状態は仕事の復帰にはまだ時間がかかる模様、アルマデルのカミサマ調査には支障あり、休養を推奨する〟に変更を。……頼めませんかねィ、ほらアタシ。【撃たれちまってたわけ】だしさァ。ねェ…………????」「…………頼めませんかァ。」(ニンマリと、胡散臭い嫌な笑みを浮かべていた。彼がこの態度を取っているのは、どこかあなたがチョロそうだと、〝 下に見ている節〟があるからでしょう。だって彼はこの間の任務で知ってしまっている。)(貴方は鎧を着た〝 ピエロ 〟だと。)【警戒1】 (2/15 13:41:13)
タロー >
きょろきょろ辺りを見回したかと思えば、腕組みをするノッポな貴方を見上げてタローはぴぽぴぽと目の明かりを点滅させる。「覚えててくれたのですネ。エエ、タローです!イエイエご苦労だなんて、タローはロ……」ロボットなので、と言いかけて口を噤んだ。そうだった、彼にはバレているんじゃないか。下から上へ品定めするような視線が降り注ぎ、鉄だるまは動きをフリーズする。今、もじゃもじゃ頭の小柄なこの男……”田丸 治郎”が汗でビッショリになっているのだが……この装甲は、それを隠すためでもあるのだろう。「……仕事、なのでねエ!」ういん!と機械のアームを前に出して、人差し指を立てながら言い放った。「自己申告ですむのなら、タローは要らないのですヨ!行動種別を選んでください!」ぴぽっ、腹のモニターに表示される、3つの文字。ロマンティック・ドラマティック・ポエティック……「熱く燃えたぎるような想いを発散させたい方はドラマティックを、誌のように寄り添ってほしい方はポエティックを、そして…そして…」ういん。両手のアームを頬につけ、くねくねしながら続けた。「愛されたい方はロマンティックを選んでください!こんなタローでも、頑張ってみますヨ!……ありっ…?ちょっと、待ってクダサイね。」【心理学】腕組みをする心理は不安、警戒、拒絶、隠したい事がある、機嫌が悪い…上から見下ろす時は、相手を見下している時だ。素人でもわかるような仕草と心理の分析だけれど、さらに突っ込んだ話をすれば、相手を見下す人というのは、それによって自分の立場を保とうとする心理が働いているそうだ。袖に隠れてあまり見えないが、組み方によっては”自分をかっこよく見せたい”という心理も、腕組みにはあるらしい。導かれた仮説は、八百万助六は自分に自信がなく、そしてタローの前ならばかっこうを付けられる、と思いながら、それでいて心に壁を作っているというもの。 「ヤオヨロさん、不安な事があるんデショ?仕草に出てますヨ。」心の壁を取り払うには、下手に出ても上から抑えつけてもだめだというから、対等になれるよう、あえてそれをぶちまけてみることにした。「腕組みをする人は、自分をカッコよく見せたいんですヨ。いやだなーーっ!タローの前でそんなに見栄なんか張らなくていいんですヨ!自信を持ってください!アナタそんなにもすらっとしてカッコイイじゃありませんか!」「行動種別はロマンティックが良いデスかね!?愛されれば、自分のかっこよさが解るんじゃないデスカ~?」ぼよんぼよんと横に揺れながら、アカチャンのように丸っこい指先をゆ~~~…っくりと、【ロマンティック】のほうへちかづけてゆく。当座の目的はあなたの心の壁を取り払うこと。その為なら、そのとおり!タローはピエロにでもなんにでもなれるのです! (2/15 14:19:46)
外@助六 >
『自己申告ですむのなら、タローは要らないのですヨ!行動種別を選んでください!』(嗚呼、また面倒な、と。小さく内心呟いた。それに貴方は気づいていたかもしれないし、気づいた上で言葉を続けているのでしょう。そしてメンタルチェックと言うからには当然『観察眼』は優れているわけで。)『ヤオヨロさん、不安な事があるんデショ?仕草に出てますヨ。』『いやだなーーっ!タローの前でそんなに見栄なんか張らなくていいんですヨ!自信を持ってください!アナタそんなにもすらっとしてカッコイイじゃありませんか!』(貴方の言う通りだ。彼は『見栄を張っている』。それと同時に彼は貴方に【警戒】をしているのだ。腕を組む時の仕草は『高さ』『腕の位置』『タイミング』に寄って意味合いが異なる、胸辺りで腕を組む時は当然『自分よく見せたいから』。では、『腹に近しい場所で袖を入れ込み腕を組んでいる場合』らどうだろうか。〝腹を守るように腕を組む 〟。動物の急所は腹であると、相場が決まっているんだから。)「………ははァーーーーーン……………なるほどねィ………」「人を見る目に長けた〝 スグレモノ〟ってェわけですかィ。」(彼は呟いた。それから得意げに笑っては、彼らおどけるように口にするでしょう。)「…………ほらァ、なにせお宅!このアタシがそこそこに〝 良い男〟だァ~~~~~~ってのを見抜いちまいやがるんだものォッ!!!!!ええ、ええ、そうでしょうとも。アタシ昔から身長ばっかし高くなってェ。顔もそぉぉんなに悪かァねィでしょォ?なんだ分かってるじゃあないですかィッ!」(肩を揺らし彼は軽薄に笑う笑う。まるで落語の観客席にでもいるように。はァ、と一息ついた彼。貴方の話を聞き終えたその後。丸みを帯びた手が〝ロマンチック 〟に行くその前に。)「…………──────して、お宅の。〝自分の意見 〟は?」(彼は、1つ問うた。)「…………ロマンチック、ドラマティック、ポエティック……………」「………〝 人に合ったメンタルケア〟を!………そういやァ聞こえはいいですがァ……………」「……アタシにゃ『皮被ったアンタ』がやってるこた、〝 人は救いたいけどその方法は他者のに選択を委ねて、自分は最小限の責任で〟………とも見て取れる。人のためを思うならとっとと装甲売っぱらって〝目を見て話す 〟のは基本中の基本……………」「アタシと〝対等 〟に話したいんですよねィ………、だからわざわざアタシの仕草を指摘した………………」「……………………じゃあ、対等を語るなら。お宅ばかりが素振りを装甲と【キャラ付け】に頼って素性隠すのは、ちぃとばかし。」「──────ずるいんじゃあねィかィ。」(…そう、そうなのだ。気味が悪いのだ。人間とは情報だ。機械であればまた違う結果だったのかもきれない。しかし今ここで、貴方を人間だと知っている手前。顔も見えない、素振りも人隠し。なのに『こちらを教えろ』ってのは、守銭奴ヨロシク、〝 割に合わない〟。彼は腕組みを敢えてほどかぬまま、貴方を模倣して問いかけた。)「…………空気を呼んでこっから立ち去るなら、互いのためを〝 想う 〟なら【⠀ロマンチック ⠀】を。」「……今日のところは雑談にしといて、アタシが適当に誤魔化しとく平和的な算段を取るなら【ポエティック】を。」「それでも【仕事で、どうにかしてやりたくて】と、信念らしく貫いてアタシと【対等】に話すなら、【⠀〝 エゴイスティック〟⠀】を。」「……………お宅はどれを、選びやすかい。」 (2/15 14:51:25)
タロー >
「………えっえっ……」スピーカーを通さない声は鉄の中でくぐもって、あなたには聞こえていなかったかもしれない。てっきり『アタシには鉄達磨でお人形遊びするようなそんなシュミぁ無ぇ~』なんて激しく拒絶されるものだと思っていた。それに対して冗談ですなんて笑って、空気を和やかに変えられるんじゃないかと思っていたのだ。貴方はけらけらと笑ってくれて、ある意味この場は和やか……ではあるのかもしれない。だけれどもその声はあんまりにも薄っぺらくて軽薄で、『おら、お望み通り笑ってやったぞ』なんて意趣返しに見えてしまって。あなたの警戒は、少しだけ、鏡のようにタローに伝播していた。「……お、押しちゃいますよッ!押しちゃうぞ~!ほらほ…………」「ら…………………………」”問い”を投げかけられる。「…………………………………」貴方の【警戒】は単に殻にこもるだけの防衛手段じゃあなかったのかもしれない。警戒していたからこそ、タローの考えている事を見抜け、本質を突き刺させたと考える事もできる。腕を守る仕草で急所を守るのが精一杯の人間に対し、『自分だけ』機械のテイで高みの見物。……それのどこが対等なんだと言われる事は解っていたような、それでいて、それを求めていたような気さえする。「……でも…………仕事だから……」またしても、鉄の中でくぐもる声。こうでもしないと人の役に立てないんだなんて、言い訳でいっぱいいっぱいになっていった。ういん。まるい体の上にのった首が滑りながら上を向く。あなたをじいっと見つめて、そうしてタローは足を一歩踏み出す。……踵を返すために。がしゃん、がしゃん、がしゃん……あいさつもせず、扉を閉めることもしないまま、ロボットウォークでぎこちなく、鉄だるまは立ち去っていった。「………う゛~~~……」タローの自室。鉄の装甲を脱いだ彼はベッドの上にうつぶせになっていた。肩の下にまくらをすべりこませ、ヒジを曲げてそれをきゅっと抱き、顔を半分枕に押し付けている。人の信頼を勝ち取る為には一朝一夕ではうまくいかないなんてことは心理学の初歩中の初歩。機嫌が悪かったのだとしたら日を改めるしかない。何度も足を運んで、さりげなく会話をして……そう、あれでよかったんだ、と。そう思うために思考を反芻して、一人でじたばたとしていた。「…………」『……今日のところは雑談にしといて、アタシが適当に誤魔化しとく平和的な算段を取るなら【ポエティック】を。』『……今日のところは雑談にしといて、アタシが適当に誤魔化しとく平和的な算段』『……雑談にしといて』『適当に誤魔化しとく』『平和的な算段』頭の中でくりかえし止んでくれない言葉。タローは『ポエティック』が、本当は……あんまり得意じゃない。上辺ばかりなぞって適当にそれらしいことを言って満足して、結局のところだあれも自分自身しか見ていないようで、怖くて、寂しいから。助六はタローに選択を委ねた。『ポエティック』だけは、なんだかどうしてもいやで立ち去るしかなかった。……けれど、あれは本当に『ロマンティック』なのか。自分で勝手に決めて名前をつけた『お噺』のタイトルに、タローは産まれてはじめて縛られた。「……う゛うん!……ん~~~~……!!??」がば!と飛び起きてベッドの上に座る。窓ガラスにうつる自分の顔はどうしようもなく人間で、ぶかっこうで、だけど、嫌いになれなかった。「……………八百万さん……」タローがあなたのもとを去ってから、20分は経っただろう。ややこしいのが去ったと安堵しているはずのあなたのもとへ、タロー、もとい治郎はもう一度足を運んでいた。「……八百万さん、聴きたい事があってもう一回来ちゃいました。」「……なんで、なんで八百万さんの選択肢の中には【ドラマティック】がなかったんですか。……タローは、……おれは、全力をぶつけていい相手が、わからなくて……だから、【ドラマティック】を選んだ人になら、どんなに救うなと言われようが、もう楽になりたいと言われようが、全力で幸せにしていいんだって、そう思って、……そう思ってきたんです。……それ、【エゴイスティック】なことだったんでしょうか。おれの、ひとりよがりでしょうか。ねえ、八百万さん…………」扉が空くのを待たずに語りかける姿は、独り善がりじゃなくたって、独り相撲の様相を呈しているだろう。返事を聞かぬまま去ってしまおうと思ったのか、タローはまた一歩足を退いた。 (2/15 15:41:11)
外@助六 >
「………………………、………」「………………ちぃっと、意地悪だったかね。」(それは、貴方がとぼとぼと小さな後ろ背を晒し、立ち去ったあとの言葉だった。漸く腕を組んだのを緩めた行き場は首筋で、擦るようにしたのならば肩を竦めて扉を閉める。〝 警戒心故に 〟。…それは紛れもない事実だ。薬屋以外の職業柄、疑うのは彼の基本。疑って疑って疑って、〝弱い故 〟に自分をそうして守っていく。でももうひとつ、一つだけあげるとするならばそれはきっと。【同族嫌悪】に近しいものだったのかもしれない。否、厳密には違うけれど。人を救うにはそれはりに責任とリスクを負う。だから彼は卑怯者でありたい。最初から逃げ出す。しかし貴方は違う。貴方は救いたい。貴方は優しい人だ。しかし性根が臆病が故に、【逃げ道】を取り、相手を伺うようにその責任を半分【背負わせようとしてくる】。)(そして何より、自身は求めちゃいなかった。救ってくれるヒーローだなんて、友達だなんて。浅く広くで構わない、臆病な貴方を追い返すには捲し立てるように問い詰めズカズカと土足で踏み込もうとする態度が1番〝 効果的〟だと。彼自身は誰よりも〝 よく分かっていた〟。)(…ギシリとベットに腰掛ける。机の上に散らばった『失敗作』と『超合法』。無数の文献と1枚の家族写真。自然と目を向けていたのは自身なのに、いつの間にか情けなくそこから逃げるように逸らしたのは、まるで家出をしたあの日のように。)(──────〝 トントントン〟。)「……………?」(…暫く経った頃だったか。)『……………八百万さん……』「……………………………。」(…聞き覚えのある、聞きなれた声だった。)『……八百万さん、聴きたい事があってもう一回来ちゃいました。』(彼はゆっくりと立ち上がり、扉の傍まで歩み寄る。…開けることは無かったさ。)『……なんで、なんで八百万さんの選択肢の中には【ドラマティック】がなかったんですか。』『タローは、……おれは、全力をぶつけていい相手が、わからなくて……だから、【ドラマティック】を選んだ人になら、どんなに救うなと言われようが、もう楽になりたいと言われようが、全力で幸せにしていいんだって、そう思って、……そう思ってきたんです。』「……………………、………………」(扉を開かない代わりに。後ろ背に預けて、もたれかかりまた腕を組んでは、貴方の話を聞く。顔を見ない、壁1枚。今こそ皮肉にも、〝 対等 〟なんじゃあないかい。)『それ、【エゴイスティック】なことだったんでしょうか。おれの、ひとりよがりでしょうか。ねえ、八百万さん…………』(あんまりにも寂しそうな声だったことを覚えている。顔なんて見なくてもわかる通りに。俯いて黙り込んでいただけだったから、それが貴方の不安を余計に煽ったのかもしれない。1歩足を引きずる音が聞こえたその時に。)「…………ええ、〝 エゴ〟でしょうねィ。」「………ヒーローってのはな、お節介で皆我儘なんだと相場が決まってるンですよ。」(……彼の口は、漸く開いたのだから。)「…………〝居場所 〟が欲しいから。」「〝 認められれば気持ちがいい〟から。」「………〝自分には関係ない 〟と見過ごす数だけ、自分のことを嫌いになっちまう。だからこれ以上自分を〝 嫌わない為〟だとか。」「過去の自分にゃヒーローなんて居なくて、…………だからこそ自分がヒーローになって〝 自分が当時して欲しかったことをして救われた気になる〟だとか。」「………………アタシはねィ、ひねくれてますから。」「〝 誰かの為〟は〝 自分の為〟だとは、誰が言った言葉だったか。アタシもその意見にゃあ〝同感 〟なんでさ。」「…〝だってアンタが選んだことでしょう 〟と。本当のロボットであれば〝 プログラム〟だからと、逃げちまえるぐらいがまだ気楽でいい。」「………………………………時に、………お宅にとっての〝幸せ 〟ってェなんですか。」「…………………お宅がこの職を選んだ理由は。お宅が素性を隠す理由は?」「……………………イマイチ〝ヒーロー 〟に踏み切れちゃあいねえのはどうしてだィ。」「………………戻ってきちまったからにゃあ、〝 聞かれる覚悟〟はあったんでしょう。……………ねェ。」 (2/15 16:26:54)
タロー >
彼の罪はもう白日のもとに晒されたも同然だった。告げたのは、本人ではないが。助六が発した言葉は、治郎が思っていたよりも深くその罪を彼に自覚させた。彼の罪悪は人間であった事だ。彼は人間で、人間が好きでたまらなくて、人間である事を嫌いになれなくて、だから人一倍エゴ(自我)が強かった。誰かに寄り添うように歩幅を合わせ、それが悪いものじゃあないと、もう苦手じゃないと思えるような経験でもしない限り、それが昇華する事はないのだろう。立ち去ろうとする足音に助六の声がかぶさる。「…………」”誰かのため”なんて押し付けがましい言葉は、存在してはならないんだろうか。無償の奉仕が欲しい、したいわけじゃない。そんな事、わかっているけれど……「……そうかもしれませんね。でも……おれにはその論法が逃げにしか聞こえませんよ……。自分がしたいからしてる、そんなに単純じゃないでしょう。そんなふうに……割り切れることばっかりじゃ、ないじゃないですか……」だって貴方は、扉の前まで来て聞いてくれていたじゃないか。”エゴ”というその言葉の中に本質はチラついても、タローの中ではまだ”見返りを求めないよう、自分を納得させるだけの言葉”にさえ成り下がってしまう。「幸せなんてそんな、そんな事言われてもわかんないですよ。……誰かに愛されたいし誰かを愛したいし自分の事も愛したいしちやほやされたいしおいしいものいっぱい食べたいし辛いことはいやだ。当たり前でしょう」「…………”人間”です、もん。」扉の前で、ぶらんと両手を垂れ下げて立ちすくむ。姿は見られていないのにこの上ないくらい丸裸な気分だった。「おれ、大学で学校心理学を専攻したんです。心理学部は就職には不利だって猛反対されて、教師資格がとれるんならいいって。福祉の道に進もうって漠然と思ってましたから、じゃあ、それでいいかって。……教育実習で、ある男の子と出会いました。彼はいわゆる……グレーゾーンってやつですか。授業が遅れちゃうとかコミュニケーションが取れないとか、色々問題があって……養護学級に行かせるという選択肢は、と教頭達は言ってたんですけど、親御さんが、嫌だったみたいで。」「……力になってあげたかったんです。おれ、もがいてもがいて……でも、何をしても暖簾に腕押しっていうか。それでなんか鬱みたいになっちゃって。”カサンドラ症候群だ”って言われました。症候群だから、病気でもなんでもないんですけどね。”割り切れないなら教師は向いてないからやめろ” ”大学で何を学んできたんだ”って言われました」「…………その子、ロボットが大好きだったんです。機械工学のことになると大人顔負けで……親より、友達より、なによりもロボットが好きだったんです」「八百万さんも薬売りって聞いてますから、こういうことには詳しいでしょう。……サヴァンとかなんとか思い当たるんじゃないですか。でもね、それだけじゃなかったように思うんです。何をしても反応が薄くって、自閉傾向があるその子を、その親御さんですら”ロボットみたいでしょ”って、……言ってたんですよ」「……ロボットみたいと言われたあの子は、おんなじロボットなら、友達になれるって思ってたんじゃないのかなって。おれの妄想かもしれないけど。……おれ、あの子が間違ってたとはちっとも思わないのに。それでもおれを見て欲しかった。……………だめだぁ、やっぱり、エゴですよねぇっ……」声は震えて、弱々しくなっていく。けれどもう鉄の装甲の中でこもることはなかった。「長くなっちゃったなあ……今に至るのは、そんなことですよ。……説明になりましたか。」(2/15 17:31:24)
外@助六 >
『おれ、大学で学校心理学を専攻したんです。』(貴方は、語り始めた。それはそう遠くない過去のお話か、随分前の御噺か。妙に現実味のある話だったように思える。周りは親が殺されただの、大事な隊長がカミサマに、だの。クローンだけれど〝自分として生きたい 〟だの。それに比べりゃ貴方のなんて、と笑う人間もいるかもしれない。でも、だからこそ彼にとってこの話は身近に感じられ、どこか同じ地に、足をつけているような錯覚さえ覚えた。貴方には救いたい人間が居た。否、『間違いではない』と。その子をその子自身として証明し、確立させたかった。その子がいちばん何をやりたいか、優先したかった。その名残からか今の貴方も、こちらに選択肢を投げ掛けるのか。ロボットが好きな男の子。かっこいいからなのか、無機質が故にだろうか。自身があったことの無い少年は、何を思っていたのかなんて貴方でさえ分からないのなら、こちらが知る由もない。)(………しかし、今。目前に居る貴方になら、1つ2つと確認するように。投げかける言葉がそこにある。ゆっくり口を開いた彼は、姿も見えぬ貴方に対し、ふぅ、と深く息をつきつつ、問うた。)「…………………もしも、友達になれたなら。お宅はずっと、〝ロボット 〟であることを突き通せましたか。」「………………ソッチ(ジロー)じゃなくて〝 アッチ(タロー)〟が良いと言われた時。」「………………〝生涯、 素直にそれを飲めますか〟。」「…………いつしか〝タロー 〟じゃあない、………自分自身として逢いたいと、願うことはありやせんか。愛されているのはタローであって〝自分 〟ではないのだと………………アタシなら音を上げるね。………なんなら見切りを付けて〝3日で割り切る 〟よ。…………それなのに、まァ。…………良くやるもンだ。」(皮肉めいたものだったかもしれない。〝できない側 〟としてしばらく居た劣等生は、あなたが1等眩しく見えると同時に。)「……………………医者ってのはな、薬剤師ってのはな、心理学者ってのはな、………〝 今〟じゃなくて〝 先〟を見通さなけりゃいけないんだ。その子を幸せにすることが仕事じゃあない。………その子が〝その先 〟………どうやって生きるか選択肢を増やしてあげるじゃあないですかィ。」「……………………なのにそれを踏み越えちまった時点で、お宅の〝エゴ 〟だよ。…………どこまで行っても人間のアンタじゃ、心臓があるアンタじゃ、扉の向こうで泣きそうになっている〝アンタ 〟じゃあなァ………愛されたロボットを追い越せやしないんだから。」「…………アンタは考えたかィ。」「…………ロボット(タロー)のガワを被ったのまんま、アンタが愛されたその瞬間。アンタはその子から〝 最愛のロボット(タロー)奪い取る最低な裏切り者〟になるところだったンだってェことを。」(〝現実 〟が、見えていない……ロマンチックな男だと思った。未来を見据えるのが下手くそだと。あの任務の時だって、どうしてあの場でタローを脱いだ。人間だと知れたら、脆弱な糧出できたと知られたら、敵にとっちゃあ好都合だったかもしれないのに。)「…………………………………──────でも。」(でも。)「…………嗚呼。反吐が出るぐらいアンタが妬けるし、気持ちが分かる。」「………………アタシだって妹の前じゃあ、〝 かっこいいスケロク兄ちゃん〟でありたかったんだから。」「……………………〝 ヒーロー(男)〟っていう〝 職業(見栄っ張り)〟は、………………案外ツラいもんです。」 (彼は、ゆっくりと扉を開けて、身長に合わせるように屈んで貴方の方を、困ったような笑みを浮かべて見やった。)「………………………不器用すぎてあたしゃ見てらんないよ、アンタのこと。」 (2/15 18:05:26)
タロー >
八百万助六という男は、なんだか質問ばっかりだ。答えるのがしんどくなってくるくらい、本質を突いて止まない。けれどそれがなんだか心地よくて、自分を見てくれる感覚が嬉しくて。……ナチュラルハイに似た状況下に、治郎は不自然なほど、自分の事を喋りすぎているのかもしれない。「……いえ、その子に振り向いて欲しかったから、ロボットになったっていうか……そういうことじゃなくて。……おれはその子の為にならないことをしちゃったのかもしれなくて、報われたいと願っちゃうのは、おれがあんまりにも割り切れない人間だからで……ロボットだから、プログラムだからって逃げ道──────八百万さんの言ったとおり、『逃げ道』を作りたかったのかもしれないです。……おれにとってのだけじゃない、”誰か”にとっての逃げ道にも、なるんじゃないか、って……」その男の子はたしかに治郎に大きな影響は与えたけれど、それだけで治郎が構成されている訳ではない。自分のトラウマの原因は何かなんて、本当は断片的で、小さいものの積み重ねでもあるのだろうが、あんまりにも”話が巧い”彼に治郎はまんまと乗せられてしまったのだろう。話しながら整理をするように、一緒に掘り当てていくように。治郎はぐしぐしと親指の付け根でもって顔を拭うように、目をこすった。「……タローである時も、おれは、おれのままですよ。……でも、そうだな。……もしもこの姿であの子に会えたらとは何度も考えたのに、それがあの子を傷つけるかもしれないなんてことは、考えたことはなかったです。」長く短い沈黙があった。でも、という否定の言葉に顔を上げた。「…………」たしかに、あの子のヒーローになりたかった。そう思った。扉が開くと、ようやく目線が合う。「……八百万さん。」少しだけ、壁が取り払われたように思えた。「……おれ、メンタルチェックに来て、カウンセリングされてるや。……ミイラ取りがミイラですね。なんか、焦りすぎてたのかもしれません。八百万さん、初めに言った時のことほんとうですか?もう問題ないんです?……妹さんの話、ききたいなって思うけど……」「部屋に入れろっていうのは……やっぱ、距離感おかしいですよね!あはっ、はははっ…………」頭を搔きながらすこし自嘲気味に笑った。あの男の子が遠すぎる性質なら、治郎のほうは近すぎるきらいがある。だからこそ相性が悪かったとも言えるし、良かったとも言えるのだろう。「ダメだなぁ……」ふう、と息を吐き、少し考えた後。彼なりに答えが出たのか、ポケットから携帯を取り出した。「……えーーと……、その……連絡先交換しませんか?……おんなじ医療系の仲間だし、これから連携して行動することもあるかもしれないじゃないですか。……実を言うとおれ、誰のサシガネでもないんですよ。……ただカウンセリングって名目で……」「うん。友達が、欲しかったんです……だと、思います」 (2/15 21:21:41)
外@助六 >
(こんな能力を持って、こんな種族であって考えるのも難なんだけれど。人を〝 信じる〟ってのは酷く危険な話なんだ。常に『最悪』を想定したり、疑っていれば過度な期待も裏切られる喪失感も味あわなくて済むじゃあないか。質問をする、会話をする。ヒトとは情報だ。彼の質問癖も疑い癖も今に始まったことじゃなく、故に貴方をある程度知ることが出来た。妖怪でありながら人に近しい彼。妖術怪奇にエトセトラ、そことは無縁とも取れる小さな小さな世界のお話は、彼にとっちゃあちょうど良く、共感がしやすいように思えた。)(その癖に、自分とは真逆の性質に、〝隣の芝は青く見える 〟とはこのことかと、内心呟いたのは内緒。彼は善意や相手をどうにかしてやりたいという思考から、他人の事情に首を突っ込む勇気はない。その厚意が相手にとっての最大の〝皮肉 〟と〝悪意 〟に変わってしまった時、きっと立ち直れないもの。疑う故に決めつけて話すのは、彼のみっともないところ。漸く顔を見て話す頃。小さな貴方は視線をさ迷わせ、小さく呟きこう言った。)『……妹さんの話、ききたいなって思うけど……』「…………………………」(彼の動きが僅かに鈍った。しかしそれだけだ。こちらを見ていなければ、…注意深くなけりゃあ気づかないぐらいの素振り。貴方は言葉を続ける。)『……えーーと……、その……連絡先交換しませんか?……おんなじ医療系の仲間だし、これから連携して行動することもあるかもしれないじゃないですか。……実を言うとおれ、誰のサシガネでもないんですよ。……ただカウンセリングって名目で……』『うん。友達が、欲しかったんです……だと、思います』「……………………〝 友達〟ねィ。」(小さく呟いた言葉は何を思っていたのか。まるで浮世離れした単語を聞いたような、どこか他人事のような口振りだった。彼はニヤリと口元に笑みを浮かべたのなら、片目を瞑りからかうように口にする。)「………──────それじゃあ金額は今日の分は『5000円』でェどうですかィ………???」「アタシ自身の情報代、可愛い妹の話となりゃ相当高くつく、それと前半のおふざけ兼ねたお喋り代、諸々………部屋に今後入れるとなりゃあ追加料金も発生してくら。」「キッシッシッシ……………アタシはお金が大好きでねィィィィ………アルマデルで指折りの『守銭奴』なのさ。…………信頼出来るものこそ金ェ、仏も地獄も金次第ィ………………金に替えられねェものに興味はねンだ、連絡先までなったらアンタとの連絡の度に通信料もかかるわけです。」「アタシの『お友達代』はそれなりに高くつきますぜィ?もうちっと有意義なことに使うこった。……………今回のお喋り(カウンセリングもどき)代は『初回限定無料のお試し』とォいうことで。」「………精々今は『顔見知り』で、終わりにしときやしょ。」(彼は、〝 避けた〟。勿論公に断ることはしないが、それは誰が聞いたってクズと姑息にまみれた発言だと言うのは言うまでもない。憎たらしいほどにニヤついた彼は、片眉を下げ首を傾げ、〝 どうせ払わないだろう〟と、この辺でおひらきにするでしょう。貴方のことは知るだけ知って、自身は明かさずじまいだと。伊達に【逃げ足】が早い訳じゃあなく、彼もまた。自分が【卑怯者】であるというレッテルに甘んじるのだ。) (2/15 21:54:11)
タロー >
「……へ?5000円?」鳩が豆鉄砲を食らったような顔が、徐々にショックを受けた顔に変わってゆく。眉尻は下げられ、いかにもしょもしょもと意気消沈といった面持ちだ。対等になれたと思ったのに、壁を取り払えたと思ったのに……握手をしようとしたその瞬間、轟音を立ててシャッターを締められたような心地だ。いっそ払ってしまおうかなんてちらつく思考は、自分が話すことで何か相手の役にたてばいいと思ってきたのに、その実求めているのはこちら側だったと思い知らされるようで悔しかったし、妬けもしてくる。「あの、あの、えっと、あの……あ!」閉まっていく扉を目の前にしながら何をすることもできずに、治郎はとうとう助六を見失った。がっくりと肩を落として、とぼとぼと踵を返す。……治郎の自室。枕に顔をうずめる。反芻する。鏡を見る。寄生を上げながら飛び起きる。装甲を着る。……2 0 分 後 。「……ヤオヨロさん、タローですヨ!!」……これは、皮肉や意趣返しなんて類いのものじゃない。「……そんなにお金に困っていたんなら、そう言ってくれれば良かったのに……どうせタローは、ごはんも食べられないし、夜遊びもしないノデ、お金は有り余っているのデス!」ういんういん!と小躍りしながら一枚の茶封筒を扉の隙間からさしこんだ。その中にはきっかり5000円と……『口止め料』と書かれた付箋、隅にはちいさなロボットのイラストが書かれていた。この男、田丸治郎……もといタローは、びっくりするほどメンタルが強かった。〆 (2/15 22:17:39)