雨夜鳥&ハリィ

【孤独のエチュード ver.1】

雨夜鳥 志乃紀 > 
「えっと、その……そう、そうです、その楽譜。」(彼女が居るのは実験棟のあるひとつ。先日、Arkとアルマデルが衝突した際に彼女がその手でかき乱した資料の一部に、気になるものを一つ、目にとめていたからだ。【器用】【物語】……家族の多い彼女にとって、幼子をあやすのなんて慣れたことで、そのために多少の童謡やおとぎ話なんかはひろうできるわけで。きっとピアノに触れるのも、音楽に小さな興味を持つのは、彼女にとっては必然で。)(管理されている楽譜のうちのひとつを借り、君と音連れたのはグランドピアノの置かれた一室。窓の外は日が差して、寒かった空気がじんわりと絆されている、おやつの恋しいそんなころ。)「あの、わたし、あまやどりしのぎ、と言います。ごめんなさい、その、付き合わせちゃって…」(ピアノの楽曲のカミサマに興味を持ったはいいが、彼女は先日、その右手を失った。対ルクス戦で死んだ職員を蘇生するために、【代替の器】はその右手を差し出した。__こんな状態じゃピアノなんて一人では弾けず、監督、および補佐として、その場に居合わせた君に声がかかったのだろう。)(彼女は小さく君に謝りながら、クリアファイルに収まった古い楽譜に目を通す。大体の旋律を頭で奏でながら、君にぽつりと、ひとつ。)「…えっと……、はりいさんは、ピアノはひいたこと、ある?」 (2/20 14:55:56)




敗北/ハリィ > 
『知ってるよ。前の任務に……というか、度々任務じゃ、一応居たからな。』強ばる表情を、無理して緩めた。アルマデルとアークがどんな風に仲直りをしたのかを、よりにもよって知らないままでいるような馬鹿な話もなかったからだ。混乱したし、意味不明だったし、着いていけないと思った。自分だけが恨んでいて、自分だけが怒りを感じている状態なんて、長く続くものでもない。そうした感情をだれかに共有できたなら、ある程度マシだったかもしれないが、幸せに話が終わったようなムードだったのを見て、口にできない時間が……無限に続くくらい感じた。あの日から、死ぬ気だった。治療中、危険な状態だった身体を引きずって行って、馬鹿な真似をした。今は多少落ち着いているというか、突拍子もない真似をするような頭の血ののぼり方をしていないだけで、ドキリ、と背中の寒くなるような感情はそのままだ。『……ピアノ、ねぇ。小さい頃になら多少な。1ミリも弾き方が分からねーっていう程じゃないが、生憎僕も腕一本このザマだ、繋がってる分アンタよりかはマシだろうけど。世界中人が消えた時が、あったろう。あの時にな……』腕をなくしたり、足をなくしたり、そうした人はアルマデルには無数に居るだろう。いちいち理由なんて口にしなくても良かったのかも分からない。けれど……「お前らのせいでな」と言葉には出ていないのに、そんな冷たい感情は表面に出ていて。『だから、多少弾けるとしても、今じゃ下手くそなものにはなるだろうから、その辺は許してくれよ。』ピアノに座り、指の動きをかき、かき、と嫌な音をする義手で確かめながら、下手くそなもんだから、と……何も楽しくないのに、笑った。 (2/20 15:21:30)


雨夜鳥 志乃紀 >
 (どこか冷たく、冷えるような感覚は彼女だって気が付いている。その原因、所以がどこにあるかわからないだけで、君が何に冷えて、その温度を世間で何と形容するのかがわからないだけで。)(カーディガンが一枚ない分、その冷たさはきっと直接彼女の肌を刺す。できる限り知らないふり、できる限り気にしないふりで、彼女は鍵盤の前に椅子を並べた。)『だから、多少弾けるとしても、今じゃ下手くそなものにはなるだろうから、その辺は許してくれよ。』「だいじょうぶ、」(きっとわたしも、下手だから。なんて、小さく笑って。)(彼女はまだ生きていて、彼女はまだここにいる。ローブを被り仮面を被ったとはいえ、その背格好や声の調子、掲げたときの左手や、……きっと要因はなんだっていい、彼女があの時に台頭した人間であることは、内部の人間には広まっていただろう。職員を助け、人死にを救い、Arkを退けた。その結果でなんとかきっと、追放を免れているだけで。)(だから。……だから、きっときっと君のような、苛立ちに似た何かを抱えている人はきっと、少なくなくて。)「ここからここまでわたしがひくから、そっちの、おねがい、ね。」(広い鍵盤の海を、きみとふたりで半分こ。それぞれの手の届く範囲でわけて、たどたどしくもきっとなんとか旋律を紡ぐのでしょう。休符も、間もないような拙いものだけれど、それでもきっとその道が、”2小節分”を越したなら。)「……………はりいさん、は。」(ここから先は、二人だけの。ステルスドローンでさえも見えない、二人だけの時間。)「……このあいだの、は、さ。……どう、思った。」(旋律を紡ぎながら彼女は、君に小さく問いを投げる。窓の外の風は止み、きっとその場にはピアノの音と、二人の呼吸だけが響いている。) (2/20 15:38:54)


敗北/ハリィ > 
『……(思ったより、まともに弾けるもんだ)』少しずつ音階を刻んでいく孤独のエチュード。そう難しい楽譜では無いのか、そう精緻な演奏を必要としないからか。……その両方だろうか。話しながら、なんて器用な真似にはその法則性を掴むまで時間はかかったが、差し当たり問題なく弾いていくことが出来たのは、少なくない驚きを伴った。それから、ゆっくりと微睡むように口を開いて、彼女の質問に答える。『僕はどうなるんだよ、と思った。……僕はな、はっきりいって自分さえ上手く生きてられたら結構、それでいい。これからがどうこう、アークとの揉め事で犠牲になる人がどうこう、分かり合うのがどうの、どうでもいい。反対に被害者の感情や、残される人の気持ちも知らなかったなら。もし、余裕がある時なら「いがみ合ってても仕方ない」と言えただろうさ。』本質の部分は、孤独だった。仲間のためなんて、仇討ちなんて気持ちは形骸化して、許せない自分はどうしたらいいのかと、寂しくなった。許せないなら許さなければいいのか。そのままで居ていいのだろうか_____そんな風に、あの時誰も言わなかったから話が終わったんじゃないか。『けどな、僕の友達が……君らに殺されたんだ。いい奴だったよ。その理由くらいは知りたいから。納得いかないから。……会ってすぐに人を殺すくらいの度胸はないから、きっと僕は、ルクスたちに理由を問いかけはする。』『してしまうんだろうが……本当は和解なんて、理由なんてどうでもいい。むしろ……アークの奴らを殺してやりたいよ。まあ、やりたくてやっていた訳じゃない……かもな。けど、僕だって憎みたくて憎んでるんじゃないし、じゃあ誰かを殺さなきゃいけない事なんてやりたがろうとしなきゃ良かっただろ……最初から。』 (2/20 16:02:59)


雨夜鳥 志乃紀 > 
『僕はどうなるんだよ、と思った。……』(君がそう言って彼女に語って聞かせるのは、きっとかすかで、それでも確かに生きた、大勢の言葉の本質だろう。)『被害者の感情や、遺される人の気持ちも知らなかったなら。もし、余裕がある時なら』。(それは、彼女を刺すように。彼女はそうっと君の言葉を受け取って、ゆっくりゆっくり咀嚼する。ひとより飲むのが遅いですから、鍵盤をたたく指と一緒に、一つ一つを押しつぶす。)(___彼女の決めた生きる覚悟は、あまりに独善的で自分勝手である。自分の守りたいものを守るため、自分の命を守るため。自分の大事な人の、大事なものを守るため。__じゃあ、それ以外は。自分の大事な人が、犯した罪は。)「…、うん。」(君の言葉を飲み込んだ。ただそう、小さく頷きを返す。)(君にいつかの、自分を重ねながら。)『本当は和解なんて、理由なんてどうでもいい。むしろ……アークの奴らを殺してやりたいよ。』(君の言葉は至極まっとうで、きっとそれはかつて彼女も抱いていた。捨ててしまった、怯えていたかつての、きっと元来の愛おしい生きた感情だ。)「うん。」(生きるために殺した。だから、殺された。それはきっと世界にあふれる運命で、その殺し合いの輪の中に入ってしまった以上、向き合って生きていかないといけない。…それは、大事な人に教えてもらった、彼女の芯にある言葉。罪悪感に絞殺されそうになっても、自己嫌悪で息ができなくても、それでも。許されてはいけない、贖罪の出来ない生きる罪。)「………わたし。…わたしはね、」(彼女はその、十字架を背負って尚。)「…わたしは、ころされたっていい、と思う。けど、生きようとも思ってるし、…抵抗も、する。よ。」(五線譜に並んだ音符の頭は貫かれたり、机の上にさらされたり。空白だったり詰まっていたり、生きていたり死んでいたり。それでも、きっとどれもかけたら、この曲は。この空白は、完成しない。)「……だから。」(これは君の救いのために探した言葉じゃあないから、君を救いやしないかもしれない。ただ、自分にもそう思っているかもしれない人の言葉をきいて、彼女が返せる言葉は、吐ける言葉はそれだけで。)「だから?えっと………復讐とか、仇討ちはね。許されても、いいとおもうの。だって、だって。」「きっと、そうじゃないと、救われないことって、あるから。」(この曲もきっと終焉に向かう。秒針の息が聞こえない、静かな静かなこの部屋で、話したことは二人の秘密。)「かんたんに、殺され屋…しない、けど、ね。」(許容も否定もしないまま、ちいさくちいさく、わらってみせて。) (2/20 16:38:54)


敗北/ハリィ > 
『……お前らが、最初にやったんじゃないか。最初に殺したのは、お前らじゃないか……。それを、なんだっ……!復讐は許す、そうじゃないと救われない人間もいる、だと……。』指が震えた。心が、震えた。納得したのではもちろんない。復讐したい気持ちを肯定されないのももちろん辛いし、復讐したいと、きっといつか思わなくなるのも怖いし。その為に行動をすることも苦しければ、それを口に出すには皆、各々「立派そうな理想が」あるのだって気持ちが悪かった。しかし、しかしだ。そんなこと、友達を殺されなかったことが悔しくなければまず、始まらない。『やるだけやって、嫌なら後からやり返せばいいのか……ふざけんな!!』曲は終章。しかし、その手前で……鍵盤に機械の手を叩きつける。もう、誰が聞いていたって構わないとばかりの荒々しさで。『お前らは、お前らがやったのはタダの殺人なんだぞ!?なんか根拠があろうが、この社会においては殺しは殺し……悪だ!』手をかけなかったのは、怖さもある。しかし何より、殺してやりたいが、殺人はそれでも悪だという、二律背反的な抑止力からなるものだ。『それを、なんだっ……!謝罪する訳でもなく、争いだけを終わらせれば、償い終わったかのように跳ねっ返た理屈(こと)を言ってくる。』だが、その間期待していなかった訳でも無い。理解し合うつもりはなくとも、裏切り者を分かりたいと考えた。事情を口にされるのを待った。『お前らを殺しもせず、腸が煮えくり返っても___手にかけなかったのは、なら馬鹿みたいに待っていただけなのか。納得をしたいと最初に考えたのは、事情を聞きたいから話す時間は多少なりと待ったのは、無駄か。謝罪や弁解は一つも……一つもこれ以降お前からは無いのか。』『私が殺したんじゃないというかもしれないが、お前が私の友達を殺した奴と身近にあっても、止めなかった、あまつさえ活動自体は支援していたんだろ!なら結局……お前らが、お前も、殺したんじゃないか……。』 (2/20 17:20:01)


雨夜鳥 志乃紀 > 
『……お前らが、最初にやったんじゃないか。最初に殺したのは、お前らじゃないか……。』(窓をぽつりと、雨が叩く。晴れていた空は泣き出して、…時間は、動き出した。)(大きな音にびくりと肩をすくめては君を見る。耳の奥でガンガンと大きな音は反響し、ぼやけた世界の画面いっぱいに、君の怒った顔が見える。)(まくしたてられた君の言葉はきっと正しいのだろう、少なくとも君にとっては。君の知っている世界の中で、君の見てきた世界の中で、君がその答えを導きだしたのなら、きっとそれは君にとって正解だ。ただ、きっと。)「…………、謝罪を、したら。理由を話したら。はりいさんは…、君は、君の大事な人の死を、受け入れられるって、いうの。」(こわい、大きい音も怒った人も、お前のせいだと刃を月けてくる人も大嫌いだ。それでも、それでもきっと、今だけはきっと、逃げちゃいけない。)「わたしは、私は…、きみがなんでそこまでおこってるか、わからないの。それは、ね、大事な人が殺された苦しみを、しらないとか、そういうのじゃ、なくて。」(あんまり話すのが得意じゃないから、彼女の声はとぎれとぎれ。それ、でも。)「…わたしは、君の大事なひとのことも、その人がなんで死んだのかも、…その人を殺した人が、なにを抱えてたのか、しらない、からだよ。きみがそれを、どれだけ知っているのかも、なに、も。」(君のことも君の大事な人のことも、ことの顛末も怒る理由も、彼女は何一つ知りやしない。それなのにそのままで謝ったって彼女の言葉はただのファックスの紙切れで、それはきっと、きっと。きっと、君をすくいやしないでしょうし、それに。…それに、その要因になった人の命への、冒涜でしかないからだ。) 「きみは…、君は、いままで生きる上で、一度も命を、奪ってないっていうの。一度もルクレルク人をないがしろにしないで、一度も肉を食べないで、一度もだれも、なにも殺してこなかったっていうの。…………、わたしが悪なら、正義は一体、なんだって、いうの。」(彼女は生きていく覚悟を背負った。Arkとアルマデルの間に立ち、両方の正義と両方の罪と恨みを背負った。大事な人を、大事なものを。命を、背負って生きていく覚悟を、決めたから。)「…わたしの大事なともだちは、アルマデルのひとに殺された。わたしの大事な人は、Arkに殺された。どっちも、誰かが生き抜くために。」「…わたしは、でも、だからね。…大事な人の命で生きてる、あのひとたちを。私がころしたらきっと、きっと、ね。…あのこたちが、むくわれないから。」(涙腺に涙が浮かんでも、決して零れないように上を見て、君にまっすぐに対峙する。)「ころしたって、いいよ。君がそれで、いきるためなら。君の正義に、かなうなら。………でも、でもね。」「形だけのあやまりは、しない。私は君の正義をしらないし、…君の大事な人のことも、それをうばった人のことも、なにもしらないから。…それで君が、むかしと別れられるとも、おもえないから。」(彼女は、彼女の信じる正義を貫く覚悟を背負ったから。)「…わたしは、いきるの。私を生かしてくれた命のために。”いま”生きてる、大事なもののために。」 (2/20 17:48:18)


敗北/ハリィ > 
『言ったもん勝ちだ……そんなの。殺した奴に何かを背負われても……嬉しくない!やった側に何やら大義名分のように……命を使われたくもない!救われるためにだなんてもってのほか……なんだと思ってるんだ!!命を……なんだと!!なら、殺したヤツらを助ける努力から先にしろよ!!気持ちよくなる暇があったら、そいつらをさっさと生き返らせりゃいいだろアルマデルなんだぜここはァ!!?』勝手に背負うな、勝手に美化するな。正義などと口にするなと叫ぶ。それこそ正義だと言うのでもない、悪も正義も口にするなら、殺人が社会から見たなら悪だろうという一点から。『確かに、何も殺していないかと言ったら嘘だ……僕だって、生き物は食う、カミサマは殺した。誰かの陥れるような策略があってのことなら、殺人すらある……。ルクレルク人だって、自分から殴り飛ばしたり、よりによって殺したりはしていないが、見て見ないふりはしたかもしれない………。僕の友達も似たくらいは、そうでもおかしくは無い……かもしれない。』確かに、多少は悪いかもしれない。しかし、あの時、支部長のことだって、アークからアルマデルに居直ったり、グレイ教から離反したり、そうした人間に、よりによってそれは生きるためだからと、正義からだと手をかけたりしたことはない。生きるためかどうか差し迫っていた訳でもないから話が違うというなら、自分を殺したくなるくらいまで耐えたそれは生死の境に居ないのか。『多少は悪い。だが、多少はの話……。こんな仕打ちを受けるほどの悪事か……?命を引き合いにするような目に遭うような話か……?なんで、なんで、人を結局、目的のために殺しておいて……自分の生き方があるみたいに言うやつに、友達やられたのに、相手を分かってやりたいって嘘で、自分まで騙して我慢し続けた僕が、でかい顔をされるところまで……僕ァ、辱められなきゃならない!』そうした感情が噴き出しに噴き出して。雨降りの外に目掛けて、機械ではない、血の熱さがある腕で、窓ガラスを思い切り殴った。気持ちの底にあった澱を示すように、血は赤黒く、どくり、どろり、とガラスに溶けだした。動脈や、医学的に心配になるような箇所は切らなかったらしいと、出血がノロマなので察した。しかし、その痛みは何よりも身体に、頭の芯にまで響き渡った。 (2/20 18:25:02)


雨夜鳥 志乃紀. > 
『命を……なんだと!!』(目が熱い、心臓が痛い。喉の奥がぎゅうとしまって、心臓だって苦しくって。息がまともに出来なくたって、おれるもんか、折れてやるもんか。これは、これは私が決めた道で、私が生きる術だから。)(おまえなんかに、わたしを折らせてなるものか。)「生き返らせて私が生き残れるなら生かしたよ、救ったよ、右手みたいに左手も右目も左耳も、心臓だってなんだって捧げたよ、」(だって、だってそうしなきゃ、わたしは生きられなかったから、なんて。そんな、そんな汚い穢い私欲に塗れた言い訳を、させないでくれ。)「策略のせいで人を殺したなら、策略、その、した人のせいだっていうの、あなたは悪くないっていうの、」(社会の悪じゃない、君の悪を話せ。)「違くないなら、同じなら、なんで分からないの、」(人を殺してじゃなければ生きていけないような、死んでしまうような息の苦しさを、どうして君は分からないの。)「ころさなきゃ、ころされるんだ、よ、……っ生きるの、を、選んだのが悪いなら、………ッわたしも、あなたも、みんな、みんな死ん、じゃ、え!!!」(胸を押え蹲りながら、彼女は君の叫びを聞く、確かに聞いた。それでも、それでも君の叫びは、どうしたってわからない。)「こんな仕打ちってわたしが、なにをしたの、」「あなたが生きる、ために、ルクレルク人を見殺しにしたのと、策略で人を殺したのと、何が違うって、いうの、」(息は途切れ呼吸は乱れ、堪えた雫はぼろぼろとこぼれ落ちる。耳の奥で絶叫が響く、許してとどれだけ叫んでと許して貰えない絶望が見える。押し込められた折檻部屋のように視界は暗転し、君の姿さえ見えなくなる。喉の奥から溢れそうになる許しへの呪詛は、それでも絶対に吐くものか。)(それでも、それでも、彼女は生きなければ、いけないから。)「あなたが自分に、嘘をついたのは、あなたがかってに、したこと、で、」(巻き込むな、)「あなたが……っ、あなただって、相手を、ころ、せば…ッ、復讐、すればよかった、んだ、」(巻き込むな。)「………っ、わたし、わたしは、いきるんだ、死にたくないッ…、しにたく、ない、」(彼女は生きると決めたんだ、どれだけ醜くても汚くても、生きてやるのだと決めたのだ。) (窓が割れれば外の職員は気付く。裏切り者に敏感な今、きっと他の職員が駆け付けるまでそう時間はかからないだろう。)「しにたく、ないから…………っ、だから、」(彼女の覚悟は生きること。謝るのは、覚悟を捨てるのときっと同じだ。)「わたしが、わたしがしんだら、わたしのかわりにしんでくれたま、……ッあのひとの、命の意味が、なくなるから………っ、」(だから、だから。)「わたしは、わたしは、いきるの………ッ、」「きにくわ、ないな、ら。………あなたが、いきるため、に。わたしを、……っ、わたしを、」

「…………ッ、ころし、て、みせて、よ。」 (2/20 18:56:54)


敗北/ハリィ > 
『支部長は殺した、ルクスに騙されてだ!ああ、それは防げたかもしれないさ、だが、ルクレルク人みたいなやつらなんか……どうしろっつうんだ!弱者救済に誰かに迷惑をかけず働きかけるのは自由だ、同じくらいに、必要以上に傷つけるのはともかく目を背けるのは自由だろ!何もしなかった僕が殺したんなら、ルクレルク人への恨みをいたずらに広げた、お前らアークはもっと殺しただろ!!』見殺しにした。しかし、それはあくまで自分ではなく、自分が属する社会の理不尽が、である。アークには自分で入るの___少なくとも認識している限り____だから、理不尽に投げ込まれたかのようなことを同列に言うなと。そして、無闇にルクレルク人を差別したり危害したならそれも通じるだろうが、見ない権利くらいはあるんじゃないかと。『少なくとも、大部分がある程度折り合いつけて諦めるところを、いや、それはと諦めきれないのはいいさ。けどな、社会を変えたいなんて思想ばかりが尖って、ついには人殺しも構わないなんて奴らに与した、し続けたお前は悪党だろが!!』そして、それらよりテロリスト同然のアークはより悪なのは変わらないと。『知るか……!殺さなきゃ殺されるなんて、何らかのトリックで……アークの連中が、今はいさよならと辞めたヤツらが、前々から____皆グルで、そんな言い訳をしたら通る話だろうが!!脅された、やらされた、やらなきゃダメだった!お前こそ、ニュース、新聞、ネットどれでもいい!何かで読んで嘘くさいと思わなかったか!!?一回でも……人に言うなら、お前も、一回でもだ……!』そして、無論だが、山落ち最初から最後まで、殺された側からは殺すしかなかった、なんて言葉も信じられないし、お前はそんな経験は無いのかと。『まだわかる!まだ分かるんだ!犠牲になった人を助けるための道を探すとか。その家族に、必死にお金を稼いで返そうだとか___少なくとも、同じ真似を正当化しないで、迷惑をかけないような努力をするとか。当たり前の、地道な話ならわかる______お前のは一発逆転……博打、働いたと言ったらほんの数時間の身投げ!!それで、それで正義だと……!ふざけんなァァッ!!』もし、生きていられるなら救ったんなら、救った上で生きる手段を地道に探すとか……は、アルマデルのような超常の人間の話だとして、遺族にお金くらいはと働いたり、そうした姿の方ならまだ納得は行く。しかし、それを仕方なかったから、正義のためだからと口にしてやるものでは無いだろと。遺された人間に言うのかと。張り裂けるような怒りを、ただただ真正面からぶつける。『良いんだな!僕がこれから生きるために、お前を殺しても、お前の正義は合致するんだな……ここまで、ここまで来ても変わらねぇんだな___』そこまで、そこまで来て始めて……。『こんの……裏切り者がァァァァァ______ッ!!』まるで、耐え抜いた分の恨み辛み、負の感情。それらが限界になったと示すように_____鋼鉄の怪鳥が飛び立つ。望み通り……決着をつけてやるとばかり。 (2/20 19:54:32)


雨夜鳥 志乃紀. > 
(なんとなく、なんとなく。ようやく今きっと理解した君の怒りは、『Ark』に対するものなのか…?つい先日『Ark』の中にも色んな事情がある人がいると言ったのに、話を聞けと言ったのに? 遺族には謝ったさ、あの人を大事にしてた人には謝ったさ。家がないなら家に呼んだ、命を無駄にしない約束だってした、ほおり出されないよう孤独にならないよう守ったし、出来うる限りそばに居ようときめた、命を守る約束も、あの人の尊厳を守る約束もした。……個人を見ようともしない君の為に、なんで、なんで君"なんか"に怒られなければならないのだ。)(ふつふつと、小さな小さな怒りが湧いた。怒るのは嫌いだ、悲しいのも辛いのも痛いのも嫌いだ、けれど、けれど。)「………ぅ"ー…………っっ、」「くそ、ばか、あほ、ばか、ばか、ごみ、くそ…………っくそ、くそ、もう、」(彼女にだって言いたいことはあるんだ、君のように力が強いわけでも流暢に喋れる訳でもないんだ、問題を順序よく間違えずに並べる脳みそもないんだ、問題点を、君の怒る要点を捕まえられる手もないんだ。)(自分の脳の追いつかない苛立ちを幼稚な悪態にぶつけ地団駄を踏んだなら、自分の頭をぐしゃぐしゃに掻き回し、肩で息をして考える。君の言葉をひとつずつ広い、ひとつずつに悪態を返す。)("最初に殺したのはお前らだ"、最初にルクレルク人が差別されるように仕向けたのはどっちだ。"世界のため"と正義をはって人体実験を繰り返して大勢を殺したのはどっちだ。そもそも量とか早さの問題じゃないだろう。こっちが多かった、こっちが早かった、ならばそっちの罪は消えるのか?否、断じて否だ。お前が殺した支部長を救ったのは彼女の右手だ、それは贖罪にならないのか。人殺しを世界のためだと正当化する組織にいるお前は悪じゃないのか、人体実験を平気な顔して行って、人種差別を助長して、人が無惨に死んでいくのを眺めるお前らに、悪魔みたいなお前らに声をあげるやつを悪だと叫んで殺すお前は本当に正義なのか。そんなお前の方こそ、悪じゃないのか。自分に嘘をついて騙すのは勝手にしろよ、お前の事情なんか知らないよ。)「巻き込ま、………っ、巻き込むな、おまえの、事情なんか………ッッしら、っねぇ、えーーよ!!!!」「おまえの悲しいのなんて、しらない、わたしだって、わたしだって理由があるよ言い訳したいよ、逃げたいよ殺したくなんてなかったよ、こんなことしたくない、死にたくない、ただ、普通に幸せに生きたかったよ、」「でも………、でも、"わたしは、産まれちゃったから"………ッ、おとうさんたちが、すきだから、…………っっ違ういいわけなんて、言い訳なんてしないんだ、わたしは、私はじぶんできめたの、死にたくないからいきるんだ、だうちゃんのためにも…………っっ、いきて、代わりにそばに居るって決めたんだ、」(おまえに、わたしの生の否定なんてさせてたまるか。わたしのいきる理由を否定させてたまるか。わたしは惰性で生きて殺したんじゃない、生きることを、殺すことを選んだんだ。背負ったんだ、決めたんだ、誓ったんだ。だから、だから。)「わたしは、わたしは…………っっ、い き る の……っっ!!!!」(自分を騙すことで正義から逃げて、惰性に生に逃げて、その末に大義名分がなきゃ生きることを選べないお前なんかに、まけない。)(_____遠くから、足音がみっつ。) (言いたいことは、叫びたいことはいくつもある。言いたいことを言うのは嫌いだ、否定されたら悲しいから、叶わなかったら苦しいから。届かなかったら虚しいから、自分の無力さを、呪うから。心臓が痛い、喉が痛い。出したこともないような大声に荒い言葉、酷い言葉を言う度に自分の口が穢れていって、死んでしまいたくて仕方がない。)(それでも、それでもこれだけは譲れなかった。)「量じゃ、早さじゃない、」「人を殺したのは、こっちもそっちも、おんなじことで、どっちもだめ、だけど………ッ」「………っあるまでるも、あーくだって、…ぅ、優しいひとも、いい人もいるのを知ってる、から、だから、…………っだから、『Arkだからって殺さないで、話を聞いて』って、言ったんだ、」(彼女は君の真正面に立ち、涙をぼろぼろと零しながら、それでも確かに君を見すえて話すんだ。)「君がうらむのは、きみの仇は、わたしじゃないはず、でしょ、だから、……っ、"わたしのつぐない"を、殺さないで、」(君の明日を尋ねさせてくれ。)「……ッきみは、きみは、どうしたい、の。」(君は、彼女を殺せば満足なのか?)(違うはずだ。) (2/20 20:55:38)


敗北/ハリィ > 
『……ど、い、つ、も、こ、い、つ、も……。何言ってるか分かんねーんだよ。話なんてなんで聞くんだよ、かったりーぃ。いい人は居る?いい人は居る……よりによって巻き込むなァァ!?はは、ばーぁっかじゃあねーの!?』嘲笑。結局はそのまま変わらないだけでした、おしまい。という一文で片付くような、しかし、そこに行くまでは確かに悲劇しか無かった回り道。何もかもが裏目で、たまに少しだけ優しくできても、それは末期ガンの患者がたまに元気になっているようなだけで。かっこいい決意、かっこいいセリフがいくらあっても、それをずっと心に決めていられるかは別で。最初は、自分のミスで同僚が死んだ。それを少し綺麗に見えたなんて言い出せないから、それを罪悪感にアルマデルで罪滅ぼしを願って。次に、友達が死んだ。どうしたら分からないから、アークへの復讐に寄りかかって、それはダメなんじゃないかと周りにながされて、じゃあ黙って自分の仕事をしようと思って、唯一誇れた、唯一頑張ったアルマデルも取られて。理解する方向に進もうとしてまた、ダメだったから仲間をまた自分で殺しはぐって。結局、今もうアルマデルとアークが仲良くなったとしたら。もう何にもよりかかれないから、死のうとして。その果てに、一生懸命自分を助けてくれた人に、まさかまだ無理かもとは言えないまま別れたりして。『んな事は僕が決めるんだよ、誰に当たって誰に当たらないか、そんなのに合理的な説明をくれると思うなよ!!救えねーやつが救えねー考えでいるってでいいだろ。結局、いくら考えても納得いかねーんだよ……』結局、何が後に残るんだよと嗚咽交じりに自嘲する。『明日なんてやりたいことなんて、いくら探しても、何もかも上手くいかねーし……もうねぇもんはねぇんだよ!犯人なんて見つけたら……もしかしたら犯人だってなんか事情があるかもしれねぇよ知ってるよ!!それを知ったりするのだって怖ぇんだよ!!仕方かったやら受け入れてたやら言われたら、あんなに悲しかったのはどうなるんだよ、バカみてーじゃん!??』本人とリンクする性質がある硝煙皇女(レイナ・デ・ラグリマ)は、ギィギイとエンジンが息をついて、悲鳴をあげる。いつの間にやら、ヒーローに置いて行かれたと思い込んで。そうしたら、本当に誰も彼もに置き去りにされていたんじゃないかと周りを見たら、助けて、と名前を呼べる人なんていなくって。自分の中の迷宮から抜け出せなくなって、雄々しく空を翔る鉄の夜鷹の能力が、皮肉に見えるほど鳥籠の中だ。『あー____は、はは。まあどの道、ドローン?だかに見張られてるし、まあどんなようにか、始末されんのも時間の問題だろ。なら……じゃあ、もう。やるしか、ねぇなァァ……!』それから……本人の自暴自棄をも伝えるように……。無機質な火力を、多分普段ならまかり間違っても人間になんて使わないくらいの量だけの弾丸をデタラメに、雨夜鳥の周りごと吹き飛べと放つ。 (2/20 21:45:52)


雨夜鳥 志乃紀 > 
(あぁ、なんだ。結局_____、結局、ただの八つ当たり。)『話なんてなんで聞くんだよ、かったりーぃ。』『誰に当たって誰に当たらないか、そんなのに合理的な説明をくれると思うなよ!!』(やけくそのように吐き出したその言葉は、やっぱりどこか遠い場所。私をみて、君を見るから。組織じゃないんだ、個人を見て。憎むべきを、愛すべきを間違えないように。守るべきを討つべきを間違えて、必要のなかった悲しみが、生まれないように。そう願って言葉を吐いて、人前に立って声を上げて。……でもきっと、それも届かなかった人がいるのなら。……、わたしが。)(終わらせて、あげなくちゃ。)「………、まってて。」「わたしは、」「わたしは、ちゃんと、生きるから。」(窓の外の雨はいつしか雨脚を強めていた。君が割った窓からは強い風が吹き、君の……、彼女の髪を柔らかく揺らし、また。二人の頬を、濡らすのでしょう。)___君の吐き出した感情は雨のように。(”本人とリンクする性質がある硝煙皇女”がすべての弾丸を吐くのなら、彼女はそれをきっと、逃げることなく。……誰かに愛され、守られながらでもきっと、君の言葉を、すべて受け取って見せましょう。)(___________鋼鉄の雨が止んだ後。)(その場にあるのは銃弾をうけていびつに穿たれた壁と床、綺麗に磨かれていたはずの重厚なグランドピアノはバランスを崩し、悲しい音すら奏でない。置いてあったはずの楽譜は原型を失い、そこに立っていた彼女の鮮血と肉塊が白かった床を穢く汚している。火薬のにおいとお、血の匂い。人の肉の焦げる異臭は確かに部屋を満たし、駆け付けた職員はその光景を見て、呆然と立ち尽くし………、それから、彼女は。)(穴が開き、崩れ、広くなった窓はさらに大きく風を吹かせ、室内の瘴気を外へときっと連れ出してくれる。もともと晴れていた空に落ちた天気雨。それは気まぐれのように見えて、それでも確かに孕んでいた雨水を晴らすためには、きっと必要なこと。)(______彼女はそこに立ち、君を見た。)「ハリィ、さん。…………………気は、すみました、か。」(手先の欠けるだけだったその右腕を失いながら、彼女は一歩、君に近づくことだろう。…ちょっとだけだけど、おそろいだね、なんて。)(彼女と共に生を誓った奇術師の”ハートのエース”は盾となる。彼女の生を見守ると誓った遺児の”血液”は、彼女の体に”復元”を施した。)(彼女の決めた、生きる覚悟。彼女の飲んだ生の苦渋。彼女が背負った多くの命を、君の八つ当たりなんかに、消させたりはしない。)「……、ばかじゃ、ない。」(ひとつ、ひとつ。)「悲しいのは、大事なことで、」(君の言葉を拾いながら、否定しながら。)「こわいのは、やさしいことで、だから……っ、」(君を否定するような、自暴自棄の君を否定して、いつか、いつか君自身にであえるようにと、彼女はそう、願いながら。)「あしたが、みつからない、なら。……、私が、一緒に探す、から。」(どうかお願いと、彼女は君に手を伸ばす。)(___人に使わないほどの火力を出した後で、ひ弱な彼女が生きて君に歩み寄る。それはきっと少なからず君に動揺を与えるはずで、君とリンクしたその皇女にも影響がでるのなら。きっと、君に人差し指でも触れるその猶予くらい、あるはずだ。)【容量2消費__君の明日を訪ねる方法。】(自分が触れたものの真意を、消費する容量×1ロル間だけ、全ての要因を排除した状態で、自分だけが尋ねることができる。また[消費した容量×1ロル]度だけ、それを叶える行動を行うことができる。)「きか、せて。」(世間体も誰かへの贖罪も、すべてすべてを取っ払った、君の裸の感情を、どうか彼女に聞かせてくれ。矛盾があるならそれをそのままありのままに、どんなわがままだってかまわない。どうか、君の声を聞かせてほしい。)(____もし君が死にたいなら彼女は次に、確実に君を殺す。彼女に死んでほしいなら彼女は死ぬし、友人の仇がうちたいなら、彼女はきっと必ずそうするでしょう。生きたいのならドローンと職員をごまかすし、Arkの壊滅を望むなら…、彼女にできうるすべてをもって、それに尽力するでしょう。……悲しみで望みが潰え、何もしたくないのなら。君が何もしなくていいように、君の悲しみが癒える何かを、彼女はなんだってできる。)「アルマデルがとか、社会がとか、Arkがとか、世間がとか、そういうのじゃ、なくて、さ。………きみが、ほんとうに、したいことを。教えて、ほしいの。」(君の原初の、心の奥に眠るそれを、ただ優しくひきだすように。) (2/20 22:36:52)


敗北/ハリィ > 
_____もう一回で、決着が着く。もう一連射、気にせず叩き込んだら終わらせられる。ああ、撃て。さあ、撃つんだ____と、拳を握りしめる。さあ叩き込め、正義は我が手にあり、元はと言えば敵じゃないか。敵、敵、的。こちらが正義じゃないとしても、あちらは少なくとも悪じゃないか。支離滅裂な事なんかじゃない、おかしな事なんかじゃない。むしろ、なんでそんなに真っ直ぐに歩けるのかの方が、納得がいかない。なんで今更、八つ当たりなんてしてるのか?周りに言った言葉は皆、嘘だったのか?……バカを言うな。全部本当だ、いちいち本気で、本性で、本物過ぎて……だから、だんだん周りを見ていたら取り残されてるような気がして、眩し過ぎた。太陽は、美しい、けれど、太陽があると生きていけない生き物だっている。脈絡がないかもしれない主張にも、考えにも、どこかに本当があって。それを守るために影で遮って、結局何をしたいか分からなくなった。そんなこと、お前らには無いのかい?本当に。『……あ?弾切れ、だ……ァ?』初めて見た、現象だった。自分の能力に不調をきたしたような体感はない。なら、相手の_____いや、違う。彼女の能力に接するより前、それ以前の段階で「撃てなかった」。馬鹿野郎、と言う誰かが、何かが、弱く、しかし確かに叫ぶようで。バカな話ばかりだ。何をしたかったんだろう。差し伸べられた手を、振り払ってきた理由なんて結局……何だったんだろう。迷いからか、悪運尽きたか。『したいこと……ね。本当はな、かっこよく仇……討って来るはずだった。でも、間抜けは間抜けを重ねるもんで……。色んな話を聞いたら、何が敵だかわかんなくなっちまった。だから、やり合わなきゃいけない敵が、多くってよ……色んな覚悟を決めなきゃならなくなった。』疲れたように座って、話した。『最初は、アークの誰でも、殺す覚悟。アークより強い奴が出てきたら、アーク抜きでそいつらと戦う覚悟を。アークが簡単に僕らなんて殺せるっていうなら、死ぬ覚悟を。そいつらにも事情があるそうなら、話を聞く覚悟を。そいつらにも戦わなきゃならないわけがあるなら……話を聞いてから納得しようって覚悟を。それに、第三支部の件も、だ。幾らかなら街の犠牲だって、覚悟する覚悟』それは、手品で言ったら種明かしだ。『そうしたら、ひとつひとつ本気で向き合うと……矛盾してくるもんだ。その場その場、みんな叶えたことをやる気になると……僕は器用じゃないからさ、訳分からなくなるのさ。覚悟ってのには、代償がいる。自分に必要なもんを賭けるから覚悟なのに、な……。そうしたら、賭けてばっかりで、何にも無くなっちまった。』興ざめだろうか、間抜けだろうか、拍手をそれでもくれるだろうか、こんな奴がいたんだと、笑って、冗談のように誰かに話すだろうか。『お前を含めて、アークだった連中だって……結局は、許せねえ……。裏切り者!くたばっちまえよ!と、本気で思う。支部長だって、なんで黙ってたんだよ、話してくれたらアンタを撃つようなことにならなかったよって、本気で思う。ルクスにだって、なんでやったのかを、本気で、聞きてぇさ……はは、こいつだけは、叶ったか。』自嘲ばかりだ。憎しみばかりだ。優しくない願いばかりだ。『皆、本気の気持ち、一番根っこの、やりたいことだったはずなんだ。なのに、急にみんな「仕方なさそうな理由」が出てきて。色んなことの延長で、最初なんだったか、もう無くなっちまった。』けれど、混じり気のない、本当にやりたいこと、の割れた欠片だ。『____結局は、まあ……アークの奴らが、ルクレルク人、だっけ……アイツらも、みんなみんな、アルマデルだって綺麗じゃない。死ねとは言わないから、どっか遠く、遠くでいい。生きてける場所で、お互いにいがみ合わない場所まで……いなくなって。僕ァ、元々は建築家だから……頼まれたら、きっと、ヒーロー面して、そんな場所が見つかったら、家でもなんでも、作ってやってさ。奴隷も辞めちまえ!なんて、言ってみて……。』夢物語で、わがままだ。自分勝手だ。まとめてみても、振り返っても、自分本位になっても……敵愾心はそのままだったり、差別心もそのままだ。けれど、それでも……。アークも許せない、多分君にも引っ込みがつかない、アルマデルも信用が覚束無い。それが嫌なんだとしても、罪なき人のヒーローでいたいと、そうも言っていた。『そしたら、アルマデルの仲間同士殺し合わなくって。そして……僕みたいな、間抜けなやつはもう沢山だから、そんなヤツらも、増えたりしなくてさ。お前ら、助けてやったからな……とか、言いたかった、なァ。ぜぇんぶ、僕の手柄の一件落着(ハッピーエンド)だ。』叶えられるとしたら、きっといくつも無いだろう。真っ直ぐに叶えようとしたら、危ないものも多々あるだろう。……それを知るかはともかくとしても。『それで____それで。第八小隊(うちの)やつに、オトリに、一日中すっごい、自慢して……褒められたかった。』きっと、聞いてくれたこの一瞬には、何の罪もないはずだから。『……優しく、ねぇよなあ。優しく……ねぇ自分を……まず褒めてやりゃよかったん、だろうなァ……。』優しくない願いでゴメンな、優しくない思いばかりでゴメンな。なんて、友達に悪ふざけを謝るようにはにかんだ。 (2/20 23:45:38)


雨夜鳥 志乃紀 >
 (窓の外。一瞬の雨に濡らされた大地は再び太陽に照らされて、露を纏った木々やその葉は、荒れたこの暗い教室に一筋の光を届けてくれるのでしょう。座り込んだ君の傍に、彼女もまた、力なく座り込んで。)(______昔の話を、しましょうか。)(ルクレルク人を守ってあげる優しいおうちに、女の子は生まれました。女の子は優しく優しく育ち、時にj嫌なこともあったけれど、健やかに育ちました。_女の子のお兄さんはある日、ルクレルク人をいじめる奴らを成敗しに、悪い奴らのところへもぐりこみました。けれど、お兄さんは悪い奴らをやっつけることができませんでした。_弱虫なおにいさんを怒って、女の子の住むおうちの偉い人は、お兄さんを殺してしまいました。)『本当はな、かっこよく仇……討って来るはずだった。』(_女の子は、お兄さんの代わりに悪い奴らのところへもぐりこみました。お兄さんの代わりにルクレルク人を守るため。おにいさんの無念を晴らすため。)『色んな話を聞いたら、何が敵だかわかんなくなっちまった。だから、』(……_女の子は困りました。悪い奴らだと思っていた人が、倒さなきゃいけないほどの悪い奴らではなかったからです。)(ルクレルク人がいじめられているのは、だれかのせいではないこと。大昔の、もう死んでしまっている人のせいで、そこには悪い奴なんていないことを、女の子は知りました。_女の子は焦りました。このまま家に帰ったら、お兄さんのように、殺されてしまうと思ったからです。)『色んな覚悟を決めなきゃならなくなった。』(_女の子は殺されないために、人を一人殺しました。自分が殺されないために、生きるために人を殺しました。)「………、うん。」(彼女は君の言葉を聞きながら、穏やかに相槌をうった。一つ一つを受け止めて、それを確かに飲み込んで。生まれたばかりの柔らかい価値観と感覚でそれを受け止めて、ああ、なんだ。案外ひとってみんな一緒で。柔くてあったかくて、さみしくてかなしくて。愛おしいんだと、彼女は、やっぱり思うのです。)(……_女の子は、怖くなりました。自分が、敵だと思っていた悪い奴になってしまったこと。人を殺してしまったこと。いままで正しいと思っていた、おうちに住んでる偉い人の言葉が嘘だったこと。_女の子は、自分が空中に投げ出されたみたいで、怖くて怖くて泣きました。それから、)(_それから、生きる覚悟をきめました。悪いことをしたことを背負う覚悟。自分で悪者を定める覚悟。自分から、逃げない覚悟。)『裏切り者!くたばっちまえよ!と本気で思う。』(そんなことを言われてしまう、悲しい悲しい覚悟も。__女の子は、君のその恨みもつらみも、憎しみも悲しみも、全部飲み込んで、受け止めようと手を伸ばします。__それが、彼女の背負った覚悟だからだ。)『どっか遠く、遠くでいい。』(彼女は穏やかに目を閉じる。だって、君の語ってくれたそんな話が、あまりにも。)『生きてける場所で、お互いにいがみ合わない場所まで……いなくなって。僕ァ、元々は建築家だから……頼まれたら、きっと、ヒーロー面して、そんな場所が見つかったら、家でもなんでも、作ってやってさ。』(あまりにも暖かくて、優しくて。……彼女もいっしょに、そんな夢を見たくなったから。)(薄くぱちぱちと目を開き、彼女はそっと、君の頬に手を伸ばす。かすかに開いた唇で、音にならないままに、)『すてきな、ゆめ。』(なんて、小さく泣きながら囁いて。) (_お兄さんを殺した、大事なおうち。大事なおうちを悲しめる、優しい人たち。女の子はどちらを憎んで、どちらを倒せばいいのか分からなくなりました。)(だから。)『言いたかった、なァ。』(ほかのだれも聞けやしない、彼女と君の二人のお話。二人の声の届かない一般職員は、きっと戸惑ってしまうでしょう。そこはだって、きっと。片腕を失い顔に血色をなくした少女と、その犯人の一人の女性が、まるで野原で夢を語るように、やさしくやさしく寄り添っているのですから。)「ん、ん。よし、よぉし。」(君のはにかみにそうっと緩く首をふり、伸ばした左手が君にきっと届いたのなら、小さな子をあやす様に、ほめるように。偉い偉いと称えるように、よく頑張ったといたわるように。)(きっと、きっと大丈夫なはずでしょう。絡まった糸はほどけたはずだ、君の指針は見つかったはずだ。心に残した小さな自分を、生きるために蔑ろにしてしまった大事な自分を見つけられたのなら、今度こそ大丈夫なはずでしょう。)(……_女の子は、自分の手足に絡みついた糸をそうっとほどき、その糸でマフラーを編みました。さんざん迷って絡まったから、女の子はもう、糸の使い方を覚えたのです。)(血色の失われつつある顔で、彼女は君を、君の願いを聞き届け。それから、君にお願いするんだ。)「いつか……、いつか、いつかね。…わたしじゃなくても、いいからね。」「…私の、Arkにいるいもうとが、ね。…このたたかいで、おうちをなくしてしまったら。…そうしたら、ね。おうちを、たてて、ほしいんだ。」(まだ小さな女の子。それならきっと、君も恨まなくたっていいはずなんだ。)「お願い、たった一人の、どうってことない”建築家”さん。」(いつか君のしがらみが晴れたとき、いつか、いつか。それだけぽつりと言葉を零し、彼女は眠るように目を閉じる。…貧相なこのよわい体じゃ、このままでは生きられやしないだろう。例えばそう、誰かが鼻歌でも歌ながら、”時間を止めて医務室へ運んでくれない限り”。) (2/21 00:40:04)


敗北/ハリィ > 
『ああ……なんだよ。止んだじゃねぇか、雨が。最初っから、うるさかった……もんなァ……。』雨が、止んだ。それと同じように、雨宿りの用を失った軒下から誰かの去っていくように。確かにあった彼女の体温がじわじわと、しかし確かに失われていきそうになっていた。自分の与えた傷だろうか。まかり間違って、死ねなんて言ったからだろうか。彼女から投げかけられた約束に、一拍、間を置いてから。『無茶やるなら、最初から勝つ算段つけて喧嘩はしろよ。だいたい、僕の話、全部聞いたか……?助けたりなんて、しねぇかもしれねーぞ。』自分に言い訳をする。カモネギ オトリ に言い訳をする。アークを許せない誰かに、まだ悲しくて仕方ない誰かに、言い訳をたくさんした。こんな奴が居たら、こんな優しい奴がいたら。僕らの、僕の敵でも____助けていいよな。『ついでに、僕は仲間をミスで皆、殺しちまって、失業した。その時に世界を多く回ったからな、多少色んな国は知ってるつもりだ。逃げ切るのだって難しいことじゃねぇ……。約束なんて、知るか。』『と、言いたいが。』彼女を、悪態をつきながら抱える。孤独のエチュード。それには時を止める作用がある。だから、それを歌いながらなら医務室まで走れば問題なく、間に合う。しかし___それはあくまですぐに状態を呑み込めたらの話、すぐさま閃いたらの話、すぐに折り合いが着いたらの話。その虚弱な体には、急場で担ぎ込む以上、そのくらいの理不尽でも、運次第では間に合わない可能性もまたあるだろう。『ただの建築家。そいつはいただけねーな。……クビにはなったけど……アルマデルにも、逃げてきたけどな。天才と呼ばれた女なんだぜ______僕は。』ただし____そこに例外が存在する。アルマデルを知り尽くした人間がある。構造を、外壁のちくいちに至るまで面倒を見た人間がいる。あらゆるショートカットを可能にする方法を知っている。『まだ、建物弄らせたら……第三支部(ロシア)1なんだ。ウチがなくなろうがなくなるまいが、お前ら家族にはぶったまげる豪邸、プレゼントしてやるし、依頼されたからには____』『きっちり引き渡して、楽しく暮らしてもらうまでが、プロの仕事だろうがよォ____ッ!!』ぐちゃぐちゃなメロディ、バラバラな音階、軋むように叫ぶ歌声は、到底聞いていてもいいものじゃあない。けれど、スタートの合図にはちょうど良い。ああ、ゴールは見えないが、号砲はなった。なら、走り出さなくちゃ______ きっと、君が目覚める頃。医務室でまた明日か、更にまた別の日か、意識を取り戻す頃には。冷めつつある体温の隣に、一枚の領収書があることでしょう。『貴女とまた会ったら、貴女のことをより深く知れるような、貴女の日常を知るお時間を建築費用として頂戴いたします。』Harry Van Houten. _____貴女に救われた約一名の天才建築家より、親愛を込めて___ (2/21 01:22:26)