大江 楠美 > 罪悪感なるものを自覚したあの日以来、私は様々な体調不良に悩まされていて、どうせ目が冴えて首が痛くて息苦しい毎日なのだから、夜11時から朝の7時までベッドで横たわり百合子の顔を思い出す代わりに夜の街を散歩しようと思い至ったのは当然なわけで。手袋を着けずに外出したことを後悔させるような寒さの、2022年1月8日の深夜。俯いて歩く、薄暗い路地の中、その空気感には似つかわしくない派手な配色の光を足下に見た。見上げると、私を見下ろすカラフルな人工光の中に。『dead man ・ Las Vegas』因縁があった。 (1/6 11:39:43)
大江 楠美 > 違和感。不自然。嫌悪感。ここは寂れた商店街の裏道だったはずなのに、なんでこんなところに、こんなに本格的なカジノがあるんだろうか?そんなことを考えながら、身体は勝手に店内に入っていく。やはり私は私だったようだ。もはやこの気性は扁桃体の損傷一つでは片付けられないほど根深いところにまで息づいているのかもしれない。(わぁ、すご……)中は瞳孔を焼き尽くさんばかりの光に包まれていて、辺り空中——金!金!金!偶に銀!バカラ・ポーカー・ブラックジャック・ルーレット・ダーツ・巨大スロット・ぱっと見、なんでも揃っているようだったが、客は私一人。(ポーカーは無理そうだ)取り敢えずチップがなければ何も始まらない。入り口に立っていた頃の、サイコロを振ることに対する嫌悪感は既に消え去っていた。(百合子、これは”あぶないこと”じゃないよ)些細な葛藤はそんな自己弁護により閉廷。勝ち取った示談金は5ドルチップが10枚だった。 (1/6 11:49:01)
大江 楠美 > 「….on my shoulder~~~~♪」物凄く精巧に作られている、$5カジノチップにこの『カジノは当たりだ!』という思いが溢れ、それは歌として口から表現された。取り敢えず何からやろうか。そう思いつき、取り敢えず手近なテーブルに座る。ブラックジャックだった。ディーラーは木製のピエロみたいな外見をしていて、毎度こんな特殊メイクをするか、それともロボットだとしたら全テーブルにこれを配備するのか。何にせよ。(お金かかってるなぁ…)そう思わずにはいられないクオリティだった。手元の$5チップを取り出し、まじまじと観察する。美しい。もしかして、このコインは生きてるんじゃないだろうか。そう信じてしまいそうになるくらいには。 (1/6 12:23:54)
大江 楠美 > 「…あ、失礼しました」木製のピエロがこちらをジッっと見ていた。お前、やるのかやらないのか、どっちなんだい。そんなことを尋ねているようだった。上着の右ポケットから$5チップを一枚取り出して、テーブルに置こうとすると、その前に一枚のビラを手渡された。『ちゅうい』『当カジノでエたしさんは24hourい内に全てショうひしてください』『い反がかくにんされたバ合、おきゃくさまにはここではたらいていただきます』(小学生が書いたのか?)このビラが言いたいのはこういうことだろう。『注意。当カジノでチップと交換した資産は24時間以内に全て消費してください』『違反が確認された場合、お客さまにはここで働いていただきます』つまりゲームセンターと同様のシステムで、コインを持ち帰れないわけだ。このカジノの尋常ではない空気感。喋らない店員。(もしかして、カミサマか) (1/6 12:24:04)
大江 楠美 > 「丁寧にありがとうございます。あ、このビラって資産になりますか?」そう木製ピエロに訊くと、首を横に振った。「分かりました」そう言って$5チップを置いた。カードが配られる。カードは、ダイヤのAとハートのQ。合計21。ディーラーの一枚目のカードはスペードの5だった。(露骨すぎる) (1/6 12:24:15)
大江 楠美 > テーブルの上で手を左右に振る。スタンドのハンドサイン。カードは交換されない。ディーラーがカードを表にすると、2枚目はハートのK。合計が15なのでヒット。3枚目はダイヤのK。合計25,バーストだ。私の手元に$10チップが返された。ディーラーがわざとらしく両手を上げて『まいったなぁ〜』みたいなジェエスチャーをする。これは9割方カミサマに違いない。まるで私のために生まれたかのような。 (1/6 12:24:23)
大江 楠美 > 他も全てそうなのか。期待値が1を上回れば店側が損失を被ることが確定しているスロットなる設備に興味が湧いた。「ありがとうございました」そう言って席を立つ。換金所の前方にある無数のスロットマシーンの中で『Vegaslot』という名のマシーンが一際目をひいた。最低ロット$1、最も倍率が高い777は合計で1000倍のリターン率。普通、777で1000倍などというのはあり得ない数字だ。100倍当たりが相場だろう。こんなに割の良いスロットマシンがあるにも関わらずこの過疎りようなのだから、9割9分このカジノはカミサマなんだろうなと思いつつ。椅子に座り、今時珍しいアナログ式のスロットマシーンに様子見の$5を投入した。ズンズンズンズンズンズン—悪役が登場する時に流れるような音楽と共に一列目が止まる。ビン! [ 7 ]次に[ 7 ] [ 7 ] スリーセブンだ。ルートヴィヒ・ベートーベンの第九が流れ、排出口から$100チップがバラバラバラと足場の箱に流れ出る。合計$5000。サイコロは振り直していないにも関わらず、この大勝ち。カミサマ確定だ。(面白い)ずっしりとした重さの箱を換金所に持っていく。にやけそうになる顔を普段使わない表情筋で必死に抑えた。 (1/6 12:53:16)
大江 楠美 > 換金所の、受付には木製の多分女性らしい木製ピエロ。箱をカウンターに置くと、店員は奥から黒革のカバーがついたメニュー表を取り出して、こちらに手渡した。そこには『好きなジュース200ml $1』『LSD 0.5mg(吸い取り紙) $50』『金髪碧眼美少女 $100000』と、いろんなものがあった。しかし別段興味を引くものはなく、ペラペラとページをめくる。6ページ、7ページ。8ページ、8ページ目に、目が止まる。そこには『大江 一憲 $1』『大江 裕子 $200』 『支倉 百合子 $8000000』の文字列。(…………)「……あぁーー」思わず額に手を当てて、眉間に皺を寄せてしまうような文字列。(価格は……需要で決まるってこと)まいったと思った。もうここ2日寝てないというのに。「すみません、この支倉 百合子っていうのは……」と言いかけたところで、受付のピエロが裏手から、でかいゴルフバッグを持ってきて、中身を見せた。中には全裸で胎児のようにくるまって、眠る百合子の姿。 (1/6 14:24:10)
大江 楠美 > 「…………嘘だ」顎に力が入る。奥歯が痛んだ。虫歯の前兆か、最近歯磨きサボってたから。最近知り合った罪悪感さんが何やら猛烈に私の中で騒いでいたような気がして。そいつを黙らせる為にLSDを2枚買って、一枚舌の上に乗せて、換金所を離れた。 (1/6 14:24:13)
大江 楠美 > 『取り戻せるかもしれない』最初にそう思った。あのままあそこにいたら、何も無かったみたいに目を開きそうだった百合子の姿を見て、そう思った。(失ったものを)そんな資格が私にあるだろうか。ルーレットに腰掛けて、箱の中身をテーブルの上にぶちまける。乱数的に散らばるべきはずのチップは、不自然な挙動を見せて、その全てが赤の五番にストレートアップされた。当たれば36倍率。もはやこの生きたカジノは隠す気もないようで。ルーレットの上を銀色の玉が回り始めた。(百合子を買い戻すべきか)買い戻してどうする。カミサマなら、人を生き返らせるくらいできるだろうけど、それでどうする。百合子が何て言うと思う。(怖いな……)玉が勢いを失い、赤いマスの上に止まる。赤の五番。「え……今なんて…」怖い?私が、怖いって……。目を見開いて呆然とする私の前に、$10000チップが18枚差し出された。 (1/6 14:45:13)
大江 楠美 > 人生で初めて知った感覚に戸惑いが隠せず、『Vegaslot』に$10000チップを一枚投入して、それは1000枚に増えて帰ってきた。この感覚の正体を知りたい。現在合計残高$10,169,945。プラチナと純金で装飾されたチップが山盛りに入ったバケツを受付まで台車を使って運ぶ。木造女性ピエロがまた黒革のファイルを渡してきたから、すぐにファイルを開いて、相手に向けて、一つの項目を指差す。『支倉 百合子』 (1/6 15:22:52)
大江 楠美 > ピエロはまた裏手に言って、10秒くらい経って、デカい、青いゴルフバッグを私の前に置いた。粉が辺り中を舞っていて、なんだと思って辺りを見たら、バケツの中のチップが粉状に変化して、空間に消えていた。----ゴソッ……という音が聞こえた。バッグの中から。右手でジッパーを摘んで、開く。こう言う時手が震えたり、喉が渇いたりするものと聞いていたけれど、そんなことはなく、開いた先には1年前の今くらいの季節にホテルのソファーで寝ていた、あの頃の百合子の顔があって。「んぁ……ふぁぁ……ぁ…くすみちゃん……」寝ぼけてるのか、だらしない、ニヤけた顔でそう言う。(無理もないよね)だって、一年も寝ていたんだから。「ぁ……ぇ…………くすみちゃん……あれ、わたし…なんで…」6秒経過して、だんだんとその惚けた顔が青ざめていって。「えっ、なんで、バッグ!?あ、あれ、銃は!?」身動きが取れないバッグの中でじたばたと暴れ出して、なんだか、とてもおかしな気分で。———今まで、罪の自覚から逃げて、忘れようとしていたけれど、あの頃いつもそうだった。百合子と居ると。「ふっ、もうっ、百合子ったら」思わず微笑んでしまうって。ねぇ、百合子。 (1/6 15:23:46)
大江 楠美 > 残り残高$2169945ひとしきり暴れて、疲れたのか、冷静になったのか。「……えっと、もしよかったらで良いんだけど、その、手を貸しもらえたら、嬉しいかな……なんて」百合子は目を決して合わせないようにしながらそう言うから、手を貸して、腕を引いてバッグから引き摺り出して次は足を掴んで「まっ、まって!!」出してやろうとすると、手の平をこちらに向けて「足が……その…しびれて…」「あ……そっか、ごめん」相変わらず繊細な身体をしてるんだね、百合子。「……くすみちゃん、変わったね」下半身をバッグの中に入れたまま、そう言って、表情は少し寂しそうに見えた。「そう?」あの日のことは、覚えているのかな。「服、買ってくるね」そう言って、バケツから$10000チップを取り出して受付に向かう。腕時計を見ると、時間は午前の4時を示していて、ここにきてから時間が経っていた。『かわいいドレス $10000』と、ちょうど良いものがあったからそれを買った。奥から出てきたのは、マネキンが装着した、フランス革命前に貴族が着ていたような、深い青色のドレス。 (1/6 16:09:45)
大江 楠美 > 「どうやって着るんですか?」目に入ると同時に、そう言うと、木造ピエロがマネキンを持ったまま、受付から出て、こちらへ来て、私の服に手を掛けて脱がそうとする。見た目にそぐわない力強さで「あ、違うんです。着替えるのは百合子の方です」そう言う。ピエロの動きはピタッと止まって、百合子の方へ向かっていった。「え、なにっ!?ちょっと、きゃっ」巧みに着替えさせられて、数十秒。百合子は童話の姫、シンデレラのような姿になって。天井のライトが爆発するような光量になって、耳から聞こえるスロットやルーレットの音は、一つのオーケストラのように聞こえた。うらめしい視線を百合子から感じた気がして、ふと見ると、不満げな視線をやはり向けていた。目があうと、0.2秒の速度で目を逸らす。百合子、ごめん、大好きだ。 (1/6 16:10:01)
大江 楠美 > 「似合ってる」私がそう言うと、頬を赤らめて俯く。あの日起こったことだとか、刺された事とか、カミサマの事とか、話すべきことは本当に沢山あったのだけど、そんな面白くないことに、この貴重な時間を使いたくは無かった。百合子も、私に何も質問しない。だから、手を取る。向こうに見えるレストランを指さす。「何か美味しいものを食べよう」そう言って、右足を前へ。何も訊かないのは百合子、百合子も、私と同じ気持ちだからだよね。 (1/6 16:10:03)
大江 楠美 > 「……レストラン?」百合子はそう言って、その場から動かなかった。「どうしたの?」そう訊くと、百合子はしばらく考え込むように、額に左手を当てて、言った。「……くすみちゃん、もしかしてまだやってるの……?」悲しみと怒りが混じったような顔で、そんなことを言う百合子。『やってる』何を?ギャンブルを?それならこの明らかにカジノな場所をみて最初に言うはず。清掃業?確かにやってはいるけれど、ここにきてからそんな素振りは見せなかった。「やってるって、なにを?」そう訊くと、百合子は小声で「……あぶないお薬」 (1/6 16:38:43)
大江 楠美 > あ……………………「………あそこ、レストランじゃないなら、何があるの?」「トイレ」トイレか〜〜〜〜。違うんだ百合子。私は、その、やり切れなくて、それで。「そ、そうだよね。わたし、負けちゃったもんね。しかた…ないよね…っ」前髪の奥、俯いた顔に涙が見えた。まってよ、違う、違うんだ、そんなつもりじゃなかった。「ちっ、違うんだ、私、実は最近、ストレスがひどくて、不眠症で、その薬の副作用で「嘘!」「嘘なんて!」「嘘だよ!くすみちゃんいつも嘘つくときに右手を隠すから分かるよ!」「……えっ、そんな」 (1/6 16:40:05)
大江 楠美 > 本当に右手を後ろに回していた。…………清掃業の癖だ。銃を隠す癖だ!しばらく沈黙が続いて、百合子が肩を震わせて、口を開く。「何かまた理由があるのかな、って何を言わなかったけど、私は生きてて、くすみちゃんは背が伸びて、気がついたら裸でバッグの中で目が覚めて、こんなの何もかもおかしいよ!」待って、待ってよ。違うよ。そんな。「全部覚えてる!自分の脳みその色だって覚えてる!本当に痛かった!なのに、まだ、またっ、あぶないことしてるなんて、わたしのことなんてっ、どうでも良いんだね!!」そんな……お願いだから、そんな酷い事言わないでよ。「はぁ、はぁ、…………あ」顔を赤くした百合子が、こちらを見て、目を見開いて。「…………え」私の目から、涙が出ていることに気がついた。 (1/6 16:40:14)
大江 楠美 > 心底驚いたと言うような顔で、百合子がこちらを見ている。私も驚いてる。多分、産まれた時も泣いていたかなんて分からないけど、それ以来か、涙なんて流したのは。『ついてねぇなぁ、1発で逝っちまうなんて。お前、罪悪感とか無えのか?……お友達が脳みそぶちまけて死んだってのによ?』『おなじ学校に通えたら、楽しいだろうなぁ……なんて』『ほ…本当に、わ、わたしが勝ったら、あぶないことは辞めてくれるんだよねっ』おいLSD、お前まで私を裏切るな。罪悪感なんかの味方につくんじゃない。 (1/6 17:03:18)
大江 楠美 > 幻聴なんて聴かせるなっ!どうしたら、この苦しみから逃れられる。こんな奴が背中に張り付いているうちはなにやったって楽しくないよ。生きてる限りは、ずっと付き纏うっていうなら死んだって。『だから、刺されたの?』「違う!!私はっ」私は、楽しければそれで良かったのに。滲んだ視界の中に映る、青いドレスを着た百合子。違うんだよ、今百合子が考えてるようなことは違うんだよ本当は「私は、百合子にも、楽しくなって欲しいって、だから、あの日っ」あの日、ロシアンルーレットに誘ったんだ。それで、私の感じてる楽しさを知ってもらえたら、百合子が自分で稼いだ賞金で、家からも恋人からも離れて、学校に行けたら、どんなに楽しいだろうって。本当に、それだけだったんだ。 (1/6 17:03:25)
大江 楠美 > 「同じ学校に行けたら、きっと楽しいって、百合子が言ったんじゃないか!わたしがあぶないことばかりして稼いだお金つかえないって、わたし知らなかった!弾が出ることも、自分のことも百合子のことも!だから、あんなこと……」(何やってるんだ、私らしくない。まるで普通の人間みたいじゃないか)「本当にごめんよ……ごめんなさい……寂しいよ…百合子……」(膝から崩れ落ちて、袖で目元を抑える)数秒たって、そっと背中に温かいものを感じて。百合子が背中から抱きついていることを数十秒後、涙が収まった頃に知った。 (1/6 17:15:44)
大江 楠美 > 残り残高$2159945状況が落ち着いて、ここに来た理由、このカジノのルール、今までの事を百合子と話した。臨死体験というのは実在するらしく、宇宙の一部なったような感覚の後、母の腹の中にいると思ったら、ゴルフバッグの中で目が覚めたらしい。わたしがアルマデルという研究所で働いていると言うと『もうあぶない仕事じゃないんだね!』と喜んでいた。今度は割と安全な任務をもらえるように。(白雪さんに媚びてみようかな)そんな事を考えていた。「……でも、あと20時間で二百万ドルも使い切れるのかな」百合子が心配そうな顔で、そう言った。「まかせて、秘策があるから」「えぇ?」(百合子に紙とペンを百合子に手渡す)「これで握手券を作ってほしい」百合子は心底、というか確実にまだ私にクスリが残ってることを心配しているような顔をしていた。 (1/6 17:29:49)
大江 楠美 > 薄い筆圧の、僅かに丸文字で”あく手けん”と書かれたそれが、手元に11枚ある。「これを一枚21万5千ドルで10枚買い取らせて。最後の一枚はえぇと」(2,159,945-2,150,000=9,945)「最後の一枚は9945ドルで買い取らせて」そう言うと、百合子は少し考えた後「……あぁ!」と手をついた。「それじゃあ、さっそく、使わせていただきます」そう言って、あく手けんを1枚手渡して握手、1枚渡して、握手。それを何回か繰り返し。最後の一枚を渡して、握手をしてると。「得たものを失わなければならないって、たぶん、わたしもだよね」百合子はそう言って。「……多分、そうだと思う。カミサマって大体みんな性格悪いから」握られた手に力が入る。(意外と握力あるんだ…)百合子の方を見ると、真剣な顔で、こちらを見ていた。 (1/6 18:15:41)
大江 楠美 > 「ねぇ、最後にキスして」ぼそっと、百合子がそう言った。(……?)「え、今、なんて?」「……2回も言わせないで」耳の先を赤くして、百合子はそう言って、そっぽ向いた。(キス……キスってあのキス…。いやでも私はそういうのには興味がなかったし。そもそも同性同士で、そうか、敬愛や従属や親愛を意味するキスをしろって意味なら、筋が通る話だ。とりあえずじゃあ、おでこ)「じゃ、じゃぁ、おでこに」「口にして」 (1/6 18:15:46)
大江 楠美 > 分からないよ百合子、どうしてしまったんだ。死ぬ前はもっと控えめな性格じゃなかったか。これもイコールの影響なのか。「お願い。そしたら、あの日あったこと全部赦すから」それを聞いて、迷う間も無く百合子の背中に背を回した。目が合う。百合子は目を瞑る。近づいて、鼻息を感じて、唇が触れて、8秒間そのままだった。唇が離れると、百合子はボーッとした顔をしてて「……私のこと、好きだったの?」って聞いたら「好きでもない人のために、命なんか賭けられないよ」って返された。そりゃ……そうか。私の中でサイコロが振られて、何かの構造が変わる感覚がした。それはLSDのせいか、ファーストキスのせいか、百合子と分かれる寂しさのせいか、イコールのせいか。分からないけれど、今なら、失ったものを何だって取り戻せる気がした。 (1/6 18:15:56)
大江 楠美 > あれから、何も言わず抱き合ったり。外に出て、商店街で潰れかけてるラーメン屋に行って。そこがまた意外と美味しかったりして。二人でカジノの隅にあるソファーで木造ピエロからふんだくってきたトランプでババ抜きをしたりしたり、寒そうな木造ピエロにコンビニで買ってきた手袋をつけて回ったりして、穏やかに時間が過ぎて。気がつけばもう時間も残り少なくて。ソファに座って。「百合子、大丈夫だよ」 (1/6 18:46:21)
大江 楠美 > 根拠もなく、直感(/ライセンスx3)で、私の肩に頭をもたれかける百合子にそう言った。「世界には、いろんなカミサマが居て、イコールがあれば何だって出来るから」「だから、また会えるよ。絶対」百合子の方を見る。青いドレスを着た少女は眠っている。残り時間は6分。トイレに行って、残ったLSDを水で流して、ソファで眠る百合子の隣に座る。上着のポケットからアルマデル職員全員に支給されている、小指の爪ほどの大きさの錠剤、自殺薬を取り出す。これを百合子に服用させれば、私は百合子を”失い”生きて帰ることができるだろう「…………また、会いに来るから」薄い唇をかき分けて、僅かに開いた口の隙間から錠剤を入れる。「……待ってます」ぼそっと、そう言って、目を閉じて、彼女は2回目の死を迎えた。店を出て、腕時計を見る。時間は午前2時。24時間が経過していた。「…………知ってたよ……」丸一日ばっくれたんだ。こりゃ小隊長に殺されるな。百合子、意外と早く会えそうだよ。なんて思いながら、昨日と何も変わらない街並みの中へ身を戻す〆 (1/6 18:48:30)